移動手段であることはもちろん、最近では旅行の目的にもなっている「鉄道」。 観光列車や車窓の絶景、駅舎、駅弁など幅広く楽しめる鉄道旅の中でも特に人気の「車両」の魅力を、 鉄道写真家の山﨑友也さんに教えてもらう連載です。貴重な車両情報も満載、ぜひ旅のリストに加えてみてはいかがでしょうか?

JBpressですべての写真や図表を見る

文・写真=山﨑友也 取材協力=春燈社(小西眞由美)

鉄道ファンには人気が高い「国鉄型」

 かつて国鉄時代に造られた車両は「国鉄型」と呼ばれている。ところが気づけば国鉄からJRに移行して、早36年。当然国鉄型の車両もそれだけの年数を経ており、今では非常に数が減り活躍の場も限られている。稀少な車両のため鉄道ファンには人気が高く、国鉄時代を知らない若い世代にまでその熱は広がっている。そんななか国鉄型車両が、来年ひとつの節目を迎えようとしている。

 岡山県岡山駅島根県出雲市駅を結んでいる特急「やくも」。車両はもちろん国鉄時代に造られた381系で、現在では唯一残る国鉄型の特急電車である。この381系が来春から順次新型の車両に置き換わり、2024年度中にはすべて引退してしまうのだ。これにより国鉄型特急電車は国内の定期運用から姿を消すことに。人気の名車も押し寄せる老朽化には勝てなかったというわけだ。では381系とはいったいどのような車両なのだろうか。

 日本の山間部の鉄道路線はカーブが連続し、主要な路線でも非電化の割合が多かった。そこでスピードアップを目指していた国鉄は電化を進めるとともに、急カーブでも速度をそれほど落とすことなく安定して走ることができる車両の開発も始めていた。その結果、カーブを通過する際にコロ軸を通じて車体に伝わる遠心力を利用し、車体が内側に傾くことで高速でもカーブを走行できる「自然振り子式」という機能を備えた車両が誕生した。

 この日本初の振り子式特急電車381系で、1973年中央本線の「しなの」としてデビュー。曲線区間では一般の車両の制限速度より時速20kmも速い速度で運転でき、スピードアップに大いに貢献した。のちに紀勢本線を走る「くろしお」にも投入され、「やくも」には伯備線が電化された1982年7月から使用されている。

歴代「やくも」の塗装が4種類すべて揃う

 381系「やくも」はクリーム色に赤いラインという国鉄時代の特急のカラーリング、いわゆる「国鉄色」でしばらく運行されていた。その後車両のリニューアルなどによって2種類の塗装に分けられたものの、2011年から去年まではすべての車両が白地に朱色の帯が入った「ゆったりやくも」と呼ばれるカラーで統一されていた。

 ところが2022年3月に、「やくも」が伯備線で運転を始めて50周年を迎えることを記念して(「やくも」は1972年から1982年7月までは気動車で運転)、381系の本来のカラーリングである「国鉄色」に塗り替えられた車両が登場したのである。国鉄時代の車両が国鉄時代の塗装で走るとあって鉄道ファンは大賑わい。懐かしさを偲ぶ人やデビュー時の色を初めて見る人など、多くの人々がリバイバルされた「やくも」に魅了されている。

 リバイバル企画はその後も続き、1994年から2006年まで運転されていた「スーパーやくも」色も今年3月から登場。そして11月5日からは1997年から2011年まで運転されていた緑色を基調とした「緑やくも」色も復活する。これで歴代の「やくも」の塗装が4種類すべて揃うことになり、ますます沿線が熱く盛り上がることは間違いないだろう。

 JR化後は各社さまざまな新型車両が登場し、多くの国鉄型車両は次々に淘汰されてしまった。しかし今回のリバイバル「やくも」の人気の高さからも、国鉄型の車両がいかに多くの人に親しまれ愛され続けているかが伺える。

 ちなみに岡山駅周辺の路線はキハ40形気動車115系電車も国鉄色で走っており、いわば国鉄型の宝庫。その光景はまるで国鉄時代にタイムスリップしたかのよう。

 また「やくも」の写真を撮りたいのなら、駅や直線ではなく、ぜひとも線路が大きくカーブしている場所で狙ってもらいたい。なぜなら曲線で車体が傾いているシーンこそ、381系という車両の最大の特徴であり魅力なのだから。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  ローカル線・近江鉄道、22期連続赤字の末に挙げた白旗…そして沿線自治体は?

[関連記事]

まるでアニメな駅舎、懐かしの硬券…味わいある近江鉄道が迎えた存続の危機

大井川鉄道がリアル「きかんしゃトーマス号」を走らせた理由と危機感

日本で唯一残る国鉄型特急電車381系。現在は1編成が国鉄時代のカラーリングをまとい、人々の注目を集めている