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話を聞かせてくれたAさん。道頓堀川ダイブは2回目だという

阪神タイガースの優勝と切っても切れないものーー。それは歓喜したファンによる、道頓堀川にかかる戎橋(えびすばし)からの飛び込みだ。

最初の飛び込みが行われたのは、岡田彰布監督(65)がまだ選手時代だった1985年の優勝の後だった。このとき大暴れした阪神ファンがケンタッキーフライドチキン道頓堀店に置かれていたカーネル・サンダース人形を道頓堀川に投げ込み、そのまま行方不明に。その後、03年の星野仙一監督(享年70)の優勝まで18年間も優勝できなかったのは「カーネル・サンダースの呪い」とも言われた。

その18年にわたる鬱憤を晴らすかのように、03年の優勝は記録的な飛び込み人数を記録した。当時、本誌記者は現場を取材したが、試合前30分にひとり飛び込んだことが引き金となり、翌日の明け方までのべ5300人がダイブ。うち7人が全裸に近い姿で飛び込んだとして逮捕。多数のケガ人のほか、死者1名を出す大惨事となった。

そのため2年後の05年、岡田阪神が優勝した際には警備員を大幅に増員。さらに飛び込みを不可能にするため、高さ3メートルの透明の板で戎橋の両側を覆ってしまう荒技を繰り出した。それでも当時の記録では、55人が戎橋から飛び込んだとある。

ただこの05年の優勝時にも飛び込みを防いだ反作用として、鬱憤をため込んだ阪神ファンが全裸になって戎橋周辺で踊りまくるという異常な光景もあちこちで見受けられた。

そんな阪神優勝の風物詩となった、戎橋から道頓堀川への飛び込み。前回の優勝から18年が経過した2023年、またも岡田阪神の優勝に阪神ファンはどんなことをやらかしたのか。記者は、再び現場へと直行した。

■やはり虎はいた。パンツ一丁で勢いよく飛び込み咆哮

結論はすでに報じられているとおり、今回ダイブしたのは26人。たしかに現場は盛り上がってはいたが、03年や05年の優勝時ほどカオスな状態にはなっていなかった。

応援バットを打ち鳴らし、「六甲おろし」を歌い、選手の応援歌を合唱するファンたち。だが03年の時のように、かに道楽の目玉をはぎ取り、お店のキャラクター人形の足を折るような輩は皆無。カーネル・サンダース人形を形を川に投げ捨てる人もいない。また05年の優勝時のように全裸になって踊る人もすっかり消え去っていた。

記者と同じく阪神ファンも年を取り、礼儀正しくなったということだろうか。また若いファンの姿もあり、世代交代も起きているようだ。

だがそんななか、やはり虎はいた。

戎橋のたもとの遊歩道あたりに人垣ができている。「阪神優勝、飛び込め!」とはやし立てる声が飛び交うと、その中心にいた男性・Aさん(43)が「飛び込んでエエかなぁ?」「いくでー!」とやる気満々で周囲をあおる。するとパンツ一丁になり、勢いよく飛び込んだ。友達と来ていたようで、すぐさま数人が手を出して引き上げる。警察はいたが、特に何もせず静観していた。

川から上がったAさんが「やった、飛び込んだでー!」と雄たけびを上げると、集まった阪神ファンから拍手が上がっていた。

警察官による“人の鎖”をぶち破るのは至難の業だった

そんなAさんに話を聞いた。実は以前の優勝時にも飛び込んだことがあるそうで、今回で二回目だという。

「前の優勝のときは平気で橋の上に行けたし、好き勝手に飛び込めた。橋の欄干に上ると、集まった1000人ぐらいの阪神ファンから大声援が上がって。こっちもノリノリ。大歓声のなか『おぉー!』という感じで飛び込むと、みんな次から次へとダイブして大盛り上がりでした。

だから今日は当然、飛び込もうと思って友だちと一緒に和歌山から来ました。サトテル(佐藤輝明・24)がホームラン打ったのを見て、『これは優勝や!飛び込まなあかんやないか!』と思って(笑)。ただ前と違って、警備がめちゃくちゃ厳しくなっていて。橋の上から飛び込むのは不可能だったので、やむなく遊歩道からダイブするしかなかった」

それもそのはず。今回の警備人数は1300人。橋の両側に手をつなげるほどの間隔で警察がびっしりと並ぶ。その奥にも警察が睨みを聞かせていた。この“人の鎖”をぶち破って飛び込むのは、たしかに至難の業だ。

さらに阪神ファンが騒ぎ出しそうな様子を見せ始めると、橋を通行止めに。そのときも警察がロープのようなものを持ちあい、橋を封鎖していた。

さらに今回は、マイクで安全通行を呼びかける大阪のDJポリスも出動していた。いきなり「立ち止まらないでください!」と注意するのではなく、必ず「阪神ファンのみなさま、本日は優勝おめでとうございます」とお祝いのあいさつを挟む心遣いが。 結果、阪神ファンの暴れたいという気持ちもトーンダウン。

こうした警察のみごとな連携によって、飛び込む人の数は激減していたのだった。

■「2回飛び込んだ」からこそ分かった意外な変化

Aさんといっしょに和歌山からきたという友だちのBさんはこう語る。

「前はもっと人が集まっていた。人の数も多かったし、すごかった。飛び込む人の数も違うし、橋のまわりでもみんなもっと暴れていた。そもそも、警察の数が違ったし。あれだけ並ばれたら、何もできんよ。前は全裸になっているファンもいたけど、気軽にパンツも脱げませんわ(笑)。なので、仕方なく警察のいない遊歩道から飛び込むことにしました。

一応、その前に警察の人に確認はしました。『今から友だちが川に飛び込むと思うんですけど、そうなったら逮捕されますか?』って。そうしたら『逮捕はないです。ただ非常に危険が伴いますので、やめていただくようお願いしています。安全に気をつけてください』と言っていたので、それなら行こうということになりました」

そうしてダイブしたAさんだが、意外な変化を感じたという。

「水が綺麗になっていたんです。前はもう飛び込んだ瞬間、もう目がバチバチに痛くなってね。体中からドブのにおいがきつくて、たまらんくらい臭かった。でも今回は目も痛くなかったし、ドブのにおいもしなでしょ。ほら」

そうして記者に腕を差し出してきたAさんは、最後に「これならシャワーを浴びなくても、そのまま帰れるわ」と言って上機嫌で去っていった。

かつてはヘドロがたまり、悪臭のただよう「ゴミの川」とも呼ばれていたという道頓堀川。だが近年ではヘドロを除去し、堰の開閉時間を調整することで水質のきれいな水が流れ込むよう工夫。大腸菌を除去するシートを活用するなどして、水質浄化は以前とは比べものにならないほど進んでいるという。

ただし腸菌の数はまだまだ基準を超えており、水泳は不可とのこと。やはり、飛び込むのは控えたほうがよさそうだ。

そうはいっても水は浄化され、警察の警備は洗練され、阪神ファンも礼儀正しくなっていた。18年ぶりの阪神優勝が見せてくれたのは、そうした時代の流れを感じさせる光景だった。