運動器(骨・関節・筋肉・神経など)の障害によって移動機能が低下する「ロコモティブシンドローム(通称ロコモ)」は、高齢者に多い疾患です。しかし、近年では「小・中学生」にも増えてきていると、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師が警鐘を鳴らします。「ロコモティブシンドローム」の具体的な症状と、自宅でできる治療・予防法をみていきましょう。

子どもにも増えている「ロコモティブシンドローム」

実は近年、子どもの筋力低下で簡単な動作も出来なくなっている「ロコモティブシンドローム」が陰でひっそりと増えてきています。

ロコモティブシンドロームは、2016年に日本臨床整形外科学会によって改訂された評価基準によると、次の評価基準のうち1つでも異常がある場合に診断されます。

(1)側弯症

(2)前屈および後屈の異常

(3)片足立ちができない

(4)しゃがみ動作がスムーズにできない

(5)肘の伸ばす動作ができない

(6)腕を曲げたり、腕を上げたりといった動作ができない

(7)過去1年間の大きな怪我

(8)現在の体の痛みまたは体の障害があるか異常

具体的には、5秒以上片足だちがでなかったり、しゃがむときにかかとが上がってしまったり、体を前屈させて指がつかない時に「ロコモティブシンドローム」と診断されるのですね。

どれも簡単な動作ばかりに見えますが、2010年~2013年の埼玉県の小学校1年から6年生1,343人を対象とした試験によると

  •  片足立ちができない子どもの割合:14.7%
  •  しゃがみこみが出来ない子どもの割合:15.3%
  •  肩が垂直に上がらない子どもの割合:7.1%
  •  体の前屈ができない子どもの割合:23.3%
  •  上記の4つのうち1つでも問題のある児童生徒:41.6%

となっており、なんと4割強の児童生徒が「ロコモティブシンドローム」と診断されたのです。

これは埼玉県だけの問題ではなく、他の県である愛知県での試験でも受診者のうち40.4%(115/285人)がロコモティブシンドロームと診断されており、日本全国の現象であることがうかがえます。

どうしてこのような事態になってしまったのでしょうか。

子どものロコモティブシンドロームに見られる「2つの問題」

どんな子どもがロコモティブシンドロームになってしまうのか解析した日本の論文によると、ロコモティブシンドロームになりやすい子どもの特徴として以下が言われています。

  • 年齢が大きい方がなりやすい(1.4倍)
  • 男子の方がなりやすい(4.0倍)
  • 身長が高いほうがなりやすい(1.04倍)
  • 体脂肪率が多いほうがなりやすい(1.06倍)
  • テレビを観ている時間が多いほうがなりやすい(1.28倍)

こうしたことと関連して、2つの問題が垣間見えるでしょう。

1つ目の問題…食べ過ぎによる肥満など「生活習慣の乱れ」から来る運動不足

これは想像に難くないしょう。体脂肪率が多い子どもや、テレビをみている時間が多い子どもがロコモティブシンドロームになりやすいのはまさに、肥満や運動不足から来ているものと考えられます。

昔は大家族が主体でした。そのため、親が忙しい場合でも誰かが子どもの面倒をみて、家族が子どもの食事面などを監督しながら、食事や運動の基礎を自然に身に着けていました。

しかし食事面では、核家族化が進み、両親が共働きとなり3食をしっかり食べるという習慣が薄まってきているのです。

さらに、子どもと親が一緒に公園で遊ぶという場面も少なくなり、ゲームが普及しいつでも携帯ゲームができるようになり、さらにYoutubeをはじめ色々な動画コンテンツが手軽に楽しめるようになりました。体を使って遊ばなくても時間をつぶせる手段が色々出てきてしまったのです。

そのため、肥満や運動不足による子どものロコモティブシンドロームが増えたというわけですね。

2つ目の問題…低栄養・痩せ過ぎによるロコモティブシンドローム

ロコモティブシンドロームは、栄養過多・運動不足で太る子だけの問題ではありません。偏り間違ったセルフイメージにより意識的にロコモティブシンドロームを作ってしまっているパターンも存在するのです。

最近はSNSで「異常にやせている」女優やインフルエンサーが好まれるようになりました。それに伴い、メタボに対する誤解もあり痩せることが良いことだとして、骨量を蓄えなければならない小学生高学年にまでダイエットが入りこむようになってきました。

こうした傾向はとくにSNSなどを乱す高学年に多いこともあり、「年齢が進んでいる子ども」「身長が高い子ども」ほどロコモティブシンドロームになりやすくなったといえます。

近年気軽にいろんな情報が見られるようになったからこそ、こうした「太りやすい環境」と「やせすぎる間違ったセルフイメージ」という両極端になりやすい状況が生まれてきており、それが「子どものロコモティブシンドローム」の増加につながっていると考えられています。

ロコモシンドロームから守るため…親の私たちができること

では、親の私たちが子どもたちをロコモティブシンドロームからも守るためにできることはなんでしょう。それは「健全な食事や遊び方」「正しいセルフイメージへの教育」を寄り添いながら一緒に学んでいくことでしょう。

当然、子どもの体型の維持には栄養はかかせません。骨や筋肉の健康を維持するためには、バランスの取れた食事が必要ですし、特にカルシウムビタミンDは重要です。

また、子どものうちから運動を習慣化させることも重要です。特に、バランスと筋力を鍛える運動がロコモティブシンドロームには効果的とされています。しかし、そのためには特に小さい時期に「運動してよく遊ぶ」ことが大切です。

そのほか、学校での座り方や立ち方、歩き方に注意を払い、正しい姿勢を維持することが大切ですが、これも日々家庭での姿勢を見直す努力が必要になります。

子どものロコモティブシンドロームは、「当然できるべき動作ができなくなる」という恐ろしい状態です。しかし、私たちが子どもと向き合う姿勢によって防ぎやすい疾患でもあります。

まずは、自分のお子さんが基本的な動作ができるのか一度チェックしてみましょう。40%近くの子どもができないのですから、仮に出来なかったとしても落ち込むことはありません。子どもとの関わりを見直すいい機会だと思って、積極的に子どもと運動していただきたいと思います。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

【参照】

■厚生労働科学研究成果データベースエビデンスに基づいたロコモティブシンドロームの対策における簡便な確認・介入方法の確立と普及啓発体制の構築に資する研究」

https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/156649

■子どもロコモと運動器検診について。日整会誌(J. Jpn. Orthop. Assoc.)91:338344 2017

https://sloc.or.jp/member/wp-content/uploads/2018/12/94d533012e6bb5cf442f12efc4cff853.pdf

■FactorsRelatedtoLocomotiveSyndromeinSchool-AgedChildreninOkazaki:ACross-SectionalStudy.Healthcare(Basel).2021Nov;9(11):1595.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8619500/

(※写真はイメージです/PIXTA)