岸田文雄

岸田首相は、9月13日、内閣改造を行った。かつての私の同僚や若い後輩が閣僚に任命される時代になったことに感慨を覚えるが、私情は横に置いて、今回の内閣改造を厳しく斬ってみたい。


■骨格は維持

まずは、骨格を変えないという意味で、継続性、安定性を重視したと言えよう。

閣僚については、松野官房長官、河野デジタル担当大臣、高市経済安全保障担当大臣、西村経産大臣、鈴木財務大臣が留任である。また、公明党の要望を容れて、斉藤国土交通大臣を留任させた。

党役員については、茂木幹事長、麻生副総裁、萩生田政調会長、高木国対委員長は留任した。


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■小渕優子の登用

総務会長に森山選挙対策委員長を当て、後任に小渕優子を当てた。

小渕については、2014年に政治資金を巡り経産大臣を辞任した過去があり、事務所の関係者がデータの入ったハードディスクドリルで壊したことから、「ドリル優子」と揶揄された。

それを追及されることを恐れて閣僚にはせずに、党役員とした。甘利元幹事長のケースと同じである。小渕については、森喜朗元総理や参議院のドンと言われた故青木幹雄元官房長官が強く推してきた。早稲田大学同窓会でもあるし、悲劇の死を遂げた小渕元総理への想いもある。

初入閣は11人、再入閣は2人である。11人もの初入閣組がいるが、ほとんどが派閥からの推薦である。それだけに、「滞貨一掃」の色彩も強く、抜擢人事のような新鮮さや驚きがない。要するに、目玉がないのである。


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■女性登用

閣僚人事では、女性閣僚を大幅に増やした。上川陽子を外務大臣に、土屋品子を復興大臣に、自見英子を地方創成担当大臣に、加藤鮎子を子ども政策担当大臣に任命した。留任した高市早苗経済安保担当大臣を含め、5人である。

女性閣僚を増やすという意図は分かるが、地味すぎる女性たちである。宝塚のスターのような目玉がない。ポピュリズムが跋扈する時代に、これでは支持率上昇につながらない。

イタリアのジョルジャ・メラーニ首相は、目力が凄まじく、そして華がある。私は数年前から彼女に注目していたが、「イタリアの同胞」という新政党を率いて、先の総選挙で第一党に躍り出て、首相になっている。

上記5人の女性は、残念ながら、メローニには及ばない。「地味女性チーム」では、国民を奮い立たせることはできない。

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■外交・防衛は大丈夫か

外務大臣と防衛大臣を交代させたことは驚きであった。ウクライナ戦争、原発処理水海洋放出を巡る中国の反発など、外交、防衛については課題が山積している。

上川はハーバード大学出身の優秀な人材であるが、外交を担当するのに適しているかどうかには疑問符が付く。また、安全保障を専門の一つにしてきているが、木原稔が、浜田靖一のような重みがあるかどうかは不明である。おそらく、林・浜田のコンビのような安定感は期待できないであろう。

物価高対策、マイナンバー問題、少子化対策、防衛費増などの重要な政策課題についても、具体的な成果が上がらなければ、内閣改造の意味がなくなる。

また木原官房副長官は磯崎官房副長官と共に交代した。週刊誌などでスキャンダル報道が展開されたために、自ら身を引いたという。岸田首相にとっては、側近が不在となって戦力が低下することとなる。


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■自民党総裁選と解散総選挙

派閥ごとに見ると、安倍派が4人、麻生派が4人、茂木派が3人、岸田派が2人、二階派が2人、谷垣グループが1人、無派閥が2人である。第4派閥にすぎない岸田派にしてみれば、より数の多い派閥、とりわけ安倍派の支援は不可欠である。

来年9月の総裁選を念頭に置けば、安倍派が会長も選べないという内紛状態であり、それは安倍派からは総裁選に出馬しないことを意味する。茂木が最大のライバルとなるが、茂木を閣内に閉じ込め、茂木派内のライバルである小渕を登用することで、茂木を牽制している。

さらに、解散をいつ断行するのか。刷新感のあまりない内閣改造では、解散は容易ではない。すべては、これからの内閣支持率次第である。


■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。


今週は、「自民党の内閣改造」をテーマにお届けしました。

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(文/舛添要一

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