60年以上にわたって絶大な人気を誇るNHKの教育番組「おかあさんといっしょ」。誰でも一度は目にしたことがあるだろう同番組だが、いまやその人気は子ども世代に限らないものになりつつある。“子育ての救世主”「おかあさんといっしょ」シリーズについて、親世代をもトリコにする現代ならではの価値を考察していく。

【写真】さまざまなコスプレで楽しませてくれるまことお兄さん(福尾誠)

■親をもトリコにする魅力的な出演者たち

子ども向け、親子向け番組において不動の存在としてトップに君臨し続ける番組といえば、1959年から放送を続けるNHKの長寿番組おかあさんといっしょ」。2歳から4歳を対象として、可愛らしいキャラクターや元気いっぱいの歌のお兄さん・お姉さん、体操のお兄さん・お姉さんが笑顔をくれる。

NHKの公式HPでは、同番組について「低年齢児にふさわしい情緒や表現、言葉や身体などの発達を助けることをねらいとしています」と紹介。年代によって出演するメンバーは代替わりし続け、現在“歌のお兄さん”は12代目、“歌のお姉さん”は22代目となる。キャラクターもそれぞれの年代で代替わりしていることから、「おかあさんといっしょ」のキャラクターでジェネレーションギャップを感じたことがある人も多いのではないだろうか。

昨今では当たり前の動画サイトなどがなかった時代から、子どもの興味を引きつけ続けた同番組。しかも道徳や倫理観を育てる情操教育に役立ち、身体を動かすように促す“体操”の時間まで持ってくれる。子育て世代にとっては、まさに救世主的存在ともいえるだろう。

注目すべき点は、最近になってこうした“助けられている父母”からの応援が拡大しつつあること。歌のお兄さん、お姉さん、体操のお兄さん、お姉さんといった出演者を、“推し”にする人が増えているのだ。

必死に頑張る子育て、誰しも弱音を吐きたくなるときがある。そんなとき“画面越し”に子どもの面倒を見てくれる明るく爽やかなお兄さん・お姉さんの姿は、よほど輝いて見えているに違いない。

たとえば11代目歌のお兄さん・横山だいすけは、約9年という長期間“歌のお兄さん”を務めあげた人気者。8月現在でYouTubeは約21万人、Instagramは約15万人、公式ブログは約18万人と、フォロワー数が注目度を物語っている。

爽やかな笑顔が印象的な“だいすけお兄さん”は、舞台俳優出身の強みを活かした豊かな感情表現と大きな体の動きが特徴だ。2019年の結婚報告には1万5千のいいねがついたほか、多数のニュースメディアが取り上げるほど話題になった。

逆に歌のお姉さんといえば、はいだしょうこを思い浮かべる人も多いはず。元タカラジェンヌらしく華やかな見た目と、壊滅的な腕前で大きく話題をさらった絵画のセンスといったお茶目な一面のギャップが印象深い第19代目歌のお姉さんだ。

現役歌のお兄さん・花田ゆういちろうとお姉さん・ながたまやに対しても、親世代からの信頼が厚い。歌の実力、子どもが安心して見られるクリーンなイメージ、明るく爽やかなキャラクター。すべてを兼ね揃えた番組出演者たちが、“推し活”という言葉が普及した現代で“推し”の対象になるのは自然な流れだったのかもしれない。

■子どもと親で違う、「おかあさんといっしょ」の価値

同番組は、画面の向こうから子どもに向かって呼びかける場面が多いのも特徴の1つ。そしてそうした視聴者と出演者の交流を疑似的なもので終わらせず、例年「コンサート」という形で実現しているのも特筆すべき点だろう。

1987年以降、定期的に開催されている「おかあさんといっしょ ファミリーコンサート」。歌や体操の多い同番組の特性を活かして文字通り歌を聴かせるコンサート形式が、近年はミュージカルや劇といった演目に変わりつつあるという。もちろん体操で身体を動かしたり、主役である子どもが飽きない工夫も取り入れているそうだ。

「ファミリーコンサート」は全国で公演されており、2023年はすでに公演を終えた東京・埼玉・福井を含め、2024年3月までに全13公演を予定。参加者からは「ステージ上も観客席もすべて可愛かった」「孫と来たけど、4歳児が歌い踊りながら見られるコンサートって素敵すぎる」「子どもも楽しんでたけど、それ以上に親が楽しんでしまった…。お兄さんかっこいい」など、子どもだけでなく大人まで楽しめると感動する声は多い。

子どもたちにとっては情操教育、大人たちにとっては“推し活”。子育てが始まってからは自分の時間が取れず、ライブやコンサートへ気軽に行くのは難しくなったという人が大半だろう。そのなかで子どもが夢中になり、大人たちが一時だけでもリフレッシュできる同コンサート。 「子どもが楽しむ」もの、ではなく、文字通り親も楽しめる、「親子で楽しむ」シチュエーションといえる。

「ファミリーコンサート」は公演チケットの販売が抽選式で、応募者多数で当選倍率の高さでも有名な人気コンテンツ。これまで複数の公演が商品化されている。直近でも8月に「おかあさんといっしょ」ファミリーコンサート ~しれば・・・トモダチ?ぴょんぴょんびょ~ん!」が発売。2023年5月に開催されたNHKホールでの公演で、現体操のお兄さん・和夢お兄さん(佐久本和夢)が始めて登場したコンサートでもある。さらに直前の2023年春に卒業したばかりの12代目体操のお兄さん・誠お兄さん(福尾誠)も出演するなど、メモリアルな公演を収めたDVD・Blu-rayだ。

またゲストの誠お兄さん自身の、メモリアル映像集が7月5日にDVD・Blu-rayで発売されたばかり。32曲分のうたクリップや誠お兄さんの筋肉美が堪能できる「もぐらトンネル」のほか、人気コーナー「からだ☆ダンダン」や「おかあさんといっしょファミリーコンサート 高松公演」のようすを収録した特典映像まで用意されている。またパッケージには直筆のメッセージカードが封入されているなど、ラインナップはアイドル仕様。

おかあさんといっしょ」関連のみならず、未就学児を対象とした「おとうさんといっしょ」からも、「『おとうさんといっしょ』みんなでうたおうオーラボー!~10周年ありがとうさん~」というDVDが発売された。充実した映像商品のラインナップは、“子どもが見る教育番組”というよりも“アイドルグループ”のそれに近い。

子どもだけでなく、いまや大人もしっかり楽しむコンテンツとなりつつある「おかあさんといっしょ」シリーズ。爽やかで朗らかな登場人物たちが、穏やかに優しい交流のなかで過ごす…。そんな同番組の世界観は、目まぐるしく変わる社会のスピードと責任に立ち向かう現代の大人にとって、新たな癒しであり、活力の源泉になっているのだ。

“子どもと見る番組”から“推し活”へ 子育て世代の強い味方「おかあさんといっしょ」の価値/※提供画像