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これは“YouTubeバブル”崩壊の兆しなのだろうかーー。

人気YouTuberのヒカキン(34)が所属する、国内最大のYouTuber事務所「UUUM」が2017年の上場以来初の赤字に転落した。7月に発表した今期の決算では最終損益が過去最大の10億円超という大赤字にまで沈み、8月には大手広告関連事業会社への身売りが発表された。

YouTubeは2007年に日本に上陸し、一攫千金を手にする人気YouTuberが次々と台頭した。「小学生がなりたい職業ランキング」では2020年から3年連続1位に選ばれるなど、破竹の勢いで人気も市場も拡大していったが、ついに陰りが見え始めたのだ。

今年7月に発表された「中高生が思い描く将来についての意識調査2023」(ソニー生命保険)の《高校生が将来なりたい職業》では「YouTuber」を上回り「公務員」が1位に。前回の21年度の1位だった「YouTuber」は、今年8位までランクを落とした結果となった。

YouTube界隈で一体何が起きているのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は次のように解説する(以下、カッコ内は全て井上氏)。

「今のYouTubeは若い人だけでなく、中高年もすごく利用していて、その中でも注目されているのが、いわゆる“教養系”とか“学び直し系”と言われるジャンルです。例えば、歴史や物理、数学などが人気で、専門家がとても分かりやすくポイントを解説してくれる15〜30分くらいの動画です。そうしたYouTubeチャンネルは登録者数が少ないと5〜6万人、多いところで30〜40万人くらいです」

登録者数を比較してみると、ヒカキン1180万人、はじめしゃちょー1060万人、東海オンエア700万人、コムドット386万人、ラファエル175万人、シバター119万人、芸能人では中田敦彦516万人、宮迫博之130万人(全て9月18日時点)と、数万人〜数十万人は決して多くはないことがわかる。

「ところが、5万人くらいの登録者数でも毎日ちゃんと動画を投稿して、例えば1〜2万回くらい再生されていれば、収入として月10万〜20万円ほどになるそうです。なので副業的にやっている人にすればそれでも十分な訳です。手堅く評価される動画をアップして月30万円とか50万円が入ってくれば、“めっちゃいい副業”になるんです」

一方で、かつては爆発的な再生回数によって億万長者を生み出したようなコンテンツは厳しい状況だという。

「中途半端な企画系は、登録者数がそこそこあっても、実際に見る人が少なくなっているので、再生回数が稼げなくなっています。ヒカキンはじめしゃちょーのような実績のあるチャンネルのように、いわゆる“太客”みたいな固定ファンを多く持っているところは安定していますが、そういうところ以外はもうなかなか動画を見に来てもらえなくなってしまっているのが現状です」

その一因には若い世代が動画に求める傾向の変化があげられる。

「高校生と月に一回くらい接する機会があって彼らの話を聞いていますと、優先順位はやっぱりTikTokとかインスタグラムなんですよね。その次がYouTubeなんですけど、やっぱりみんな“タイパ”って言い出しているんですよ」

タイパとは近年、特にZ世代を中心によく使われている「タイムパフォーマンス」の略語。費用対効果が高いことを意味する「コスパが良い」に対し、「タイパが良い」は、使った時間に対して満足度が高いことを意味する。

「今の高校生は本当に“タイパ”って普通に言ってて、“1.5倍速で視聴するのは普通です”みたいに言うんですよ。なので、前置きが妙に多い動画などは敬遠されがち。また、世代によって笑いや驚きのツボが違うので、若い子向けの動画でそういうツボを抑えておかないと、すごく簡単に“あいつオワコンだよね”って言われちゃうんです」

UUUMの業績悪化の原因は、TikTokとの競争激化や最大60秒と再生時間の短いYouTubeの「ショート動画」人気の高まりと言われている。ショート動画は広告単価が安く、通常動画の減収を補えなかったという。

「YouTubeの場合は、ショート動画はサンプル動画の役割を果たすそうなんです。チラ見させて、面白ければ本編へという誘導の入り口みたいになっているので、ショート動画を作るのがうまければ本編が多少面白くなくても客は集まりますが、そもそもショートだけで大きな収益を狙える仕組みではありません」

若者の“タイパ志向”に加え、選択肢の多様化もYouTubeのユーザーの減少に影響しているという。

「今はNetflixAmazonプライムなどの動画配信サービスも多いですし、ライブ配信をするライバーも出てきています。ライバーの方が双方向感が強いので、マイナー系アイドルが好きだった人たちなどが今はライバーに入り浸っているという話も聞きます。このようにユーザーが分散している中で、“太客”を持っていない、やや中途半端な位置にいた人たちは、だいぶ苦しいと思います」

YouTuberとして十分な知名度のあるラファエルシバターなども動画で「全盛期の12分の1」や「5分の1」に再生回数が落ちたと発言している。

シバターさんも“ピークは2017年だった”と発言していますが、その頃から風向きが変わってきていて、登録者数100万人越えの彼らクラスでも広告費だけで食べて行くのは厳しくなってきていると思います。

少子高齢化もあり、すでに成熟したYouTubeの視聴者の母数が今後もどんどん増えていくというのは考えにくいです。しかし、クリエーターは増え、視聴者も分散して競争は高まる一方です。昔チャンネル登録したけど、もう今は見てないっていう人も多いので、登録者数は多くても稼げない人も出てくる。YouTubeの広告費だけで億万長者というのは、もはや昔話なんです」

好きなことをやって大金持ちにーー。そんなYouTubeドリームはもう過去の話なのかもしれない。