近本はリードオフマンとしてチームを盛り立てた(C)KentaHARADA/CoCoKARAnext

 チーム強化の本筋はドラフトと育成-。18年ぶりの優勝でフィーバーを巻き起こした阪神は、そんなメッセージを発信してくれたと言ってよいでしょう。

【動画】球団最速Vを決めた14日の試合、岡田監督は聖地甲子園で6度宙に舞った

 超満員の甲子園球場で宿敵・巨人を倒してセ界制覇を成し遂げた9月14日のスタメンはこのような並びでした。

(中)近本光司
(二)中野拓夢
(右)森下翔太
(一)大山悠輔
(三)佐藤輝明
(左)ノイジー
(捕)坂本誠志郎
(遊)木浪聖也
(投)才木浩人

 ノイジー以外は全てドラフト指名して育てた生え抜き選手です。スポーツ紙のアマチュア野球担当記者は言います。

「今年の優勝は阪神スカウト陣の眼力と、優れた素材を見事に鍛え上げたコーチ陣の功績も大きいでしょう。弱いチームはスカウトとコーチが互いに責任をなすりつけていますが、その対極のように連携して一軍で通用する戦力にしているのが印象的です。傾向としては、突出したストロングポイントを持っている選手を果敢に指名していることです」

 例えば4番打者として打線を牽引した大山です。白鴎大の主軸を1位で一本釣りした際、世間の反応は必ずしも好意的とは言えないものでした。

「あの年は創価大の田中正義投手に5球団が競合。明治大の柳裕也投手にも2球団が競合し、外れでも桜美林大の佐々木千隼投手に5球団が競合しました。高校生でも横浜高校藤平尚真投手、履正社寺島成輝投手らパワー系の逸材が多く、大山の一本釣りは当時、消極的な指名と評価されたのも事実です」(前述の記者)

 しかし、その後の大山の活躍によって、数年後の4番打者にするという球団の方針は正解であることが実証されます。「名より実」を取った指名だったのです。

 今では球界を代表するリードオフマンである近本の指名時にも、「外野」は不満を表明したものでした。2018年ドラフト。阪神は1位で大阪桐蔭高を全国制覇に導いたスター・藤原恭大を指名しますが、3球団による抽選の結果、敗退。ならばと外れ1位で立命館大の辰己涼介を指名しますが、こちらも4球団競合の結果、敗退。「外れ外れ1位」で指名したのが大阪ガスの近本だったのです。

「当時の野球専門誌は阪神の指名を『50点』と低評価しています。指名した選手が全体的に小粒に映ったのがマイナス要因と書かれていますが、その後の近本の活躍は言うまでもなく、3位でHondaの木浪、6位でBC富山の湯浅京己を獲得し、主力に育て上げています。ドラフトでは甲子園や神宮のスター、ビッグネームを指名しておけばメディアは評価してくれる。でもそんなことは関係なく、社会人や独立リーグの優れた選手を指名して、戦力に育て上げた。このようなブレない方針こそ、18年ぶりのVにつながったスカウトの功績だと思います」(前述の記者)

 FAでの乱獲は過去の話。球界の未来を担う金の卵をしっかり見極める眼力、そして地道に育て上げる育成力-。常勝軍団の建設に近道はないことを、今回の阪神の栄冠は教えてくれるのです。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

『50点』の低評価覆した!阪神18年ぶり優勝をもたらした「ドラフト改革」とは