東海道・山陽新幹線全線を走る定期列車で、最も表定速度が高いのは、博多発東京行きの「のぞみ64号」です。東京~博多間の「のぞみ」は多くが5時間で運行されていますが、この列車のみ4時間46分。速さの秘密を探るべく、乗車してみました。

カギは最終列車であること

博多18時59分発 東京行きの「のぞみ64号」といえば、東海道・山陽新幹線全線を走破する列車の最終であり、かつ最速の新幹線として知られています。

その所要時間は4時間46分。大半の「のぞみ」が4時間57分か5時間ちょうどです。東京発 博多行きの下り最速「のぞみ1号」でも4時間52分運転ですから、「のぞみ64号」1本だけ所要時間が短いことになります。

その理由はまず「停車駅が1駅少ない」こと。東京~博多間の「のぞみ」は、新大阪~博多間で必ず新神戸、岡山、広島、小倉に停車しますが、「のぞみ64号」以外はさらに福山、徳山、新山口のどれかに停車するため、それだけ所要時間が長くなるわけです。

続いて「最終列車であること」。列車本数が少ない時刻であり、追い抜く列車も少ないことから、ほかの列車に妨げられることなく運行できるため、それだけ所要時間を短縮できるわけです。

こうしたことから「のぞみ64号」は、東海道・山陽新幹線の定期列車としては最も速い、表定速度224km/hで運行されています。最高速度では東北・北海道新幹線の方が速いのですが、東京~宇都宮間や盛岡~新函館北斗間で速度制限が多くあります。結果として東京~新函館北斗間で最速の「はやぶさ7・14・44号」でも、表定速度208km/hに留まります。

なお、最高速度320km/h運転区間が長い盛岡~東京間の「はやぶさ6号」は表定速度229km/hで、これが新幹線定期列車での最高速度です。

ちなみに「のぞみ64号」「はやぶさ6号」を上回る日本一速い新幹線は、臨時列車ですが新横浜新大阪間の「のぞみ491号」で、239km/hです。大きな速度制限がある東京~新横浜間を走らないことで、停車時も含めた平均速度である表定速度が高くなります。

JR九州の特急を待って出発 +6分

筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2023年8月、「のぞみ64号」に乗車してみました。ただ当日は遅延した「リレーかもめ」を待ったため、定刻より6分遅い19時5分に博多駅を出発しました。

列車には通常「余裕時分」が設定され、多少の遅れは取り戻すことができます。しかし前述したように「のぞみ64号」は、ほかの「のぞみ」より平均12分程度速いダイヤですから、それだけ余裕時分がありません。つまり「のぞみ64号」が6分遅れを取り戻せた場合の運行速度は、「余裕時分ゼロの真の最速」となります。

博多駅出発時の乗車率は、グリーン車が20%、普通車が40%程度でした。筆者はグリーン車に乗車します。遅延した「リレーかもめ」から乗り継いだので、駅弁などを買っている余裕はなく、慌てて乗り込みました。

幸い車内販売営業列車なので、ワゴンを探しに行き「柿の葉寿司」を購入します。夕飯時に運行されている列車ということで、すぐに売り切れたようでした。

しばらくしておしぼりが配られます。取材時は最新のN700Sで運行され、快適性がN700Aよりも向上した新型座席でした。

スマートフォンアプリで速度を計測してみます。297299km/h程度であり、ほぼ最高速度で走っていました。下り坂なのか、アプリの誤差なのか、山陽新幹線の最高速度300km/hを超える瞬間も何度かありました。遅延時には、ATC(自動列車制御装置)の頭打ち速度である305km/hまで出すと聞いていましたが、308km/hが計測されてびっくり。誤差だとは思うのですが。

19時20分、小倉駅着。本来は19時14分着なので、ここでは遅れを取り戻せていません。食事をしている最中の19時53分に新岩国駅を通過します。

そして20時4分、広島駅着。本来は20時0分着ですから、2分短い44分で小倉~広島間を走破、同区間の表定速度は262km/hに達しました。これは「のぞみ」より速い最高速度を誇る「はやぶさ」の、速度制限がない仙台~盛岡間だけの表定速度263km/hに匹敵します。

乗車率は高い

300km/h前後を保ったまま、20時12分に東広島駅を、同20分に三原駅を、同22分に新尾道駅を通過します。車内販売でコーヒーとアイスを購入しました。車内販売廃止が話題となっていますが、個人的には旅の退屈を癒してくれる存在であり、東海道新幹線での廃止は残念なことです。

20時32分に新倉敷駅を通過すると、遅れを1分取り戻した3分遅れで20時39分に岡山駅へ到着します。広島~岡山間は34分で、表定速度256km/h。福山駅付近で270km/hに減速したものの、ほぼ最高速度で走っていました。

20時52分に相生駅、20時57分に姫路駅通過と飛ばしますが、姫路付近から市街地も増え、勾配区間もあるので、270km/h程度に落ちます。21時4分に西明石駅を通過し、21時10分に新神戸駅に到着しました。

すぐ出発し、21時23分に新大阪駅到着。博多~新大阪間2時間18分(表定速度240km/h)は、かつて新神戸駅を通過していた500系のぞみ」とほぼ同等の所要時間です。新大阪駅へは本来21時20分に到着し、4分停車の後21時24分に発車しますが、停車時間を2分に減らし、21時25分に出発しました。

ここで運行会社がJR東海に変わり、グリーン車にはもう一度おしぼりが配られました。車内販売入れ替わり、筆者はカツサンドを購入します。新大阪駅を出た時点で車内を探索すると、普通車はほぼ満席、グリーン車は60%ほどの乗車率。混雑状況を見ると、「のぞみ64号」の後に続行列車を運転してもいいと感じました。例えば、

新大阪21時31分発→東京23時52分着
新大阪21時48分発→新横浜23時52分着

などです。ただこうすれば、「日本一速い新幹線」ではなくなりますが……。

のぞみ64号」は、正規ダイヤでは京都駅名古屋駅に1分停車ですが、当日は「乗り降りが終わり次第出発します」と告知され、ついに名古屋駅で正規ダイヤに戻り遅延を回復しました。

博多→東京間の所要は4時間40分。全線を通した表定速度は229km/hで、東京駅へは23時45分の定刻到着となりました。

※一部修正しました(9月15日9時50分)。

博多18時59分発 東京行き「のぞみ64号」(2023年8月、安藤昌季撮影)。