近ごろは生涯独身という人も増えています。多様性の時代となり、人によっていろいろな生き方が尊重されるなか、おひとりさまの老後にはさまざまなリスクがつきもののようで……。本記事ではFP1級の川淵ゆかり氏が、Aさんの事例とともにおひとりさまの老後の注意点について解説します。
「おひとりさまの老後リスク」とは
おひとりさまの定義はいろいろありますが、一般的には、一緒に暮らす配偶者やパートナー、子やきょうだいなどがいない人とされています。
一生涯独身の人も増えていますが、若いときには気軽な一人暮らしを楽しむことができたとしても、高齢になるにつれて病気やケガのリスクも高まってきます。また、結婚して子どもができたとしても、配偶者が亡くなってしまったり、お子さんが同居して老後に一緒に暮らしてくれるとは限らなかったりで、一人暮らしになってしまう高齢者も増えています。
さまざまな面からおひとりさまの老後について考えていきましょう。
1.一人暮らしの高齢者の生活費はいくらかかるのか?
総務省統計局が5年に一度行っている調査「2019年全国家計構造調査家計収支に関する結果」によると、男女別の収支状況は次のようになっています。
ご覧のように男性は若干の黒字に対し、女性は赤字となっています。次回の調査では食料品や光熱費といった物価上昇の影響が反映されると思いますので、男女とも赤字の額が大きくなっているのではないか、と考えます。
一生涯結婚しない女性も増えていますが、結婚後に夫が亡くなり一人暮らしになってしまった女性に比べると、遺族年金もありませんし、死亡保険金なども受け取れませんので、現役時代のうちにしっかりした資産を作っておかないと老後の生活は一気に厳しくなるでしょう。
多様性の時代となり人によっていろいろな生き方がありますので、資産作りのほかに生涯の働き方や住まいなども含めた個人ごとのライフプラン作りが必要になります
2.二人暮らしの家庭と収支はどう違うのか?
日本の生涯未婚率は、男性が28.25%、女性が17.85%と年々増加しています。人数にすると生涯未婚人数は男性が約265万人、女性が約165万人となっています。
老後の二人暮らしでは夫婦ともに65歳になれば二人分の老齢年金が入ってきますが、一人暮らしでは当然一人分になります。労働収入でも二人暮らしであれば一方が病気等で働けなくなっても、もう一方が働けば収入を得ることが可能になりますが、一人暮らしで働けなくなると労働収入はゼロになってしまいます。
ちなみに60歳以上の男女の一人暮らしの家計支出は次のとおりです。参考にしてください。
ひとり暮らし、いざというときに悩む「身元保証人・身元引受人」
老後はどんなにお金があって一人でも大丈夫、と思っていても、入院や介護施設への入所の際には身元保証人などがどうしても必要になってきます。きょうだい等親族で頼りになる人がいる場合は早めに頼んでおくことが必要です。ですが、身元保証人となると支払いの責任義務も伴ってくるため、自分に支払い能力があることの説明も求められるでしょう。
もし、保証人や引受人になってくれそうな人がいなかったり、頼みにくかったりする場合は、身元保証会社を利用することになるのが一般的です。こういった身元保証会社も増えており、株式会社や一般社団法人、NPO法人などの形態があります。
しかしながら、費用は決して安くはないため、余裕のある健康なうちに探しておいたほうがいいでしょう。
総合的な相談場所を知っておく
65歳以上の住民に対し、保険・医療・福祉など総合的に相談にのってくれる場所の選択肢のひとつとして挙げられるのが「地域包括支援センター」です。介護保険法第115条の46第1項で設置が定められており、市町村が設置主体となっていて、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等が配置されています。住民の健康の保持および生活の安定のために必要な援助を行うことで、地域住民の心身の健康の保持および生活の安定のために必要な援助を行う施設とされています。
前述の身元保証会社の紹介などの相談にものってくれるところもあります。令和4年4月末現在、全国で5,404ヵ所が設置されていて、支所を含めると7,409ヵ所となっています。お住まいの地域にある「地域包括支援センター」を健康なうちに確認しておくのがいいでしょう。
旅先で転倒し「終活」を考えるようになったAさんの事例
Aさんは67歳の年金生活の独身女性です。一度結婚したこともありましたが、30代で離婚してからは一人暮らしのほうが気楽に感じ、再婚せずおひとりさまを続けています。
そんなAさんの趣味は全国の鉄道で旅をすることです。月に約15万円の年金のため贅沢はできませんが、節約など生活に工夫をしながら定期的に好きな電車に乗りながら旅行を続けています。
ある日、Aさんは旅行中に階段から転落して骨折してしまい、旅先の病院に担ぎ込まれます。幸い意識がはっきりしていたため、離れて住む73歳の兄に連絡し、甥っ子にも手伝ってもらって自宅から保険証や着替えなどの必需品を病院まで持ってきてもらいました。
「いつも2、3日の旅行だし、健康だと思っていたので保険証を持って歩くといったことは考えてもいませんでした。73歳の兄や奥さん、甥っ子までが病院に飛んできてくれて本当に有難かったです。兄も高齢のため、いつまでも甘えてばかりもいられません。最近は、自分がまたケガをしたり認知症になったりしたらどうしよう、死んでしまったあとの部屋の整理や手続きはどうしよう、と真剣に考えるようになりました」とAさんは言います。
前述の地域包括支援センターのほかにも自治体・社会福祉協議会等にはそれぞれ相談窓口もあります。医療機関にも相談窓口を設置しているところもありますし、弁護士や司法書士も相談に乗ってくれます。時間や資金に余裕があるときに、
・入院や介護が必要になったらどうするか
・死亡したらどうするか
といったことの対策を立てておき、今後のおひとりさま生活を充実したものにしていってください。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
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