売れる商品やサービスを提供するためには、顧客の真意を正確に理解し、誤った判断を避けることが不可欠です。販促コンサルタントである岡本達彦氏の著書『お客様目線のつくりかた:顧客視点は仕組みで生み出せる』(悟空出版)より、「ある食器メーカーで起きた実例」を一部抜粋して紹介します。

「強み」 と「弱み」 は表裏一体であることを知る

私たちが自分の強みに気づきにくい理由には、他人と違う点があると、それを欠点として考える傾向があることにも理由があります。

つまり人は、どうしても他との違いを「弱み」としてネガティブにとらえてしまう。でも自分の能力を高めるのに、それは必ずしも正しい方法とは言えません。というのも、「強み」と「弱み」は、表裏一体になっていることが多いのです。他人から見たら「強み」であることが、本人から見れば「弱み」に感じていることもあります。

たとえば引っ込み思案で、内気な人がいる。当人はそんな性格を治したいと思っているとしても、他人から見ればいつも控えめで、話をよく聞いてくれることが魅力にんな人が性格改善することは、いいことなのか? キャラが変わってしまえば、今まで好いていてくれた人が離れてしまう可能性もあるでしょう。

かのイチロー選手も、クセのある振り子打法の打ち方を矯正せず、むしろ究めていったことから、レジェンド級の打者になりました。彼は最初に入団したオリックスで、当初の監督の意向に逆らい、レギュラーを外されながらも、自分の打法にこだわり続けたといいます。

ビジネスでも「弱み」を「強み」に変えた事例はいくつかあり、たとえば池袋のサンシャイン水族館などは、都心の狭い立地を逆に利用することで他の水族館に対して個性を打ち出しています。周囲の高層ビル群を背景にしてペンギンなどを見られるのは、この水族館独特の工夫でしょう。

古くは、鹿児島県サツマイモも、桜島の火山灰から成るシラス台地で、米ができない代わりに栽培したものです。鹿児島県はそこから焼酎を生産することで、ほかにない個性的な特産品を手にしました。

私たちは結果が出ていないとき、自分たちが持っている個性を、「欠点」とばかりにとらえがちです。

再度言いますが、本書で紹介しているタマゴサンドを出していた喫茶店は、自分たちが思うところの「無駄が多く、古臭い雰囲気の場所」という欠点が、じつは他人から見ると「落ち着いた雰囲気で、居心地がいい場所」という長所になっていました。そんなふうに、欠点を長所にとらえている人は、意外と多くいる可能性だってあるのです。

だからこそ私たちは、お客様の声を聞く必要がある。それも批判的なお客様でなく、ずっと支持してくれているファンの“好意的な声”を聞く必要があります。

選ばれたのは人気ナンバーワンのお皿ではなかった

人は文句や忠告ばかり気になりますが、そこを直しても、じつはあまり変化が起こらないことが少なくありません。というのも、多くは「どうでもいい人の、どうでもいい意見」にすぎないからです。

ある食器メーカーの有名な話があります。新しい商品を開発するため、主婦の方々を集めてリサーチをしました。その際、さまざまな色、さまざまな形のお皿のサンプルをつくり、テーブルの上にずらっと並べて「どれが魅力的ですか?」と意見を聞きました。

結果。黒い三角形の斬新なお皿が、「こんなお皿があったら面白いね」ということで、人気ナンバーワンになったそうです。そこでリサーチが終わり、「皆さん、ありがとうございました。ご意見、参考になりました。アンケートにご協力していただいたお礼に、好きなお皿を1枚プレゼントします」と伝えます。

すると大勢の人が選んだのは、「白色の丸い皿だった」そうなのです。三角形の黒い皿は、本当に欲しい対象だったのでしょうか?

集まった人がべつに噓をついていたわけではないでしょう。「どれが魅力的ですか?」と聞かれれば、斬新なデザインのお皿を選びたい。でも、実際に持って帰っていいならば、使いやすい商品を選びたい。おそらく意見を言った方が、三角形の斬新なお皿を買うことはないでしょう。

こういうことはよくあるのです。「どんなものがあったら売れると思うか」と聞けば、大勢の人がいろいろな意見を言います。「こんな本があったらぜひ読んでみたい」とか、「こんな機能のアプリがあったらぜひ使ってみたい」とか、「こんなお店があるなら、ぜひ行ってみたい」とか。

でも、そういう意見の方に、「そんな本を探してみたことがあるか?」とか「そんなアプリがないか調べたことがあるか?」とか、「そういうお店を知っている人がいないか、聞いてみたことがあるか?」と聞けば、決まって「ノー」と答えるでしょう。

つまり、実際にそんな商品があったとしても、意見を言うだけの人は、おそらく購入することはない。最初から買うことを考えていない人に、「どんな商品があったら欲しいですか?」と聞くのは、判断を誤らせる情報にしかならないのです。だから意見を聞くのであれば、すでに購入したお客様に「何が決め手で、この商品を購入したのですか?」と聞かなければなりません。

(※写真はイメージです/PIXTA)