2023年7月のASEAN主要6カ国の輸出は5カ月連続の前年割れ。また、ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東南アジア向けが同23.4%減、EU向けが同13.1%減と、2ケタ減となりました。本稿では、ニッセイ基礎研究所の斉藤誠氏がASEANの貿易統計(9月号)について解説します。

ASEANの貿易統計(9月号)~7月の輸出は2桁減、域内向け中心に前年割れ続く

2023年7月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比10.6%減(前月:同13.4%減)と減少幅が縮小したものの、5カ月連続の前年割れとなった(図表1)。

輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の回復や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は欧米を中心とした外部環境の悪化や資源価格の軟化により増勢が鈍化し、昨年11月以降は減少傾向が続いている。

7月は電気電子製品の出荷が増加するなど明るい兆しもみられたが、ゼロコロナ政策が終了した中国向け輸出の回復が遅れている上、当面は金融引き締めの影響による欧米経済の需要鈍化が見込まれ、今後の輸出持ち直しの動きは緩やかなものとなりそうだ。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、東南アジア向けが同23.4%減(前月:同21.5%減)、EU向けが同13.1%減(前月:同15.2%減)となり2桁減となった。また中国向け(同0.5%増)は小幅に増加したものの、東アジア向けが同7.5%減(前月:同5.4%減)と低迷した。このほか、北米向けは同5.1%減(前月:同17.7%減)となり減少幅が縮小した(図表2)。

ベトナムの貿易収支と輸出伸び率

ベトナムの7月の輸出額(通関ベース、確定値)は前年同月比2.2%減(前月:同11.0%減)の300億ドルとなり減少幅が縮小したものの、9カ月連続の前年割れとなった(図表3)。

輸出の基調は昨年後半までコロナ禍からの世界経済の再開や電子製品の需要拡大により増加傾向が続いたが、その後は海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向にある。

また輸入額も前年同月比11.6%減(前月:同18.0%減)の270億ドルと減少した。結果として貿易収支は+30.7億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から0.2億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、輸出全体の約2割を占める電話機・同部品が前年同月比0.9%増(前月:同8.8%減)、コンピュータ、電子製品・同部品が同28.4%増(前月:同3.5%減)となり、それぞれ増加した(図表4)。

一方、アパレル関連については履物が同21.3%減(前月:同25.4%減)、織物・衣類が同11.6%減(前月:同15.1%減)となり、大幅な減少が続いた。農林水産物を見ると、水産物(同17.3%減)と天然ゴム(同10.2%減)が減少した一方、野菜(同63.6%増)やコメ(同27.3%増)、コーヒー(同14.1%増)、カシューナッツ(同12.8%増)が増加するなど、品目によってばらつきが見られた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同1.1%減(前月:同11.3%減)、地場企業が同5.2%減(前月:同10.1%減)となり、それぞれ減少した。

タイの貿易収支と輸出伸び率

タイの7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比6.2%減(前月:同6.4%減)の221億ドルとなり、10ヵ月連続の前年割れとなった(図表5)。

輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の再開や世界的な電子機器の需要増加、国際商品市況の上昇などから増加傾向が続いたが、その後は海外需要の鈍化や一次産品価格の下落により減少傾向で推移している。

また輸入額は前年同月比11.0%減(前月:同10.3%減)の241ドルとなり、2ヵ月連続の2桁減となった。結果として、貿易収支が▲19.8億ドルとなり、前月の+0.6億ドルから赤字化した。

輸出を品目別にみると、全体の約7割を占める工業製品が同1.7%減(前月:同2.7%減)と2ヵ月連続で減少した(図表6)。製造品の内訳を見ると、自動車・部品(同17.1%増)と家電製品(同4.7%増)は増加したものの、石油化学製品(同20.7%減)や電子製品(同5.0%減)、金属・鉄鋼(同4.4%減)、機械・装置(同1.3%減)がそれぞれ減少した。

また鉱業・燃料は同37.6%減(前月:同26.9%減)となり、石油製品(同38.2%減)を中心に大幅な減少が続いた。このほか、農産物・同加工品は同8.9%減(前月:同7.8%減)となり、3ヵ月連続で減少した。農産物・同加工品の内訳をみると、コメ(同18.8%減)とドリアン(同8.5%増)は増加したものの、天然ゴム(同37.8%減)やゴム製品(同18.2%減)、加工食品(同13.4%減)など減少した品目が多かった。

マレーシアの貿易収支と輸出伸び率

マレーシアの7月の輸出額(通関ベース、ドル換算)の伸び率は前年同月比15.8%減(前月:同18.4%減)の254億ドルと低迷、5カ月連続の前年割れとなった(図表7)。

輸出の基調は昨年半ばまでコロナ禍で停滞した経済活動の再開や電気電子製品、石油ガス製品の需要拡大を追い風に増加してきたが、その後は世界的な需要減退と商品価格の下落により伸び悩み、年明けから減少傾向が続いている。

また輸入額も前年同月比18.5%減(前月:同22.8%減)の217億ドルと減少した。結果として、貿易収支が+37.3億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から17.9億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同1.1%増(前月:同3.4%減)となり、主力の電気・電子製品(同3.9%増)を中心に増加した(図表8)。しかし、鉱物性燃料は同46.4%減(前月:同36.5%増)と2カ月連続で大幅に減少した。鉱物性燃料の内訳をみると、石油製品(同49.9%減)と天然ガス(同41.6%減)、原油(同23.1%減)が揃って減少した。このほか、コロナ特需が終息したゴム手袋(同33.8%減)や動植物性油脂(同36.0%減)、化学製品(同20.3%減)なども減少が続いた。

インドネシアの貿易収支と輸出伸び率

インドネシアの7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比18.1%減(前月:同21.2%減)の208億ドルとなり、2ヵ月連続で減少した(図表9)。

輸出は昨年半ばまでコロナ禍からの経済活動の再開や商品市況の高止まりにより好調が続いたが、その後は海外経済の減速やパーム油、石炭などの主要商品価格の下落により増勢が鈍化し、今年3月から減少傾向にある。5月はレバラン(断食明け大祭)の休暇明けで貿易取引が増えて輸出の伸びがプラスに転じたが、一時的な動きにとどまった。

また輸入額も前年同月比8.3%減(前月:同18.3%減)の195億ドルとなり、2ヵ月連続で減少した。結果として、貿易収支が+12.9億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から21.6億ドル縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の9割を占める非石油ガス輸出が同18.7%減(前月:同21.3%減)、石油ガス輸出が同4.7%減(前月:同18.8%減)となり、それぞれ低迷した(図表10)。鉄・鉄鋼(同11.7%増)のほか、自動車・同部品(同3.6%増)、電気機械(同3.5%増)、機械類(同1.3%増)など増加した品目もあるが、鉱産物(同38.5%減)や化学製品(同30.3%減)、動植物性油脂(同23.6%減)、プラスチック・ゴム製品(同19.8%減)、織物類(同13.8%減)など減少した品目が多かった。

シンガポールの貿易収支と輸出伸び率

シンガポールの7月の輸出額(石油と再輸出除く、通関ベース、ドル換算)は前年同月比16.5%減(前月:同13.3%減)の106億ドルとなり、11カ月連続の前年割れとなった(図表11)。

輸出の基調は昨年半ばまで世界的な電子製品の需要拡大や石油製品の価格上昇により増加傾向が続いたが、その後はアジア向けを中心に電子製品、非電子製品が振るわず減少している。総輸出額は同14.6%減(前月:同14.9%減)の392億ドル、総輸入額が同19.9%減(前月:同19.3%減)の350億ドルとなり、それぞれ低迷した。結果として、貿易収支は+42.1億ドルの黒字となり、黒字幅は前月から4.8億ドル縮小した。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別にみると、まず全体の約2割を占める電子製品は同22.7%減(前月:同13.6%減)と低迷した(図表12)。電子製品の内訳を見ると、ディスクメディア(同38.1%減)が2ヵ月ぶりに減少したほか、主力のIC(同32.7%減)とPC(同43.5%減)が低迷した。また全体の約3割を占める化学品も同10.2%減(前月:同31.0%減)となり、3カ月連続で減少した。化学品の内訳を見ると、医薬品(同6.7%増)が増加したものの、石油化学製品(同19.2%減)が引き続き減少した。

フィリピンの貿易収支と輸出伸び率

フィリピンの7月の輸出額(通関ベース)は前年同月比1.2%減(前月:同0.9%増)の61億ドルと小幅に減少した(図表13)。

輸出の基調は昨年後半に電子製品を中心に増加傾向で推移したが、その後は世界的な需要の鈍化や一次産品の価格下落により減少傾向にある。

また輸入額は前年同月比15.3%減(前月:同15.0%減)の103億ドルとなり減少幅が拡大して9カ月連続の前年割れとなった。結果として、貿易収支は▲42.0億ドルの赤字となり、赤字幅が前月から2.6億ドル拡大した。

輸出シェア上位10品目をみると、まず輸出全体の6割近くを占める電子製品が同7.7%増(前月:同11.7%増)となり、3ヵ月連続で増加した(図表14)。電気製品の内訳を見ると、電子データ処理機(同40.5%減)は減少したが、主力の半導体デバイス(同18.2%増)が増加した。

その他9品目については、生鮮バナナ(同27.3%増)や精錬銅(同18.4%増)、金(同3.7%増)、機械・輸送用機器(同2.0%増)が増加した一方、ココナッツオイル(同41.2%減)とその他鉱業品(同26.4%減)、化学品(同20.5%減)、その他製造品(同15.2%減)、イグニッションワイヤーセット(同1.5%減)が減少するなど、品目によってばらつきがみられた。

(写真はイメージです/PIXTA)