世界的に大人気のSUVに、スライドドアが装着できれば――それをトヨタの新型「センチュリー」が具現化しました。SUVのニーズを一気に多様化できそうな機構ですが、一般車種にも広がるのでしょうか。

「SUVにスライドドア」まさかの「センチュリー」で実現

2023年9月6日トヨタの最高級車種「センチュリー」に新しいボディスタイルが追加されました。いわゆるSUVと呼ばれる格好をしていますが、トヨタは「これが新しいセンチュリーの形」として「あえてSUVと名乗らない」という方針を示したことには驚かされました。しかし、新しい「センチュリー」の発表会では、さらなる驚きが用意されていたのです。

それが「スライドドア」です。新しい「センチュリー」は、いわゆるSUVの格好をしていますが、後席のドアにオプションとしてスライドドアが用意されていたのです。これまでは、「スライドドアは箱型のミニバンのもの」というのが常識。SUVにスライドドアという組み合わせは存在しませんでした。

調べてみれば、これは大手サプライヤーであるアイシンが開発した「リンク式パワードア(LPD)」という新技術でした。後席ドアをボディのレールに沿ってスライドさせるのではなく、ドアとボディを太いリンクでつないで、フタを開け閉めするようにドアを動かします。これなら、ボディが丸みを帯びたSUVタイプでもドアをスライドドアのように開け閉めすることができます。

これで、SUVにもスライドドアという選択肢が生まれたことになりました。

そもそも、日本は世界でも類を見ないほど、スライドドアの人気が高い国です。2022年登録車の新車販売ランキングでは、4位「ルーミー」、6位「フリード」、8位「シエンタ」、10位「アルファード」という具合に、ベスト10のうち4台がスライドドア車。軽自動車は1位の「N-BOX」に続き、2位の「タント」、3位の「スペーシア」とベスト3すべてがスライドドアとなっています。これほど、スライドドア車が人気の上位にいる国は、他にありません。

実際に、スライドドアは使ってみると、その利便性の良さは、誰もが実感できることでしょう。ドアの開口部が広いし、ドアを開けたとき横方向にスペースを取りません。狭い駐車場に停めても、隣のクルマに開けたドアをぶつける心配もありません。狭い駐車場にクルマを停めることの多い日本では、人気が出るのも納得です。

また、最近では軽自動車にも、スライドドアに電動開閉機能が用意されており、力の弱い子供や女性、お年寄りも開閉に苦労しないというのも魅力です。

そんなスライドドアですが、もちろん欠点もあります。

デメリットに勝る? スライドドアがあると嬉しいSUVとは?

スライドドアのデメリットのひとつは重いこと。スライドドアのホンダN-BOX」と、普通のドアを持つ同じ軽自動車の「N-WGN」を比べると、車両重量は40kgほども「N-BOX」の方が重くなっています。そして、クルマが重くなれば、必ず、走る/曲がる/止まるという走行性能、そして燃費が悪化します。

アイシンの「リンク式パワードア(LPD)」は画期的ですが、ドアヒンジだけですむ普通のドアと比べれば、当然に重くなります。

ですから、SUVに走りを求めるユーザーにとって、スライドドアは性能をマイナスに引っ張るアイテムになってしまいます。後席に人をあまり乗せることがないという人にとってみれば、スライドドアはまさに無用の長物でしょう。

しかし、「後席に人を乗せることが重要」であり、「走りの良さは気にしない」というユーザーであれば、その評価はまったく別になるはずです。燃費は悪くなってほしくないでしょうが、走る/曲がる/止まるといった性能は、ほどほどで結構と考えているはず。乗り心地や、助手席・後席の乗員のことを考えると、無駄に走行性能が良くて、ゆさゆさ揺らされるよりも、動きが鈍重なくらいな方がよいとも言えます。

となれば、ファミリーユースで、ミニバンと同じようにSUVを使うユーザーは、スライドドアのデメリットよりもメリットが勝ります。具体的に言えば、3列シートSUVのユーザーであれば、スライドドアが欲しいと考える人もいるはずです。

ただし、ひとつ気になるのはアイシンの「リンク式パワードア」は、存在感のある開閉機構が2列目シートの横にあって、3列目シートのアクセスに邪魔になりそうに見えることです。

どうなんですかアイシンさん!?

アイシンの新スライドドアは、2列シートの新しい「センチュリー」なら問題ないけれど、3列シートのクルマには装着できないのでは――そこで、アイシン広報部に確認してみました。

すると、「開発者にも確認しましたが、3列シートにも対応可能。ただ、その場合はもちろんOEM(自動車メーカー)としっかり連携して、車両全体で最適な仕様を考えていく必要がある」との回答でした。3列シートのSUVにも装着は問題ないようです。

そうとなれば、3列シートSUVに、新しい魅力が追加されることになります。普通のドアのSUVよりは、スライドドアのSUVは鈍重かもしれませんが、ミニバンに比べれば走りに有利なのは間違いありません。ミニバンのように使えて、運動性能は上。大ヒットするとは言えませんが、一定のニーズは期待できます。

SUV+スライドドアで、SUVは、さらに人気が高まることになるはずです。

新タイプのセンチュリーGRMNにオプション設定されたスライドドア(画像:トヨタ)。