厚生労働省から2023年夏の賞与額について発表がありましたが、「そもそもボーナスなんてもらえないし」と恨めしそうな顔を浮かべる非正規雇用の人たち。生きるだけで精一杯といえる給与で生活は困窮し、超えてはいけない一線を超えてしまうケースも。みていきましょう。

2023年夏のボーナス80万円超…羨ましそうにみてるだけの非正規たち

厚生労働省によると、民間主要企業の夏のボーナス(平均妥結額)は、845,557円で、昨年と比較して13,217円、1.59%の増加となりました。

*妥結額(妥結上明らかにされた額)などを把握できた、資本金10億円以上かつ従業員1,000人以上の労働組合のある企業351

この金額が多いのか、少ないのかはさておき、指を加えて妬ましく見ている非正規雇用の人たちも多いでしょう。

正規雇用非正規雇用については、「同一労働同一賃金」という原則があります。同一の仕事に従事する労働者は皆、同一水準の賃金が支払われるべきというもので、働き方改革のひとつとして2020年4月、そしてその1年後には中小企業においても適用となりました。「同一労働同一賃金」をめぐっては「不合理な格差」を設けることが禁じられています。

――同じ仕事をしているのにボーナスがもらえないのはズルいじゃないか!

不合理な格差だとして、裁判所に訴えたケースもあります。

大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)でフルタイム事務のアルバイト職員。正職員と契約職員には賞与があり、アルバイト職員にはないのは不当だとして訴えを起こしました。しかし最高裁判決では「不合理とまではいえない」と判断されています。

また同じように退職金をめぐっても裁判となり、東京の地下鉄で長年働いてきた契約社員が訴えを起こしています。最高裁は大阪のケースと同様の判断を下しています。

あくまでも2つのケースでは「不合理な格差とまではいえない」という判断。また「ボーナスも退職金もゼロでいい」といっているわけではありません。しかし最高裁でこのような判決が出た以上、「非正規にもボーナスを!」というのは、現状ではかなり非現実的。指をくわえて見ているしかないのです。

年を重ねても「ずっと月収20万円のまま」…困窮する非正規たち

最高裁は「同一労働同一賃金」は肯定していますが、そもそも、なぜこのような制度ができたのかというと、正規雇用非正規雇用の給与格差。低収入の非正規雇用の待遇改善が目的のひとつでした。

低収入の非正規雇用。生活に困窮する人も多く、いわゆるワーキングプア社会問題となっています。また、生活苦から一線を超えるケースも。

先月、神奈川川崎市のコンビニで、日雇いバイト中に現金約140万円を盗んだ疑いで、44歳の男性が逮捕される事件がありました。

――日雇いや漫画喫茶での生活から抜け出したかった

容疑者は、そう供述したとか。盗んだお金は使ってしまって「もうない」といい、なんとも身勝手な犯行だと言わざるを得ません。「いまどき漫画喫茶なんて高いんだから、かえって贅沢じゃん」などという声もありましたが、それはさておき、生活苦から犯罪に手を染めてしまうのは、低収入で困窮する非正規雇用の問題とまったく関係ないとは言えない部分もあるでしょう。

非正規雇用者は、2004年の派遣法の改正により増え、さらに昨今、働く女性や高齢者が増え、今や労働者の4割を占めるまでになっています。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、正社員(平均年齢42.3歳)*1の平均給与は月33万9,300円、年収で534万2,900円です。一方、非正規(平均年齢49.7歳)*2の平均給与は20万9,400万円、年収で286万6,100円です。月収差は15万円、年収差は247万円にもなります。

*1:正社員・正職員の雇用期間の定め無し、男女計、学歴計、従業員10名以上

*2:正社員・正職員以外の雇用期間の定め無し、男女計、学歴計、従業員10名以上

給与の推移をみていくと、正規雇用は年齢と共にあがっていき、定年前の50代後半で、月収39万円、年収で642万円に達します。片や非正規雇用は年齢を重ねても給与は上がらず、月収は20万~21万円をキープ。年収は300万円を超えることはありません。

【年齢別「非正規雇用」と「正規雇用」の平均給与】

20~24歳:20.8万円(275.5万円)/22.2万円(335.9万円)

25~29歳:21.5万円(293.6万円)/25.7万円(419.5万円)

30~34歳:20.8万円(284.9万円)/28.9万円(477.7万円)

35~39歳:20.7万円(288.2万円)/32.4万円(534.4万円)

40~44歳:21.4万円(290.0万円)/34.8万円(571.7万円)

45~49歳:20.7万円(284.1万円)/36.7万円(599.6万円)

50~54歳:20.8万円(285.8万円)/38.8万円(634.8万円)

55~59歳:21.2万円(294.0万円)/39.7万円(642.5万円)

60~64歳:21.7万円(305.1万円)/33.7万円(512.9万円)

※数値は左より、非正規雇用の月収(年収)/正規雇用の月収(年収)

仮に20歳から60歳まで、ずっと正規雇用として働いた人と、ずっと非正規雇用として働いた人の生涯年収を比較すると、正規雇用では2億1,000万円、一方、非正規雇用は1億1,000万円。その差は1億円にもなります。

非正規雇用であれば、手取りにして月15万円ほどという状況が40年間続きます。1ヵ月だけ生活する分には問題なくても、予想外の出費があればあっという間に赤字。そのようなことが重なり、借金が膨れ上がる……容易に想像がつきます。

――待遇に不満があるなら正規雇用になればいい

――努力をしない言い訳をしているだけ

そう叱責する人もいます。確かにその通り。しかし非正規雇用から抜け出したくても抜け出せない人も世の中にはいます。たとえば、40代~50代前半、いわゆる氷河期世代の人たち。学校を卒業するタイミングで正社員になれず、非正規雇用で社会人スタート。雇用環境が改善されたころにはすでに30代となっていて、キャリアなしではなかなか正社員になれず、いままで非正規雇用で歯を食いしばってきた……。

しかし正規雇用のキャリアのない40代・50代を歓迎する企業はどれだけあるでしょうか。すでに手遅れ、というのが現実です。それでもなんとか這い上がろうと努力をしている非正規雇用者がいるのであれば、そこから引き上げるサポートがある世の中であってほしいでものです。

(※写真はイメージです/PIXTA)