シン・仮面ライダー」(2023年)での好演も記憶に新しい俳優の池松壮亮が、仮設住宅の街で個性豊かな住民たちが繰り広げる青春群像劇「季節のない街」(ディズニープラスで全話独占配信中)にて主演を務めている。同作は、1970年黒澤明監督が「どですかでん」のタイトルで映画化したことでも知られる山本周五郎の同名小説をベースに連続ドラマ化。「季節のない街」では、宮藤官九郎が企画・監督・脚本を務めている。12年前に起きた“ナニ”を機に建てられた仮設住宅のある街を舞台に、池松演じる“半助”こと田中新助の目線を通して、その街で暮らす人々の生活をコミカルに描く。「間違いなく傑作」「グッときました」「衝撃の展開」などとドラマファンを中心に反響を呼んでいる本作で、主演を務める池松にインタビューを実施。半助というキャラクターへの思いや初めてタッグを組んだ宮藤作品の印象、自分にとっての「ホーム」などについて語ってもらった。

【写真】クール!池松壮亮の振り返りショット

■「近しい人から面白かったという声をもらっています」

――8月に配信されましたが、池松さんの元にも反響は届いていますか?

うれしいことに知り合いや家族など、近しい人から面白かったという声をさまざまもらっています。

――半助というキャラクターについてはどういうふうに捉えていますか?

半助は、あの街にとって“よそからきた者”でありながら最終的には誰よりも「あの街がなくなってほしくない!」と願う人です。この街において客観的な立場にあり、中立的でいて、痛みを知りながらも痛みを忘れていたような、アンバランスで、迷子でありながら、そのことにも慣れきってしまったようなキャラクターでした。

「どですかでん」という作品が大好きだった宮藤さんが、改めてあの世界を再構築する上で、あの街に入っていく語り部の目線が半助にはありました。それは宮藤さんの目であり、あの街に出会う観客の目になると思いました。半助があの街に確かに存在しながら、あの街を好きになっていく過程をちゃんと見せていくことで、ドラマの柱が出来てくると思いました。

――全10話にわたって一番心情に変化のあるキャラクターですよね。

過去の経験から、街がなくなること、誰かがいなくなること、「あるものがなくなること」に対して誰よりも強いトラウマがあります。必死にドライなふりをしているけど、もう誰も死んでほしくないし、もう自分がいる街がなくなってほしくないと思っています。

この街の住人に出会ったことで自分の居場所が見つからなかった迷子の半助が、どんどん呼吸をしやすくなっていく様を、丁寧に、ありふれた風景のように自然に見せていきたいと思っていました。あっという間にいつの間にかこの街を、半助も見てくれる人も、好きになっていた、ということを目指していました。

仲野太賀は「恐らく僕のことを1番知っている近しい仲の1人」

――半助にとって青年部のタツヤ(仲野太賀)とオカベ(渡辺大知)との出会いも大きかったと思いますが、仲野さんと渡辺さんと共演された感想をお聞かせください。

2人がいてくれて本当に心強かったです。太賀に関してはもうずっと一緒で、10代の頃からよく知っていて、恐らく僕のことを1番知っている近しい仲の1人だと思います。

渡辺くんに関しては10年以上前、お互い21、22歳くらいの頃に映画で出会っていて、その後ちょこちょこ偶然会ったりもしていました。青年部としてこの物語を引っ張っていく上でこれ以上ない仲間でしたし、最高の共犯者でした。3人であの街にどっぷりと浸かることができた幸せな日々でした。

――宮藤さんとは初めてタッグを組まれましたが、宮藤さんの脚本・演出を体感されていかがでしたか?

世界的に有名な「どですかでん」を、宮藤官九郎色を加えて新たな作品として構築し直し、現代に届くヒューマニズムを実現しながら、見事にポップに見やすく誰もが共感できる物語に仕上げてくれて、本当に素晴らしい、現代を代表する作家だとあらためて感じました。

見ていて楽しいだけでなく、人間の悲しさ、苦しさ、人間の優しさ、人間のおかしみや情愛を一つ一つ拾っていきながら一つのドラマ、街に仕上げています。初めての宮藤作品で、この作品に出会えたこと、共に作り上げることが出来たことを、心から幸せに思っています。

■僕が主人公を演じていいのかな?と思いました

――宮藤さんにインタビューをさせていただいた時、池松さんについて「ナチュラルでフラットな佇まいがしっくりきたし、なおかつバランス感覚が素晴らしい」とおっしゃっていて、「何の指示を出さなくても正解を出してくれる」と絶賛されていました。

いやいやいや、日々頭と心と体を使って模索していました。最初は宮藤さんがこれだけ思い入れのある作品で初めましての僕が主人公を演じていいのかな?と思いました。でもだからこそ、この作品をなんとか少しでも面白いものにしたいという気持ちが強くありました。

これまで宮藤さんの脚本作品、監督作品、出演作品をまるでこの国の文化のようにさまざま見てきました。そのどれもが素晴らしく、宮藤官九郎という人そのもののファンでした。そんな自分が宮藤作品においてどんなことができるのか、模索し続けた2カ月半でした。

――せっかくのご縁ですし、また近いうちにタッグを組まれる機会があると良いですね。

あったらうれしいですね。今はこんなにすてきな作品に混ぜてもらって、まだこれ以上望めないと言いますか、この作品が公開して、余韻に浸っているところです(笑)。でも、またお話を頂けたらぜひ飛んでいくつもりです。

――半助の周りで言うと猫のトラ(ベーコン)、擬人化バージョンの猫(皆川猿時)の強烈なビジュアルも印象的でした。

ものすごい存在感ですよね。行方(茨城)で12月~2月に2カ月半くらいかけて廃校になった学校の校庭に街を作って撮ったのですが、極寒の冬だったんですよ。マイナス温度の日もあるような寒さの中、僕も半ズボンで寒かったんですけど、皆川さんは常におなかを出している上、水をぶっかけられたりして…。この撮影で一番酷い目に遭っていると思います(笑)。

――誤解を恐れずに言うと“変な人”がいっぱいいる街(作品)だと思いますが、池松さんのお気に入りのキャラクターは?

特定の誰かを選べないくらいみんな好きです。青年部以外ではかつ子(三浦透子)も好きですし、各話素晴らしく変なキャラクターたちがそろっていて毎話面白かったです。荒川(良々)さんとか増子(直純)さんとか、皆さんそれぞれとの思い出があります。物語同様、本当に1年間あの街で暮らしていたんじゃないかという気がするくらい、街のみんなに対して、共に作り上げたスタッフも含めて、思い出があります。

――現場もさぞにぎやかだったんでしょうね。

とてもムードが良かったと思います。もちろん10話を2カ月半で撮りきるってみんなヘトヘトになるんですけどね。宮藤さんの現場を引っ張る力が素晴らしかったこと、横浜(聡子)さん、渡辺(直樹)さんの3名の監督、それからキャストとスタッフ、皆が良いムードを持ち込みながらこの物語の持つ力が合わさっていき、巻き込まれていきました。優秀かつ心のある人が多くいました。大変でしたが、良い作品が仕上がった今、みんなで朝から晩まであの街で、笑いながら楽しく作り上げた思い出だけが残りました。

――宮藤さんらしいコミカルな部分だけではなく、ホームレスの親子だったり、望まぬ妊娠だったり、立ち退きだったり、社会の残酷な要素も共存しているのも印象的です。

ジャンル的、表面的では語れない人間の多面的な要素を情愛をもって描くことが出来ているからこそ、多くの人に共感できるものになっていると思います。ろくでもないことばかりが起こるあの街ですが、誰かの日々の呼吸によって、人が人に向けるまなざしやおせっかいによって、そっとつなぎ止められる何かがあります。悲しい過去や痛みが潜む街の中で、どれくらい“人間のおかしみ”を出せるか、というのはキャストそれぞれ挑戦だったんじゃないかなと思います。

■池松の“ホーム”は「出会う現場、出会う物語の中に見つかります」

――本作のキャッチコピー「ここは仮設と呼ばれた、オレらのホーム。」にちなんで、池松さんにとっての“ホーム”とは?

俳優はいろんな物語=フィクションの中にトリップしていくという意味で、出会う現場、出会う物語の中に“ホーム”が見つかります。今回の作品では撮影場所の近くにお風呂屋さんがあったので、青年部はほとんど毎日撮影終わりにサウナに入って外気浴をして、みんなで缶ビール1杯飲んで寝るのが日課でした(笑)。

あの期間はあの場所がホームでしたし、みんなにとってもそうだったと思います。決して現実のホームではありませんが、出会う先々で、そういった仮設のホームに心と体を預けるということが俳優という不思議な職業の特徴なのかもしれません。

――半助は青年部の2人とこの街で“運命の出会い”を果たすわけですが、池松さんにとってこれは運命の出会いだったなと思う出会いは?

それはほぼ毎回思っています。今回の作品も大袈裟ではなく、運命の出会いだと思いました。お互いに思い入れを持てて、いい撮影を経て満足できる仕上がりになり、多くの方に喜んでもらえて…。今回初めて出会った宮藤さん、スタッフキャスト全て、大きな出会いだったと思っています。作品作りというのはそれくらい一体となるべきものだと思っています。運命の出会いだなと思えない物作りで、良い作品や良い経験ができることはあまりありません。

この作品はこの国が経験した震災というものをはらみながらも、とても笑えて、見やすくて、面白い物語になっています。各話約30分で見やすいと思うので、ぜひ多くの方にこの作品を楽しんでもらえたらと思っています。

◆取材・文=ブルータスシーダ(STABLENT LLC)

池松壮亮にインタビューを行った/撮影:永田正雄