例えばあなたがよく行くスーパーで、月曜日に焼肉弁当が安くなっていた。それが数週間続いたら、次の月曜日も安くなってると推測するだろう。これを統計的推測(統計的推論)と呼ぶのだが、なんとカラスにもその能力があるという。
つまり確率を踏まえたうえで、できるだけお得な行動をとれるのだ。
これまでもカラスは知能が高いことで知られていたが、これほどまでに賢いとはびっくりだ。この驚きの事実は、ドイツ、テュービンゲン大学の研究により明らかになったものだ。
カラスとうまく共存することができれば、人類のよき仲間となってくれるかもしれない。
カラス科(一般的なカラスやワタリカラス、カササギなど)は、とても身近な鳥だが、それでいて特別な生き物だ。とびきり頭が良いのである。
なにしろ当然のように道具を使いこなし、人間のための清掃要員として採用されたり、良くしてくれた人間に対しはカラスの恩返し的な行動をしたりと、その頭の良さはそこかしこで観察されている。
さらに足し算や引き算のような基本的な算数だってやってのける。一説によると、その知能は7歳児に匹敵するという。
なぜカラスはそんなにも頭がいいのか?
[もっと知りたい!→]カラスは情が深かった。争った後、仲直りの為に謝罪もするしスキンシップを行うという研究報告(ドイツ研究)
その秘密の1つは、体の大きさの割に脳が大きいことだ。しかも、そうした特徴は「前脳」にはっきり表れている。ここは人間なら統計的・分析的推論に関連するとされる領域だ。
ならば彼らはデータを読み、統計的推測すら可能なのだろうか? ドイツ、テュービンゲン大学の研究チームは今回、この疑問を探っている。
カラスは統計を理解し確率を推測することができるのか?
いくら賢いとはいえ、カラスに算数のテストを解かせるわけにはいかないから、彼らの数的能力を調べるにはちょっとした工夫が必要になる。
言葉や文字を使わず、行動で計算能力を示せるように訓練するのだ。
例えば今回の実験では、まず2羽のカラスに、タッチスクリーンに映っている絵をつつくと、おやつがもらえることを教えた。
[もっと知りたい!→]自分の心の中を振り返る。カラスには人間のような高度な認知能力があることが判明(ドイツ研究)
カラスがこれを習得したら、さらに難易度を上げる。今度は絵をつついても、おやつが出るときと出ないときがある。つまり「確率」の要素が導入されたのだ。
実際の実験では、2羽のカラスに、おやつが出る確率が異なる2枚の絵を見せて、つつかせた。
おやつをできるだけたくさん食べるためには、確率が高い方の絵をつつき続ければいい。だがそれをするには、確率を踏まえた抽象的な数を理解していなければならない。
カラスは統計的推測ができることが判明、しかもずっと覚えていた!
2羽のカラスを10日間訓練して、5000回ほど絵を選ばせてみたところ、彼らはおやつが出る確率が高い絵をつつき続けたという。「統計的推測(統計的推論)」を見事にやってのけたのだ。
統計的推論とは、ある状況についての限られた情報をもとに推測して、どう行動するべきか決定することだ。小難しく聞こえるが、こうしたことを私たちは普段からやっている。
例えば、近くにあるカフェに行くとしよう。
候補のお店は2つ。どちらも同じランクの人気店だが、自分が利用したい時間の混み具合が違う。どちらもそれなりに混んでいるのだが、経験上片方は席につけないことが多かった。
そんなとき、いつもその時間に空いている方の店を選べば、席につける可能性が高い。それは絶対確実ではないが、良い選択肢と言える。
これと同じように、カラスはタッチスクリーン上の絵とおやつをもらえる確率との関係を理解し、より良い選択肢を選んだのだ。
しかもカラスはそれをずっと憶えていられる。
この実験から1ヶ月後、今度は訓練なしで同じテストが行われた。
するとカラスはぶっつけ本番だったというのに、おやつが出てくる確率を憶えており、やはりたくさんもらえると期待できる絵をつついたのだ。
高い知能で都会の環境に順応していった
カラスは都市の環境にうまく適応した数少ない動物だ。それができたのが、その高い知能のおかげであることに疑いの余地はないという。
例えば、冬になれば、比較的暖かいトンネルなどの人工物を利用する。つまりカラスはしたたかにも人間をすら利用しているのである。
研究チームのメリッサ・ジョンストン氏の考えでは、こうしたことができるも、カラスの統計的推論のおかげだろうという。
「カラスにカフェはないでしょうが、エサを食べられる確率が異なるさまざまな場所を訪れているのでしょう」
この研究論文は『Current Biology』(2023年6月26日付)で見ることができる。
References:For the first time, research reveals crows use statistical logic | Ars Technica / written by hiroching / edited by / parumo
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