1990年代に日本が、2000年代に米国がそれぞれ経験している不動産バブル。しかし、その後の2国には大きな違いがあると、フィデリティ・インスティテュートの首席研究員・重見吉徳マクロストラテジストはいいます。「不況が長引いた日本」と「すぐに立ち直った米国」の差はいったいなんなのか、みていきましょう。

バブル崩壊後…「30年低迷の日本」と「上昇続く米国」

不動産価格

[図表1]は、日本と米国の不動産価格を比較したものです。それぞれ2008年までの最高値を100として基準化しています。

これをみると、日本の不動産価格は1991年7~9月期をピークに下落し、その後、30年以上経っても当時の水準を回復しておらず、大幅に下落した水準のままです。

他方の米国はすでに、2007年1~3月期のピーク水準を約10年で回復し、現在はピーク水準から約60%高い水準で推移しています。

株価

次に、株価を確認します。[図表2]は、日本と米国の主要な株価指数を比較したものです。それぞれ2008年までの最高値を100として基準化しています。

これをみると、日本の株価は1989年12月末をピークに下落し、その後、30年以上経っても当時の水準を回復していません。

他方の米国はすでに、2007年10月末のピーク水準を5年5ヵ月で回復し、現在は当時のピーク水準の3倍近い水準で推移しています。

経済状況

さらに、経済状況について確認します。[図表3]は、日本と米国の名目GDPを比較したものです。

これをみると、日本の名目GDPは1990年代以降、ほぼ横ばいで推移しており、最近になってバブル崩壊後の最高水準を更新しています。他方の米国は、2008年9月のリーマン・ショック後も「右肩上がり」の経済成長を続けています。

以上、確認したように、日本と米国の経済や資産価格の動向は大きく異なります。両者を分けたものはなんでしょうか。シンプルに考えてみます。

「政策対応」が日米の明暗を分けた

1.金融政策

日本と米国を分けたものはなんでしょうか。大きな要因として、政策対応が挙げられます。まず、金融政策についてみていきます。[図表4]は、日本と米国の政策金利と中央銀行の保有総資産(GDP比)を比較したものです。

日本【左】と米国【右】とを比べると、日本は、金融政策に関する対応(政策金利の引き下げと保有資産の拡大)が遅かったことがわかります。

まず、日本については、不動産価格や株価のピークからゼロ金利政策の導入までに、約10年の時間を要しました。しかも、1999年2月に導入されたゼロ金利政策は2000年8月にいったん解除されてしまいます。

ゼロ金利政策導入が遅れたため、その後の量的金融緩和政策(保有総資産の拡大)の導入も遅れることになりました。日銀は2001年3月から量的金融緩和を開始しました。バブルの崩壊から10年以上の期間が経過していました。

他方の米国については、不動産価格や株価のピークからゼロ金利政策の導入までは約1年程度でしたし、ゼロ金利政策の導入直後に量的金融緩和政策(保有総資産の拡大)を導入しました。

当局による金融緩和への積極果敢な姿勢が、金融市場の信頼感回復に好影響を与え、経済活動を刺激しつづけたと考えられます。

2.財政出動(不良債権の処理)

次に、不良債権の処理(財政出動による対応)について確認します。

[図表5]は、前節の図に、不良債権処理の抜本的な処理につながった財政出動のタイミングを付け加えたものです。

日本【左】と米国【右】とを比べると、日本は、財政政策に関する対応(不良債権の処理)が遅かったことがわかります。

まず、日本の場合、不動産価格や株価のピークから、不良債権の抜本処理につながった『金融再生プログラム』の公表(2002年10月)までに約12年の時間を要しました。

他方の米国については、不動産価格や株価のピークから、不良債権の抜本処理につながった『不良債権買取プログラム』(Troubled Asset Relief Program;TARP;2008年10月発効)までに約1年でした。実際には、このTARPは、不良債権の買い取りというよりも、日本と同様、金融機関への増資(公的資金の投入)におもに用いられました。

日本が不良債権処理に「約12年」かかったワケ

景気の低迷と不動産価格の下落は、売上や所得の減少と融資の担保価値の下落によって、金融機関のバランスシートに不良債権を蓄積させます。

家計や企業は借り入れの返済を急ぎ、金融機関は新規融資のための体力がなくなり、新たな借り入れ(=支出)を控えられることで、景気は収縮し、これが資産価格のさらなる下落を招く、いわゆる「バランスシート不況(負債デフレ)」を引き起こします。1930年代の米国と1990年代の日本がこれに該当します。

日本が不良債権の抜本的な処理に約12年もの時間を要した背景は、①景気回復への淡い期待、②銀行経営者や金融当局による責任逃れ、③世論の反対と政権・国会の逡巡などが挙げられます(→たとえば、西野智彦著『平成金融史』中公新書などを参照されてください)。

日本の場合、金融機関による不良債権処理を先送りにしたため、与信の抑制と景気の低迷が続きました。これが、低インフレ期待につながったとみられます。デフレは家計や企業による債務の返済を困難にします。

バランスシート不況を防ぐための主要な処方箋は、「金融機関による損失の早期計上」とこれを可能にする「増資(公的資本の投入)」です。また、債務の借り換えや公的資本の投入を容易にする「金融緩和」です。

レイ・ダリオが提唱する、“美しいディレバレッジ”をもたらす「4つのレバー

ちなみに、レイ・ダリオは、世界の過去48件の債務危機を調べた著書のなかで、

1.(債務を減らすための)緊縮

2.(経済を刺激し続けるための)貨幣発行

3.(将来の信用と成長を回復軌道に乗せるための)デフォルト/債務再編

4.(『持てる者』の救済を一部相殺するための)富の再分配

の4つの「レバー」がバランスよく働くときに、『美しいディレバレッジ』(“beautiful deleveraging”)が生じて、債務危機は収束すると整理しています。

重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュー

首席研究員/マクロストラテジスト

(※写真はイメージです/PIXTA)