混迷する世界の音楽界にあって、どこより活況を呈するのはアジアかも。コロナ禍の人的交流途絶でかえってそのローカル性が際立ち、「グローバルからグローカルへ」が顕著なのだ。アジア オーケストラ ウィーク2023は、まさにそんなトレンドのショーケース。

初陣を切るは、学校部活動ジュニアオーケストラからマニアックな団体まで多彩なアマチュアオーケストラ活動が繰り広げられる千葉から、千葉交響楽団の登場だ。地域活動を中心に地道に演奏を続けた実力派は2016年に千葉響と改称。山下一史を監督に迎え、各パートに若き名手を配し、首都圏メジャー団体に名乗りを上げた。千葉港と成田空港を有するアジア最東端の地らしく、20世紀後半の日本とアジアを跨ぐ創作をした團伊玖磨の若き幻想を軸に、シルクロード絵巻が音に披露される。

明治維新から一足遅れ、アジア最西端でも西欧化革命が起きた。新生トルコ共和国を担う才能としてパリに派遣され名教師ナディア・ブーランジェに学んだエルキンは、日本なら山田耕筰らに相当する才能。由来を辿ればウィーンフィルベルリンフィルよりも遙かに歴史あるイスタンブール国立交響楽団が、名匠アイカルのバトントルコ拠点のアスキンの独奏で披露する3楽章のヴァイオリン協奏曲は、とりわけ終楽章にトルコの和魂洋才を感じさせてくれよう。芥川の戦後日本モダニズムを、トルコが誇る81歳の巨匠がどう捌くかも興味津々。

当年とって81歳といえば、韓国チェンバー・オーケストラの音楽監督としてコンサートマスターに座るキム・ミンも同年齢だ。韓国で最も由緒あるアンサンブルを40年以上指導し、ソウルの各オーケストラ等でバリバリ働く120名が連なるメンバーリストから厳選した指揮者なし弦楽合奏を率いる、韓国のアレクサンダーシュナイダーかシャンドル・ヴェーグとも呼ぶべきレジェンドである。コロナを乗り越えモーツァルト交響曲完奏を達成、親交のあったユン・イサンからバロックまで幅広く対応する室内管は、国際コンクール1位が登竜門に過ぎないとまで言われるほど弦楽器の層が厚い韓国にあって、弾ける若手を集めた。スーパー合奏団に瞠目せよ。

(音楽ジャーナリスト 渡辺和)

アジア オーケストラ ウィーク2023

10月5日(木)、6日(金)、7日(土)
東京オペラシティコンサートホール

■チケット情報
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2344943

千葉交響楽団
10月5日(木) 19時開演
指揮:山下一史
ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて
團伊玖磨管弦楽組曲「シルクロード」
ムソルグスキーラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵

イスタンブール国立交響楽団
10月6日(金) 19時開演
指揮:ギュレル・アイカル ヴァイオリン:チハト・アスキン
芥川也寸志/弦楽のための三楽章(トリプティーク)
ウルヴィ・ジェマル・エルキン/ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー交響曲第4番 へ短調 作品36

韓国チェンバー・オーケストラ
10月7日(土) 15時開演
音楽監督:キム・ミン(ヴァイオリン) ヴァイオリン:ユン・ソヨン
シューベルト/序曲 ハ短調 D.8
ピアソラ/ブエノスアイレスの四季
ユン・イサン/弦楽のためのタピ
ドヴォルザーク/弦楽セレナーデ ホ長調 作品22

https://www.orchestra.or.jp/aow2023/

アジア オーケストラ ウィーク2023