一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟は12日、インターネットでのアンケート調査「アニメ業界とAI(人工知能技術)に関する意識調査」を実施し結果を公表した。本アンケートではアニメ業界従事者を含む3,854件の回答が集まったとのこと。

【画像】Image by Gracia Dharma via Unsplash.com(他12枚)

結果によると、アニメ業界従事者は非アニメ業界従事者と比べてAI技術への期待は高いものの、「一部または全面的に規制すべき」との声が過半数を占めているとした上で、生成AIを使用することで制作現場が効率化することを希望する声も多かったとしている。

一方、学習元データの権利関係があやふやな現状のままAIを早急に制作現場に投入するということまでは想定していない人も多いことが明らかになったという。

※以下、アンケート調査結果より※

今回の調査は ①NAFCA会員へのメール ②X(旧Twitter)などのSNS、以上2つの方法で告知しましたが、2023年6月時点ではまだ会員数が少なかったことも影響し、回答者のほとんどは非会員となりました。回答者の年代は20代が最も多く45%、次ぐ30代が34.4%と、若手が大半を占めています。またアニメ業界従事者であると答えた人数は全体の1割程度となりました。アニメ業界従事者の職種内訳は「作画(原画、動画、動画検査等含む)」が最も多く38.5%、次いで「CGアニメーター/デザイナー」12.5%、「キャラクターデザイナー、作画監督」が12.3%とアニメの絵を描く職種の方が多く、声優、美術関連などが続きますが、アニメ業界の職種は非常に多種多様であることがこの解答からもわかりました。

具体例を伴わないAIと規制に関する設問「AIの使用に関する規制について、あなたはどのように考えますか?」への回答は「例外を除いて原則規制すべき」が46.3%、「全面的に規制すべき」が27.4%、合わせて73.7%と何らかの規制が必要だと考えている割合が7割を超えました。一方で「極端なもの以外は規制すべきではない」が16.1%と、技術の発展を期待する声も存在することがわかります。この結果を他調査と比べると、読売新聞社の全国調査(https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20230521-OYT1T50113/)で「規制が必要」と回答していた割合(86%)よりも12.3ポイント低い結果となりました。

具体例を伴う設問で見ると、「有名人か一般人かを問わず、特定の個人の声になれるボイスチェンジャー技術」へは81.1%が「規制が必要」だと考えるとともに、「『AI利用禁止』と明記しているデータでも機械学習に利用する行為」への規制は87.4%が「規制が必要だ」と回答しており、アニメ業界従事者やファンは著作権への意識が非常に高いことが窺えます。

しかし「実在しない人物を登場させる」こと、および「実在する街並みをAIで変換使用すること」の設問では「規制すべき」と答えた割合がぐっと下がり、順に60%、29.7%となり「規制すべきでない」と答えた割合もそれぞれ16.1%、34.8%と、実在の人物の権利(肖像権等)を直接的に毀損しないのであれば、闇雲にAIを規制するのではなく、アニメや漫画の素材として活用する道があるのではないかと考えている人も少なくないようです。ただし、「実在しない人物」および「実在する街並みの改変」に関する設問では「どちらとも言えない」が23.9%、35.5%と他の設問と比べて大きく増えており、条件によっては規制すべき/するべきではないの回答が変動し得る状況と言えます。

さらに「もしもAI利用を規制するとしたらどのような規制が望ましいと思いますか?」の問い(複数回答可)に対しては「学習元として利用することに了承した著作物のみを使用し、無断学習に罰則を設ける」および「AI生成物であることを明示する」を約80%の人が選択しており、ここでも著作権への意識の高さ、また人間が生み出したものとの差別化が必要だとの意識が窺えます。

各設問に対する回答をアニメ業界従事者のみに絞ると、非アニメ業界従事者と比べて全体的にAIに対する期待が強いことが数字に表れています。それでも全体の数字としては規制を強めるべきとの見方が優勢ではありますが、非アニメ業界従事者の75.5%が「全面的に/例外を除いて規制すべき」であると答えた一方で、アニメ業界従事者で同様に回答した割合は57%にとどまり、新しい技術への期待が見て取れます。これは、常に人手不足、長時間労働といった環境に置かれている業界だからこその結果と言えるかもしれません。

ただし手放しに新しい技術を歓迎しているとは言えないことが、フリー記述欄からわかります。アニメ業界に従事する人たちのフリー記述欄の意見に目を移すと、最も多く使われた語句は「期待」と「懸念」であり、生成AIそのものに対する懸念の声もある一方で、現場の人手不足解消、負担軽減を期待する意見も多くみられました。ただ、効率化のためのAI活用を希望する人でも「著作物をほぼ無規制に使用しているような現状では、むしろ文化や市場の破壊、衰退につながる」「学習元の著作権問題をクリアにしない限り商用では使えない」などの声が多く、現状のままでのAI活用を期待するという声はほとんど見られませんでした。先述の規制すべきか、の設問へ「どちらとも言えない」が多く選択された背景はこの辺りにあるものと推察されます。

さらに著作権や学習元データに関しては海外の動向にも意識が向けられており「海外で規制が進む中で日本のみ規制がされなかった場合、日本製の創作物へ偏見の目が向けられる可能性がある」との声も複数見受けられました。その一方で「日本だけ規制をしても海外がしていなければ意味がない」との声もあり、両方の意味で海外と歩調を合わせることが重要であるとの意識が窺えます。さらにアニメ業界従事者のコメントから読み取れる懸念としては「創作性、創作意欲の低減」が多く見られました。

総じて、アニメ業界従事者は非アニメ業界従事者と比べてAI技術への期待は高いものの、「一部又は全面的に規制すべき」との声が過半数を占めることがわかりました。AIの活用により制作現場の負担が減ることを期待する声も多くある一方で、学習元データの権利関係があやふやな現状でAIを早急に制作現場に投入することについては懸念が残る人が多いことも分かりました。

今後もNAFCAでは、AIによる既存の権利(著作権肖像権、パブリシティ権など)への影響や、商業アニメ制作で生成AIを活用するための適切な規制などについて調査を続け、あるべきアニメ業界の未来へ向けて、模索を続けていきたいと考えています。

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