知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「住宅性能の基準」。住まいづくりについて調べ出すと、どうしても知るべき情報量が多く、調べれば調べるほど混乱してしまう方も少なくありません。そこで今回は、住まいづくりの際にこだわるべき住宅性能について、改めて4つの重要ポイントをわかりやすく再整理していきます。

十分な「躯体性能」を確保してからこだわるべき「設備性能」

住宅の性能は、大きく分けると「躯体性能」と「設備性能」に分けることができます。日本人は不思議なことに、設備がとても好きな傾向があります。

しかし設備というのは概ね15年程度で更新期を迎えます。つまり30年間以上の住宅ローンを組むならば、返済期間が半分も過ぎないうちに設備部分は価値がゼロになってしまうのです。

それに対して、「躯体性能」は、経年劣化はあるものの、60~100年以上に渡り、その性能は維持されます。新築する際に重視すべきなのが「設備性能」よりも「躯体性能」であることに、本来議論の余地はないはずです。

ところが、そうなっていないのは日本の住宅マーケットの不思議なところです。

まずは、十分な「躯体性能」を確保した上での「設備性能」という優先順位を忘れないようにしてください。この「躯体性能」は、大きく分けると、「耐震性能」、「耐久性能」、「断熱性能」、「気密性能」に4つです。

それぞれの概要と確保すべき性能レベルについて、順番に説明していきます。

住宅性能①耐震性能…耐震等級3を確保したい

耐震性能を考える上で、まず認識しておきたいのは、建築基準法で要求している耐震性能(耐震等級1)というのは、「震度6強から7程度に対して倒壊、崩壊しない」耐震性能であるということです。建築基準法は、基本的には地震で人が死なないための最低限の耐震性能を求めています。

つまり、震度6強から7程度でも倒壊、崩壊はしないので、逃げることはできますよ。ということです。その後住み続けられる耐震性能を必ずしも確保しているものではないということに注意が必要です。

品確法に基づく住宅性能表示制度では、耐震等級1~3が定められていますが、基本的には耐震等級3を確保することをお勧めします。熊本地震震度7強が2回襲った益城町でも、耐震等級3の住宅はほとんど被害を受けていません。

ただ少しやややこしいのが、「耐震等級3」にも複数あることなのです。それも含めて耐震等級については、過去の記事(関連記事:『【住宅の耐震性能の基礎知識】安心して住み続けるためには耐震等級3の確保が重要なワケ』)で説明しているので、詳しくはそちらをご参照ください。

住宅性能②耐久性能…日本の住宅の耐用年数は極めて短い

国土交通省の資料によると、欧米の住宅の平均寿命は80年~100年以上であるのに対して、日本の住宅は30年間程度に留まっています。

日本の住宅の耐用年数が極めて短いのは、既存住宅が住宅市場で評価されにくく流通しにくいことと、住宅自体の耐用年数が短いことの2つに起因しているものと思われます。

国は、住宅の耐用年数を伸ばすことを目的の一つとして、平成20年から「長期優良住宅」という認定制度を設けています。

この認定基準の一つに、「数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること」として、「劣化対策等級3」の確保が求められています。「劣化対策等級3」は、75~90年程度の耐久性能を指すとされています。

私は、日本の住宅の対応年数が短いため、各世代が住宅を新築し住宅ローンの負担し続けていることが、GDPの割に豊かさを実感できない大きな要因の一つではないかと考えています。

どんどんスクラップ&ビルドを繰り返していた高度経済成長の時代は過ぎ、低成長時代を生きていかなければならない我々にとって、数世代にわたって住み続けることができる耐久性能を持つ住宅が普及することはとても重要なことです。

耐久性能は、劣化対策等級3でも不十分⁉

劣化対策等級3により75~90年程度の耐久性能が確保できるとされていますが、私はこれだけでは不十分ではないと考えています。

前提として、後に触れる高気密・高断熱化を前提とするならば、住宅の構造は木造が最も有利になります。コストや耐震性能を鑑みても、木造がもっとも優位性のある住宅の構造です。

そして、木造の唯一の欠点と言えるのが、木が腐る「腐朽」と「蟻害(シロアリ被害)」のリスクです。この二つリスクを極力排除することが、住宅の長寿命化には重要です。ところが、防蟻(シロアリ対策)については、日本の住宅業界においては、以下の2つの問題があります。

第一に、合成殺虫剤系の防蟻剤を使っている会社が7割程度を占めているということです。以前詳しく説明(関連記事:『恐ろしい…EUの禁止農薬が使われる「日本のシロアリ対策」驚愕の実態』)したのですが、合成殺虫剤系は、人体に有害であるある上に、有機系なので経年で分解されてしまい、防蟻効果が5年程度でなくなってしまいます。

建築基準法は、地盤面から1mまでの防蟻対策を求めていますが、5年後に再施工しようにも地盤面から1mの柱等の構造材は壁や断熱材に覆われていて、再施工を行うことは実質的に不可能であり、無防備な状態になってしまうのです。

従来の防蟻では通用しない外来種の被害が急増中

もうひとつの防蟻にかかる問題が、アメリカカンザイシロアリと呼ばれる外来種の被害が急増していることです(関連記事:『外来シロアリに食い潰される!「日本の木造の家」全滅の危機』)。この外来種は、日本の在来種のシロアリと生態がまったく異なり、非常にやっかいです。

在来種は、「地下シロアリ」と呼ばれ、十分な水分がないと生きていけないので、地中に巣を作り、「蟻道」と呼ばれるトンネルを作り、地中の巣から家の構造材に、いわば蟻道を通って通勤して、木を食べます。

そのため、住宅の下部の蟻害リスクが高く、また北側の浴室部分等の水分の多い箇所のリスクが高くなります。そしていままでは、床下を点検して、「蟻道」がなければシロアリがいないとある程度判断することが可能でした。

ところが、アメリカカンザイシロアリは、乾燥させた柱等の構造材に残るわずかな水分で生息することが出来ます。そのため、家の構造材自体に巣を作り、柱・梁、さらには屋根の構造材である小屋組等にまでどんどん巣を広げていくのです。

輸入家具に紛れて侵入してきたり、つがいで羽アリが飛んできて自分で羽を落として家に侵入してきたりするようです。

このアメリカカンザイシロアリがやっかいなのは、従来の地盤面から1mまでの防蟻では通用しないということ、そして基本的には蟻道を作らないので発見が非常に難しいという点です。

これから新築するのならば、アメリカカンザイシロアリの蟻害リスクを鑑みて、永続性能ある防蟻処理を主要構造部すべてに行うべきです。そのためのコストは、得られる安心感や資産価値の維持を鑑みるととてもリーズナブルです。

ただ住宅業界において、このアメリカカンザイシロアリの問題を認識している工務店やハウスメーカーは、まだまだ少ないのが現状です。少なくても工務店・ハウスメーカー選びの際には、シロアリ保証の対象にアメリカカンザイシロアリが含まれるかどうか確認するべきでしょう。

ただし残念ながら、現時点でアメリカカンザイシロアリをシロアリ保証の対象に加えている工務店・ハウスメーカーは極めてまれであるのが実情です。

当社が提携している性能にこだわっている工務店・ハウスメーカーですら、対応が不十分な会社が散見される状況なので、一般消費者がそのような意識の高い工務店等を見つけ出すのは簡単なことではないのが残念なことです。

住宅性能③断熱性…先進国中で日本の住宅は最も劣るという事実

知っている人の間では常識なのですが、多くの方が知らない事実の一つに、日本の住宅の断熱性能が先進国中で、突出して劣っているということがあります(関連記事:『日本の住宅「最高等級の窓」でも「海外では最低基準」という衝撃の事実』)。

たとえば、日本で最高等級の評価を得られるU値2.33レベルの断熱サッシは、他の多くの国の最低基準を満たしておらず、違法扱いになってしまいます。

つまり、日本で普通に家を建てるということは、他の国では考えられない低断熱の家になるということです。ちなみに欧州の国々では、結露が生じると施工者は責任を問われるそうです。日本では一流と言われるハウスメーカーの住宅も結露が生じるのがあたり前ですから、家の要求されている断熱性能がまったく異なることがおわかりいただけると思います。

脱炭素社会に向けて、国は住宅の断熱性能の向上に非常に力を入れています。品確法において、従来、断熱等級4(省エネ基準)が最高等級でしたが、昨年5月に断熱等級5が創設されました。さらに昨年10月にはその上位等級として、断熱等級6、7が相次いで創設されています。

また日本は、先進国の中で唯一、新築住宅に省エネ基準への適合が義務づけられていない国なのですが、昨年建築物省エネ法が改正され、2025年から遅ればせながら、他国に比べて極めて緩い基準の省エネ基準(断熱等級4)レベルではありますが、適合が義務化されることになりました。さらに2030年には断熱等級5が義務化されることがほぼ確定しています。

つまり、これから家を新築するもしくは分譲住宅を購入するのであれば、少なくても断熱等級5レベルの家にしておかないと、あっという間に最低基準を満たさない家になってしまい、資産価値の低下を免れることができないということです。

「高断熱住宅」について、明確な定義は現時点ではありませんが、これから家を建てるのならば、断熱等級6は確保しておくことを強くお勧めします。

住宅性能④気密性能…施主が意識しないと確保できない

最後に重要な住宅性能の要素が気密性能です。耐震性能、耐久性能(劣化対策)、断熱性能については、十分なレベルかどうかはさておき、品確法等において国が定める基準存在します。

ところが、気密性能については、諸外国では厳しい基準が定められているのに対して、日本では省エネ基準等において現在は何ら定められていません。

冬の服装に例えると、断熱はセーター、気密はウィンブレーカーにあたります。断熱性能だけ高めても、すきま風だらけの家では、快適ではないし、省エネでないことはおわかりいただけると思います。

本来、断熱と気密はセットで考えるべきものなのですが、不思議なことに、日本では気密性能に関する取り組みが極めて遅れています。また、日本に気候には、高気密住宅は適しておらず、すきまだらけの家がいいのだというおかしな誤解もいまだに蔓延しています。

気密性能は図面上ではわからない

上述の断熱性能は、Ua値という値で示されますが、これは断熱材の種類や厚さ、窓の性能等から計算で求めることができます。ところが、気密性能は図面から計算で求めることはできません。

そのため、写真のように、一般的には仕上げの前の段階で、気密測定を行って気密性能を示す「C値」を出します。概ね1.0〔cm²/m²〕以下であれば高気密と言われ、値が小さいほど高気密であることを意味します。できれば、C値0.5以下を目指したいところです。

気密測定を行う住宅会社の場合、「C値」が目標値まで行かなければ、目標値を達成するまで、すきまを探して潰していく作業を行います。そのため、とても手間のかかる作業です。

また、鉄骨造は気密性能の確保が苦手で、筆者が知る限り、鉄骨系のハウスメーカーで気密性能を確保している会社は存在しません(関連記事:『日本の住宅に不可欠な「気密性能」だが…住宅メーカーが〈見て見ぬふり〉をするワケ』)。

高気密・高断熱住宅に木造が有利なのは、鉄に比べて木は熱を通しにくく、断熱性能の確保に有利なこともありますが、それ以上に高気密化においては圧倒的な優位性を持っています。

工務店・ハウスメーカー選びの際には、気密測定を全棟実施しているかどうかというのは、とても重要なチェックポイントです。

4つの住宅性能を満たす工務店・ハウスメーカーは極めて少ない

以上、住まいづくりの際にこだわるべき4つの躯体性能である「耐震性能」、「耐久性能」、「断熱性能」、「気密性能」について、最低限のポイントを整理してみました。

これから家を新築するのであれば、ぜひこれらの要素を意識して計画を進めていただければ、後悔のない住まいが実現できることと思います。

ただ、このような性能を満たす住宅を建てている工務店・ハウスメーカーはまだまだ少ないのがとても残念です。消費者の方々が、自分の足で見つけ出すのはおそらく簡単なことではないと思います。

一日でも早く、このような他の先進国並みの住宅があたり前になることを願うばかりです。

写真提供:坪井当貴建築設計事務所