第一関門は突破した。次が大一番となる。ラグビー日本代表が『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』プールD最大のライバル・イングランド代表に挑む。

9月10日、日本代表はチリとの初戦で勝利と4トライ以上のボーナスポイント、そして自信を掴んだ。キックオフ前にFL姫野和樹主将がメンバーから外れ、開始早々にチリに先制トライを献上……。暗雲が立ち込めるも、重苦しい雰囲気を初の『RWC』出場、ケガ明けのLOアマト・ファカタヴァが一掃する。チリの歴史的ファーストトライから2分後、SH流大がワンテンポ遅らせたパスをファカタヴァがインゴールへ運んだ。その後チリも粘り強いディフェンスを見せるが、日本はシンビン(10分間の一時退場)による数的有利を生かして29分にスクラムからWTBジョネ・ナイカブラがトライを奪うと、41分にはモールからファカタヴァが抜け出して21-7で前半を終える。

後半最初のトライもチリに許すも、その5分後にCTB中村亮土が相手を引き付けてFLリーチ マイケルがトライを返した。ボーナスポイントを獲得した日本はその後も攻め手を緩めない。スクラムからトライを連発。71分敵陣ゴール前でスクラムを押し込むとSH齋藤直人からパスを受けた中村が抜け出してトライ、79分スクラムでインゴール手前に迫るとぶっつけ本番でケガから復帰したLOワーナー・ディアンズがピック&ゴーでインゴールにボールをねじ込んだ。強化試合では精彩を欠き、キックの精度も低かったSO松田力也が6本中6本ショットを決めたのも心強い。日本は42-12で上々の白星発進したのだった。

流大 (C)JRFU

試合後、ジェイミー・ジョセフHCが「初戦のプレッシャーがある中、選手たちはいいパフォーマンスを見せてくれた。チリにもプレッシャーをかけられたが、状況に対応して戦った。今日の勝利は自信を得るためにも大事だった」と安堵すれば、姫野に代わってゲームキャプテンを務めた流も「『RWC』で勝つのは本当に簡単ではなくて、どんな相手でも1勝するのはとても価値のあるもの。チリが本当に素晴らしいファイトを見せてくれて、素晴らしいオープニングゲームになり、勝つことができてよかった。チリのフィジカルに苦戦することも多々あったが、自分たちのゲームプランを遂行することができた」と胸を張った。

『RWC』初戦で50キャップとなったPR稲垣啓太はこのようにコメントを残した。
「開幕戦が50キャップということで巡り合わせを感じている。たくさんの方々に支えていただいて50キャップを迎えることができたので、支えてきてくれたすべての方々に改めて感謝を伝えたい。初戦でみんな緊張していないと言ったら嘘になると思うし、プレッシャーを受け入れることによって、自分たちがやるべきことを信じて80分間続ければ結果は付いてくると思っていたので、最終的に80分間相手を上回ることができてよかった」

ジョージフォード (C)WORLD RUGBY/Getty Images

一方、大会前の下馬評が低かったイングランドだが、本大会でラグビーの母国の威信を見せ付けた。世界ランキング上位のアルゼンチンに対して、開始早々にFLトム・カリーが退場となり絶体絶命のピンチに陥るも、SOジョージフォードが3つのDGと6本のPGを決めて27-10。数的不利を感じさせないディフェンスでアルゼンチンの猛攻を1トライに封じた。

試合後、スティーブ・ボーズウィックHCは「今夜のジョージは素晴らしかった。キックだけではなく、彼が全体を通して示した冷静さとマネジメントを誰もが称賛するだろう。今夜起きたことはイングランドの素晴らしいリーダーシップの新たな一例と言える」とフォードを称えつつ、大会前に受けた批判について「この1週間、選手たちが見限られるのが少し早すぎると感じていた。私たちには質の高い選手たちが揃っているし、今日のピッチでもそれを感じたはず」と返した。

日本は姫野が幸い軽傷の模様、FLピーター・ラブスカフニの出場停止も1試合減り次戦に出場できる見込みなのに対して、イングランドはSO/CTBオーウェン・ファレル主将に続き、カリーも出場停止となった。それでもNO8ビリー・ヴニポラが出場停止明けとなる。さらに『RWC2015』でエディー・ジョーンズHCのもと、日本代表のFWコーチを務めたボーズウィックは日本代表に警戒を強める。

苦い記憶がある。2022年11月12日・トゥイッケナムで日本代表はイングランド代表に叩きのめされた。スクラムで押され、接点で後塵を拝し、FBフレディ・スチュワードに自由自在に走られ、攻めては猛タックルでモメンタムを封じられた。終わってみれば52-13。ラグビーの聖地で何もさせてもらえなかった。

堀江翔太 (C)JRFU

10か月前の完敗を覆すために必要となるのがスクラムである。スクラムでペナルティを連発していれば昨秋の二の舞も避けられない。9月17日の記者会見で長谷川スクラムコーチ、HO堀江翔太、PR具智元が覚悟を口にした。

長谷川コーチ「前回の試合で3回ペナルティを取られて、チームに迷惑をかけてしまい、負ける原因になった。入りでしっかり日本代表のスクラムが組めるように1年間かけてやってきたので対応していきたい。相手がどこにプレッシャーをかけてくるかはわかっているので、それをただ待つのではなく、そこを潰しにいけば向こうのプレッシャーになると話している。『やられる前にやる』というのがすごく大事かなと。そういうマインドなり、メンタリティを持って練習をして、試合で一発目から出せるようにする。『殴られる前に殴る』というイメージを今は全員で共有している」

堀江「相手を伺うというより、こちらからどうプレッシャーをかけるかというところにフォーカスを当ててやりたい。そこを個人でやるとバラバラになるので、どういう風にスクラムを組むのかということを理解しながら、どうプレッシャーをかけるかというところにフォーカスを置きたい。前3人、後ろ5人でしっかりと話し合っていいスクラムを組みたい」

具「去年のイングランド戦で、最初3本連続で取られた。バインドの掛け合いからヒットのところでちょっと受け身になっただけで、落ちてペナルティを取られてしまった。今は修正できているし、絶対やり返せるという自信があるのですごく楽しみ。個人的にも去年はやられたところがあるので、しっかり返したい」

具智元 (C)JRFU

『RWC2023フランス大会』ラグビー日本代表登録メンバー33名

【PR】
稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)50
クレイグ・ミラー※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)14
シオネ・ハラシリ※(横浜キヤノンイーグルス)0
具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)26
垣永真之介※(東京サントリーサンゴリアス)12
ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)27

【HO】
堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)73
坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)38
堀越康介※(東京サントリーサンゴリアス)7

【LO】
サウマキ アマナキ※(コベルコ神戸スティーラーズ)2
ワーナー・ディアンズ※(東芝ブレイブルーパス東京)8
【LO/FL】ジャック・コーネルセン※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)17
アマト・ファカタヴァ※(リコーブラックラムズ東京)4

【FL】
ベン・ガンター※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)8
下川甲嗣※(東京サントリーサンゴリアス)3
姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)29
福井翔大※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)3
ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)16
リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)81

【SH】
齋藤直人※(東京サントリーサンゴリアス)16
流大(東京サントリーサンゴリアス)35
福田健太※(トヨタヴェルブリッツ)0

【SO/FB】
小倉順平※(横浜キヤノンイーグルス)4

【SO】
李承信※(コベルコ神戸スティーラーズ)10
松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)34

【CTB】
長田智希※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)5
中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)35
ディラン・ライリー※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)15

【WTB】
ジョネ・ナイカブラ※(東芝ブレイブルーパス東京)5
シオサイア・フィフィタ※(花園近鉄ライナーズ)12
セミシ・マシレワ※(花園近鉄ライナーズ)6
レメキ ロマノ ラヴァ(NECグリーンロケッツ東葛)17

【FB/WTB】
松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)52
※は『RWC』初選出、所属チームの後の数字は代表キャップ数。

果たして、大一番で日本代表のリベンジはなるのか、イングランド返り討ちにするのか。『RWC2023』フランス大会・イングランド代表×日本代表は9月17日(日)・ニースにてキックオフ。28日(木)・トゥールーズにてサモア代表、10月8日(日)・ナントにてアルゼンチン代表と対戦。イングランド戦の模様は日本テレビ系NHK BS1/BS 4Kにて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

アマト・ファカタヴァ