「スパイダーマン」シリーズの最新作ゲームとして10月20日に発売されるPS5Marvel’s Spider-Man 2』のプレビューイベントが、9月12日にアメリカ・ロサンゼルスで開催された。世界中からメディアが集うなか、リアルサウンド テックでは本作でシニアアートディレクターを務めた、Insomniac GamesのJacinda Chew氏へのインタビューを実施。開発におけるこだわりやエピソード、日本のファンへのメッセージなど、盛りだくさんの内容となっている。

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ヴェノムのデザインは「液体としての特徴と強さの両立」にこだわった

――まず『Marvel’s Spider-Man 2』の開発で最もこだわったポイントを教えてください。

Jacinda Chew(以下、Chew):私が最もこだわり、最も時間をかけていたのが、ヴェノムです。ヴェノムはファンから本当に愛されているキャラクターですし、私たちのチームとしても、できるだけゲーム内で忠実に再現したかったんです。私たちからすれば、やはりコミックスがバイブル。まずコミックスを読み、そこからどうやってヴェノムを再現していくかをいろいろ考えています。まず、ヴェノムについてディレクターの方やマーベルの方にいろいろと質問しました。たとえば触ったときのヌルヌルした感触や、攻撃されたときにどうやって反応するかとか。ただ、液体っぽいイメージがあると同時に、強いキャラクターでないといけません。その2つのバランスを取ることを、キャラクター設計にあたって常にルールとして意識していました。

 強いキャラクターにしながらも、どうやってヌルヌルした触感や反応を作るか。これはチャレンジでしたね。いい例になるのは口だと思います。クリエイティブディレクターのBryan Intiharさんに「どのくらい喋るのか」「喋る場合は唇があるのか」「声帯はどうするのか」「口で攻撃する場合はどうなのか」など、いろいろと聞きました。普通の生物ではなく、骨もないので、顎が大きく開いたり、なにかに噛みついたりすることもできますし、液体生物でありながらも、確かに強いキャラクター。そんなヴェノムのバランスをどうするかということを、私としてはすごく考えて設計しています。もちろん、ヴェノム以外でもルールを強く意識し、こだわりました。

――世界的人気を誇るシリーズの最新作を開発するにあたって、プレッシャーはありましたか?

Chew:プレッシャーは本当にすごく感じていました。もちろん、スパイダーマンのファンはとても多く、熱狂的ですし、私たちにとってもスパイダーマンはとても大事なんです。特にInsomniacとしては、どうやってスパイダーマンを独自なものに作り上げるかが永遠の課題でした。そうした意味でもかなりプレッシャーは感じていましたね。

――では、本作を開発中に最も楽しかったこと、逆に最も苦労したことを教えてください。

Chew:一番楽しかった、おもしろかったのは、マップを2倍にして、ブルックリンとかクイーンズを追加したことです。特に私が意識したのは、マイルズの出身地であるブルックリンピーターの出身地であるクイーンズで、彼らの生い立ちに関係する環境を構築することでした。例えば、マイルズの通うブルックリン・ビジョンズ・アカデミーや、ピーターも出身校であるミッドタウン高校、メイおばさんの家があったりとか……。現実の地図に近いものを作りながらも、キャラクターが住んでいる世界をどうやって作るのか、いろいろ考えることはとても楽しかったです。

 逆にチャレンジだと感じていたのは、特に1作目、2作目でファンの反応が良かったストーリー性の部分ですね。今作のストーリーをどうやってさらにいいものにするか考えましたが、主人公が2人いれば、それだけストーリーもかなり複雑になります。MJ(メリージェーン)やハリーのような、それぞれの脇役のキャラクターもしっかり立てないといけないですし、それだけ多くのキャラクターの伏線を回収したり、入り組んだりしていくなかで、どうやってファンが納得する形でまとめ上げるのか。ストーリー性を重視しながらも、かなり肥大化し、複雑になったものをまとめ上げる作業は、かなりのチャレンジだったと感じています。

■クレイブンのキャラクターデザインから得た“学び”

――映像表現のなかで、それだけストーリーから影響を与えた部分はありましたか?

Chew:ありました。リサードがいい例ですね。原作のコミックスをどうやって再現するか、私たち独自の要素をどうやって与えるかという2つの要素も大きいですが、3つ目の要素として、ストーリーからの影響がありました。ピーターからすると、リザードになるコナーズ博士は友人ですし、原作に近い、服を着たバージョンのリザードをまず作ったんです。しかし同時に、カッコいい敵と戦うという要素も必要なため、より怪獣的なリザードも作りました。敵としてより迫力のある、凶暴化したリザードと戦わないといけない、という要素ですね。ストーリーでは、ピーターが友達と戦いながらも、傷つけたくはないから、どうやって敵を殺さずに倒すかという要素がありますが、そうしたこともいろいろと考えたうえで、2つのバージョンのリサードを作りました。これはストーリーから影響を受けての表現になったと思います。

――では、そんなリザードを含めて、本作で最も思い入れのあるキャラクターは誰ですか?

Chew:個人的には脇役やサブキャラクターが一番好きなのですが、今回のゲームプレイには出てこなかったですよね(笑)。出てきているキャラクターのなかでは、クレイブンは私がデザインするにあたって、とても好きなキャラクターでした。本当に極端な特徴を持つキャラクターなので、その要素をどうやって解釈して、どうやってゲーム内でデザインしていくか考えました。原作のコミックスだと、ライオンの頭がついたベストも着ていますし、体格もすごいですよね。でも、そんな人がニューヨークを歩き回ってたらあまりにもおかしいということで、さまざまなデザインの方向性を試行錯誤して、カモフラージュの迷彩服や軍隊服などをデザインしてみたんです。

 ただ、そのなかでキャラクターの芯となるものが失われてしまって良くない、という結論に至りました。そうして方向性を見直したところで、もう一度コミックスのデザインに立ち返り、今度はライオンの被り物をもっと大きくしたり、その要素を掘り下げてみようといろいろ考えました。チームでも本当に試行錯誤した結果、現在のキャラクターデザインになったんです。私たちとしても、あまりにも変えすぎると、キャラクターの芯となるものを失ってしまう危険性について、いい学びになりました。チーム全体としても、クレイブンのデザインを作るのはとても楽しかったですね。

――最後に、発売を楽しみにしている日本のファンへのメッセージをお願いします。

Chew:では、私から日本のファンに、ちょっとした攻略のヒントをお伝えします。「スパイダーマン」シリーズはストーリーが人気ということで、今作ではさまざまなコンテンツにストーリーの要素を詰め込んでいます。せっかくなので、メインストーリー以外のコンテンツやサイドミッションなどをプレイしてみて、原作につながるストーリー性を楽しんでいただけるとうれしいです。そうした要素を見逃したくない方は、ぜひサイドミッションも全部プレイしてみてください。

(取材・文=片村光博)

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