インド経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+7.8%(1-3月期:同+6.1%)と上昇しました。先行きは、足元の食品インフレにより景気減速が見込まれるものの、政府の経済政策や脱中国依存を図る企業の動きによる投資拡大が続くとみられ、成長ペースは内需主導で加速すると考えられます。本稿では、ニッセイ基礎研究所の斉藤誠氏がインド経済の見通しについて解説します。

GDP統計の結果:7%台後半に成長加速

2023年4.6月期の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%となり前期の同+6.1%から上昇、Bloombergが集計した市場予想(同+7.8%)と一致した1(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が前年同期比+6.0%(前期:同+2.8%)と回復、また総固定資本形成が同+8.0%(前期:同+8.9%)となり堅調に拡大した。政府消費については同▲0.7%(前期:同+2.3%)と減少した。

外需は、輸出が同▲7.7%(前期:同+11.9%)と急減した一方、輸入が同+10.1%(前期:同+4.9%)と加速した。

2023年4-6月期の実質GVA成長率は前年同期比+7.8%(前期:同+6.5%)と上昇した(図表2)。

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+10.3%(前期:同+6.9%)と上昇した。金融・不動産(同+12.2%)と貿易・ホテル・交通・通信(同+9.2%)の好調が続いたほか、行政・国防(同+7.9%)が加速した。

一方、第二次産業は同+5.5%(前期:同+6.3%)と低下した。製造業が同+4.7%(前期:同+4.5%)、鉱業が同+5.8%(前期:同+4.3%)となり、それぞれ増勢が加速したが、建設業が同+7.9%(前期:同+10.4%)、電気・ガスは同+2.9%(前期:同+6.9%)となり、それぞれ鈍化した。

また第一次産業は同+3.5%となり、前期の同+5.5%から鈍化したものの、順調に推移した。ラビ期の豊作が下支えとなったとみられる。


8月31日インド統計・計画実施省(MOSPI)が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。

経済概況:民間消費と公共投資の拡大が経済成長を牽引

インドはコロナ禍からの立ち直りが早く、その後も概ね順調な成長が続いている。四半期ベースの成長率をみると、2022年10-12月期は前年同期比+4.5%まで低下したが、その後は持ち直しの動きが続いており2023年4-6月期は同+7.8%と、1年ぶりの高水準となった。

アジア地域は中国経済の失速や半導体サイクルの悪化により輸出が低迷して景気が減速傾向にあるが、インドは中国との貿易依存を減らす取組みを進めてきたほか、世界の半導体サプライチェーンに組み込まれていないため外需の逆風が限定的であり、堅調な内需が成長を牽引する形となっている。

4-6月期の成長率の上昇は民間消費の回復と総固定資本形成の継続的な拡大による影響が大きい。まずGDPの約6割を占める民間消費は前年同期比+6.0%となり、前期の同+2.8%から加速した。

4-6月期の消費者物価上昇率は同+4.6%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標圏内(2~6%)まで低下したため家計の実質所得が増加したほか(図表3)、RBIが昨年5月からの利上げサイクルを停止したため家計の消費行動が活発化したとみられる(図表4)。

総固定資本形成(同+8.9%)は好調が続いており、主に公共投資がけん引したものとみられる。2023年度国家予算では資本支出が前年度比+37.4%の10兆ルピーに拡充されており(図表5)、また主要分野別の歳出をみると最も金額の大きい「交通」が同+32.4%と大幅に増額されている(図表6)。このことは産業別の実質GDPでは建設業が堅調に拡大(同+7.9%)したことも整合的である。

こうした公共投資が民間の経済活動に波及しているとみられるほか、中国からのデリスキングを目的とするサプライチェーン再編を進める企業の動きも民間投資の追い風にとなったとみられる。

純輸出は財・サービス輸出(同▲7.7%)が落ち込んだ。通関ベースの貿易統計をみると、モノの輸出は海外経済の減速により急減している(図表7)。サービス輸出は4月の外国人訪問者数が前年比53%増の60万人となり大幅な増加が続いているが、1-3月平均の84万人から減少しており、回復の勢いが弱まりつつあるようだ(図表8)。

一方、財・サービス輸入(同+10.1%)は内需拡大により輸出の伸びを上回った結果として純輸出の成長率寄与度は▲4.6%ポイントと、前期の+1.4%ポイントから低下して成長率を押し下げた。

 

インド経済は当面は足元の食料インフレにより成長ペースが鈍化するものの、構造的・循環的な好材料が重なり内需主導の底堅い成長が続くと予想する。

当面は世界的な景気減速により輸出が低迷する一方、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くものとみられ、外需は成長率の押し下げ要因になるだろう。また内需は引き続き公共投資が景気の牽引役となるが、借入れコストの上昇により消費と投資に下押し圧力がかかる展開が続きそうだ。

そして足元では天候不順による供給減によりトマトとタマネギが品不足となるなど野菜価格が高騰している。食品インフレは主に低所得者層の家計を圧迫するため、消費需要を減退させるだろう。

もっとも、食品インフレは短期的な動きにとどまると予想している。現在の高騰しているトマトとタマネギの価格上昇はピークアウトの兆しがあり、インフレは再びRBIの物価目標圏内まで低下するだろう。年明け以降は米国の利下げ観測が高まるなか、RBIが金融緩和に舵を切る展開を予想する。従って、来年度はインフレ鈍化と借入コストの低下により民間部門の回復力が高まるだろう。

また構造的要因も景気の下支えとなるだろう。2019年の法人税減税や2年連続で大幅に拡充されたインフラ投資予算、生産連動型インセンティブ・スキームをはじめとした2020年以降の製造業支援策、昨年締結されたオーストラリアアラブ首長国連邦との貿易協定などのインド政府の経済政策に加え、地政学的にサプライチェーンの脱中国依存を図る企業の動きもあり、外資系メーカーのインド進出が増えている。こうした投資の持続的な拡大は雇用環境の改善に繋がっており、引き続き民間消費への波及が進むものとみられる(図表9)。

このほか、来春の総選挙にかけては政党による選挙関連支出が一時的に消費を押上げるであろう。

以上の結果として、実質GDPは輸出悪化や金融引き締めの累積効果、インフレ加速などが逆風となり、2023年度の成長率が前年度比+6.1%(2022年度:同+7.2%)と低下、2024年度は輸出の持ち直しやインフレ鈍化、金融緩和などにより前年度比+6.4%に上昇すると予想する(図表10)。

上記見通しに対する下方リスクは南西モンスーンの雨不足によるインフレ高進があげられる。現在のところカリフ期の穀物の作付面積は前年を上回っているが、累積降雨量(9月6日時点)は平年を11%下回る水準にとどまっている。

9月も少雨となれば、農作物の生育が遅れて食品価格が上昇して、RBIが金融引き締めを継続するほか、農村部を中心に消費が落ち込む恐れがある。

(写真はイメージです/PIXTA)