歌舞伎座新開場十周年「錦秋十月大歌舞伎」にて、上演される『文七元結物語(ぶんしちもっといものがたり)』の製作発表会見が9月11日、都内で行われ、演出を手がける映画監督の山田洋次、出演する中村獅童と寺島しのぶが出席した。

『文七元結』は、幕末から明治にかけて活躍した落語家の三遊亭圓朝が口演した人情噺で、歌舞伎としても、明治35(1902) 年に歌舞伎座で五世尾上菊五郎により初演され、数々の名優が演じてきた人気作だ。

新橋演舞場版の補綴、シネマ歌舞伎版の監督、赤坂ACTシアターと大阪・新歌舞伎座での上演など、これまでも『人情噺文七元結』との縁がある山田氏だが、歌舞伎座公演の演出は今回が初めてのこと。新たな構想により脚本・演出を一新し、「人間の善意について語っている優れたストーリー。(元来ある)精神やテーマさえ握っていれば、現代の感覚で、僕なりの納得のいく人間模様を構築し、表現できるんじゃないかと思った」と本公演における解釈について語った。

山田洋次

左官の長兵衛には獅童、長兵衛の女房・お兼には寺島という同級生タッグを起用。映像作品も含めて、両名が初めて夫婦役を演じることになった。獅童は「20代の頃、しのぶちゃんが『男だったら、歌舞伎がやりたかった』って。女優さんが歌舞伎座って言われると、プレッシャーになってしまうと思うが、前例もたくさんございますし、やるからには、獅童としのぶの芝居を観に行って良かったと思ってもらえれば」と同時代を駆け抜けた“同志”との共演に意気込み。

一方、寺島は「とにかく素敵な夫婦をお見せできるよう、一生懸命に没入し、腹をくくって頑張ろうと。覚悟はあります!」と決意表明。『人情噺文七元結』は父・七代目尾上菊五郎も演じた人気演目であり、「台詞が言えるくらい、ものすごい数(回数)を観ているので、それが邪魔することも。稽古に入ったら、脳を切り替えて、新しいものを作っていきたい」と語り、菊五郎の反応については「父は何も言わない。見守ってくれている」と話していた。

寺島しのぶ

約1時間の会見中には、「何でも言い合える仲。一緒に出られるのはうれしい。楽日には、おいしいビールを飲みたい」(獅童)、「私もだよ」(寺島)と早くも息の合った“夫婦”の仲睦まじさも披露し、期待が高まる瞬間も。山田氏も「ピッタリだと思っている」と配役に太鼓判を押していた。

『文七元結物語』ビジュアル 撮影:永石勝

<あらすじ>
腕の良い左官の長兵衛(中村獅童)は博打に溺れ、女房のお兼(寺島しのぶ)と夫婦喧嘩が絶えない貧乏暮らし。それを見兼ねた孝行娘のお久は、吉原の廓・角海老に奉公を決意。娘が身売りしてつくった五十両の金を大事に懐にしまうその帰り道、若い男が吾妻橋から身投げしようとするのを見た長兵衛は、懐の五十両をその文七という若者にくれてしまい……。

取材・文・撮影(会見):内田涼

<公演情報>
歌舞伎座新開場十周年「錦秋十月大歌舞伎
『文七元結物語』

口演:三遊亭圓朝
脚本・演出:山田洋次
脚本:松岡亮

出演:
左官長兵衛:中村獅童
長兵衛女房お兼:寺島しのぶ
近江屋手代文七:坂東新悟
長兵衛娘お久:中村玉太郎
角海老女将お駒:片岡孝太郎
近江屋卯兵衛:坂東彌十郎

2023年10月2日(月)~2023年10月25日(水)
会場:東京・歌舞伎座

チケット情報:
9月14日(木) 10:00より販売開始
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2332851

公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/841

歌舞伎座新開場十周年「錦秋十月大歌舞伎」『文七元結物語』製作発表会見より、左から)寺島しのぶ、中村獅童、山田洋次