近年、中国では長らく海外ブランドがその天下であった分野において、国産ブランドが台頭してきています。本記事では、株式会社伊藤忠総研・主任研究員の趙瑋琳氏の著書『2030年中国ビジネスの未来地図』より、昨今注目を浴びる中国のコーヒー、化粧品・メイクアップブランドの戦略の中身を紐解いていきます。

スターバックスに挑むコーヒーブランド

茶文化が根付いている中国ですが、近年、コーヒー文化を受け入れ、コーヒーを楽しむ消費者が増えています。そのため、コーヒー関連市場が拡大し、コーヒービジネスは成長性の高い消費分野となっています。

1999年に北京で一号店を構えたスターバックスは、コーヒーとともに「第三の場所(サードプレース)」を提唱し、新たな消費体験とライフスタイルの提供で高級イメージを作り出し、不動の地位を得ています。2018年にはアリババと連携し、オンライン注文と配達にも力を入れています。

そんな中近年は、米国のブルーボトルコーヒーやカナダのティム・ホートンズなどほかの外資系カフェチェーンも、中国におけるコーヒー市場のさらなる拡大を見据えて、こぞって中国へ進出してきています。

一方、スターバックスをはじめとする外資系ブランドに挑む中国コーヒーブランドのトップは、コーヒーチェーンの「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー/Luckin Coffee)」です。

2017年秋に創業した当時は、オンラインのサービスのみで、デリバリーによる場所を問わない消費体験の提供とクーポンプロモーション活動を通じて、利用者の拡大に成功しました。2018年からはリアル店舗の出店を加速させ、破竹の勢いでスケールアップしています。

リアル店舗は洗練された空間で、コーヒー以外に中国で人気の高いフルーツティーやミルクティーなども提供しています(写真)。

店内の注文はすべて専用アプリあるいはSNSアプリ・ウィーチャットのミニプログラムで受け付けており、来店前の注文を促して、販売効率を高めようとしています。実際、大都市では、地下鉄から降りる前に注文し、店内でテイクアウトしてオフィスに向かう消費者が多くなっています。このようにデジタルとリアルの融合で実現した新たな体験と高い利便性こそ、成功のカギとなっています。

ラッキンコーヒーはその高い成長性が市場から評価され、創業からわずか2年で米国ナスダック市場に上場を果たしました。ところが2020年4月初め、同社に、売上高と経費の水増しによる、約320億円の不正会計が発覚。これにより市場と関係者に衝撃を与えただけでなく、上場廃止に追い込まれています。

しかし、不祥事で経営に大きなダメージを受けてから新経営陣の下で再建を進め、現在は回復軌道に乗りつつあります。そして2022年6月末時点の店舗数は7195で、スターバックス(5761店)を大幅に超えています。ラッキンコーヒーは再び、スターバックスに対抗する存在となっています。

ラッキンコーヒー以外にも…次々に新ブランドが誕生しているコーヒー関連ビジネス

ラッキンコーヒー以外にも新興チェーンやインスタントコーヒーを手掛けるブランドが増えています。

2015年に上海で設立された「Manner Coffee」は上海をはじめ、北京や深圳、杭州、成都、武漢など主要都市を中心に店舗を構え、「精品珈琲(スペシャルティコーヒー)」を展開しています。

「三頓半(サンドンバン/SATURNBIRD)」はインスタントコーヒーのネット販売からスタートし、知名度を上げてから実店舗を展開した、人気の高いブランドです。

コーヒービジネスに参入する茶飲料ブランドもあります。蜜雪氷城(激安ティードリンクチェーン)がその一例ですが、ここでは湖南省長沙市に根差した発展から全国的な有名ブランドへ成長した「茶顔悦色(チャヤェンユェセィ/Modern China Tea Shop)」を紹介します。

独特な中国風の店舗設計、巧みなSNS運営およびリーズナブルな価格は高い人気の源泉です。2022年夏に同社は新たな試みとして、長沙市の商業エリアに5店のコーヒーショップを同時にオープンしました。中国風の外装と内装や、中国風の名前の商品、「ラテのうえに唐辛子」というようなインスタ映えも良い目玉商品、多くの消費者が手を出しやすい価格(14元〜20元)の設定など、茶顔悦色と同様に中国風を売りにする運営手法をとっています。

このように次々と新しいブランドが誕生しているコーヒー関連のビジネスは今後も成長が続くことが予想され、外資、内資ともに中国のコーヒー市場をめぐる競争はますます激しくなっていくでしょう。

台頭する2つの国産化粧品ブランド

化粧品・メイクアップ分野は長らく海外ブランドの天下でしたが、近年、国産ブランドの台頭が顕著になっています。ここでは、スキンケアブランドの「林清軒(リンシンシュンLinQingxuan)」とコスメブランドの「花西子(フローラシス/Florasis)」を事例として取り上げます。

①危機を転機に変えて躍進する「林清軒」

林清軒は2003年創業で新興ブランドではありませんが、デジタル手段の活用で危機を転機に変えて新たな発展を遂げています。植物由来のオーガニックコスメ、特に山茶花さざんか)オイルを看板商品にし、全国で300以上の店舗を展開しています。

百貨店を中心とした販売チャネルでビジネスが順調に拡大したところに、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によって売上が急減し、業績不振に。その打開策としてアリババのタオバオライブにて創業者によるライブコマースを始めたところ、それが功を奏し、前年同期より大幅な売上増を実現しました。

デジタルの威力で危機を乗り越えた林清軒はデジタル化を積極的に推し進めており、ハイエンドの中国スキンケアブランドを志して再出発しています。

②「国潮」ブームの追い風を受ける「花西子」

花西子は2017年創業です。ブランド名にもある「花」を意識して「花で美しくなる」をコンセプトに掲げています。肌に優しい天然植物由来のエッセンスを使用したコスメ作りで、「東方美(東洋の美)」をコンセプトに、古典の美を目指しています。商品の品質だけでなく、容器やパッケージのデザインなど、細部までこだわっています。

その特徴は中国風の華やかなデザインであり、豊かな感性と芸術性を持つ美しさが話題を呼んでいます。「国潮」ブームで中国の伝統的文化やデザインを取り入れる商品が人気を集める中、様々なプラットフォームでのアピールにも力を入れています。

その結果、同社の売上高は2018年の4000万元から2021年には54億元まで急増しています。また、2022年の「独身の日」セールでは、海外の有名ブランドを抑え、コスメ売上高ランキングの1位を獲得しています。

そして花西子は2022年秋に杭州に初めての旗艦店をオープンさせました。なぜ消費力の高い1級都市の北京や上海ではなく、新1級都市の杭州で出店したかというと、杭州が持つ「東方美」という都市イメージがブランドイメージと最も合致しているからです。

昔の詩人は「上有天堂、下有蘇杭(天に極楽あれば、地に蘇州と杭州あり)」と、蘇州と杭州の風光明媚な景観と魅力を表現しました。蘇州も杭州も古き良き中国の趣がある都市です。

一方では、長江デルタに位置するため、「改革・開放」以降の経済発展によって現代都市へと変貌を遂げています。特に、浙江省の省都である杭州は、西湖や霊隠寺などの観光名所で「東方美」を擁する美しい街としての知名度が高く、伝統文化と豊かな自然環境が最もうまく融合されている都市とされています。

また現代都市としての側面としては、近年、アリババの本社所在地としてその存在感が大きくなっています。花西子は杭州の魅力を活かし、ブランドの魅力を高めようとしているのです。

なお、海外進出にも乗り出している花西子は、多くの中国企業が選ぶ東南アジア市場ではなく、経済が成熟した欧米諸国や日本に注力しています。2020年から日本のアマゾンで販売を始め、また自社サイトも立ち上げて、日本でも多くの女性から支持を集めています。

趙 瑋琳

株式会社伊藤忠総研 産業調査センター

主任研究員

(※写真はイメージです/PIXTA)