「2時間ドラマの帝王」「サスペンスの帝王」とも称される俳優・船越英一郎。刑事といったミステリに携わるイメージの強い彼だが、地上波以外ではさまざまなジャンルのバラエティにも出演している。たとえば無料のBS放送局「BSJapanext」にて放送中の「おとなの嗜呑」(毎週土曜夜8:00-9:00、BSJapanext)は、厳選された“こだわりの1杯”を造り手の想いや歴史とともに味わうおとなの番組だ。同番組の収録後、バラエティへ出演する際の心構えを深く掘り下げてみた。

【写真】船越英一郎、芸歴40年の深みを漂わせる“おとな”の風格

■「人が幸せな様子って、絶対に共鳴していただけると僕は信じてる」

――「おとなの嗜呑」では、船越さんの非常に表現豊かな食レポが印象的です。どこで技術を習得されたのでしょうか。

実は僕、食レポ歴は長いんですよ。「ソロモン流」(テレビ東京系)を9年間、「ゴチ」(日本テレビ系、「ぐるナイ」の人気コーナー「ゴチになります」)もやってましたし。ほかにもいろいろな食レポをする機会は多くて、わりと若いときから食にまつわる番組をたくさんやらせてもらっていたんです。

――船越さんといえば「サスペンスの帝王」のイメージが強いので、意外ですね。

もうね、だから僕いろんな顔があるんですよ本当は。でもあまりにも「サスペンスの帝王」っていうイメージが濃くて!(笑)パブリックイメージなんでしょうけどね。僕は決してサスペンスだけやってきた俳優ではないんですよ。いろいろなジャンルのドラマをやっているんですけど、どうしてもサスペンスの色に染まってそういうイメージになっちゃうんでしょうね。

でもなんていうか、「サスペンスの」という冠をかぶせていただいているのは感謝しています。なかなか1つのイメージのアイコンになるっていうのは難しいことなんで、そこのポジションとして考えていただけるのはすごくありがたいことだと思います。

――同番組はいわゆるバラエティ。役を“演じる”のではなく、船越さんが「楽しい時間・情報」を“届ける”ときに気をつけていることとはなんでしょうか。

みなさんに楽しんでいただくというのは大前提なんですけど、「何を楽しんでいただくのか」というのが難しいところだと思っています。この番組でいえば、観てくれている方に僕っていうフィルターを通して「アイツがあんなにおいしそうな顔してるんだから、ちょっとあのお酒に触れてみたい、日本酒にチャレンジしてみたい」という少しの変化をもたらすことができたら…というのが要。だからまずは“僕自身が素直に楽しめる”かが大事なポイントだと思います。

そこをいくと、スタッフの皆さんが本当に厳選した蔵から美味しいお酒を持ってきてくださるので、嘘や演じることなくお酒の美味しさと向き合わせてもらえている。そこが皆さんに楽しんでいただけるポイントになればなと。人が幸せな様子って、絶対に共鳴していただけると僕は信じているんです。

■「自分の為には頑張れないが、誰かの為なら頑張れる」「求道者の前にサービス業でありたい」

――芸歴40年を超える船越さんですが、ご自身が大事にしている継続するコツ、楽しく生きるコツなどを教えていただけますか。

やっぱり「自分が楽しむ」ことよりも、いかに「見ていただける人」に楽しんでもらえるか…ですね。人って自分のためにはそんなに頑張れないんですが、誰かのためには頑張れたりするんですよ。俳優の仕事は、ある側面で「道を究めていく」というものです。ただ僕は「求道者」である前に「サービス業」でありたいとどこかで思っています。

「俳優は求道者である」という道を歩く方もいらっしゃる。それがものすごく素敵な道だということも知っています。でも僕はあえて「サービス業の道を歩く俳優」でいたいとある時期から思いまして。だからドラマをやらせていただくのもバラエティをやらせていただくのも、僕のホスピタリティをもって臨ませていただいているんです。だからどんな仕事でも、まずは「皆さんにどれだけ楽しんでもらえるか」ということばっかり考えてます。

――「出演者」「作り手」「視聴者」皆を笑顔にしたい…「おとなの嗜呑」のような楽しい番組でも、サスペンスドラマでも、船越さんはホスピタリティを重視されているんですね。

そうですね。でもホスピタリティって突き詰めていけば、同じことですよね。どっちかではダメなんでしょうけども、道を究めた先にあるのはホスピタリティに通ずるものかもしれません。

船越英一郎が語る俳優としての信念「『求道者』である前に『サービス業』でありたい」/撮影:安田まどか