貧しいかどうかは「見た目」で判断することができません。貧しい人は貧しさを恥ずかしいと考えて、できるだけ隠そうとするのです。本記事では、石井光太氏の著書『本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式』(文藝春秋)より、同氏が17歳の若者にもわかりやすく、日本の貧困の実態について語りかけます。

貧しい人は「貧乏」を隠す

ここで一つ、考えてもらいたいことがある。もし君が貧しかったとしたら、そのことを人に打ち明けるだろうか。

きっと、君は貧しいことを恥ずかしいと考えて、できるだけ隠そうとするに違いない。ごまかしたり、ウソをついたり、人目を避けたりして、「貧乏」というレッテルを貼られることから逃げようとするはずだ。

作家の開高健(かいこうたけし)という人がまさにそうだった。ノーベル文学賞を獲った大江健三郎や、元東京都知事の石原慎太郎などと同じくらいの時代に活躍した作家で、27歳で芥川賞をもらってからは小説だけじゃなく、ベトナム戦争の従軍ルポなんかも書いた人だ。『オーパ!』など世界を舞台にした釣りの紀行もあるのでぜひ読んでもらいたい。

開高健は戦前の生まれで早くに父親を失い、中学生の頃からアルバイトをして家計を支えていたそうだ。彼は貧しさゆえに学校にお弁当をつくってもっていくことができず、昼休みはトイレへ行くふりをして教室を抜け出し、誰も見ていないところで水道の水をたらふく飲んで空腹をしのいでいた。

きっと、クラスメイトは彼がそうしていたとは知らず、「弁当の時間なのに、あいつはどこで何をやってるんだ。しょうがない奴だな」くらいにしか思っていなかったに違いない。

開高健はつらい思いをしたが、貧困をかたくなに隠すことによって、さらにみじめな思いをしないようにしていた。後々、本の中でその時の悔しさをくり返し語っているのは、彼にとってトラウマのような体験になっていたからだろう。

そう、貧しい人というのは、貧しさを隠して知られないようにするものなんだ。だからこそ、周りの人たちはなかなかそれに気がつかない。そして、勘違いをしてその人を批判してしまったり、見下してしまったりすることがある。

「見えない貧困」が生む誤解

たとえば、君は友達に遊ぼうと言って断られた経験があるんじゃないだろうか。そんな時、君は不満に思って、「付き合いが悪いな」「なんだよ、あいつ」と友達に不平をもらしたりするかもしれない。

でも、その子は付き合いが悪いんじゃなくて、お金がなくて遊びに行けないから断ったんじゃないだろうか。あるいは、親が家におらず、自分が代わりにきょうだいの世話や家事などをしなければならないから、家に帰ったんじゃないだろうか。

もしそうなら、「付き合いが悪いな」とか「なんだよ」という不平は、まったくの誤解だということになる。誤解から相手を傷つけるような言葉を吐いてしまっているんだ。

こう考えてみると、僕たちは知らず知らずのうちに誤った考え方をして、貧しい子供を傷つけてしまっていることがあるといえる。この傷つけるという体験のつみ重ねが、その子に自己否定感を植えつけることになるんだ。

外見で判断できない貧困の恐怖

また、貧困が一般的なイメージとは反対の形をとるために、なかなかそれに気がつかないということもあるだろう。一般的に、貧しい人はやせているというイメージがあるよね。そして、お金持ちの人は太っていると思われがちだ。でも、実際は真逆なんだ。

次は日本における年収別の肥満率だ(図表1参照)。

年収600万円以上 男性 30.7パーセント 女性 13.2パーセント

年収200万円未満 男性 31.5パーセント 女性 25.6パーセント

ここから、男女ともに貧しい人の方が肥満率が高いことがわかるはずだ。貧しい人が太っていて、豊かな人がスマートだというのは、どういうことだろう。

「太っている=裕福」は簡単に人を傷つける

富裕層は、家できちんと栄養価を考えた料理が出され、それを決まった時間にとることが多い。生活習慣にも厳しく、お菓子やインスタント食品を食べさせないということもめずらしくない。健康に気をつかって運動も適度にしている。

一方、貧しい家の人は、ハンバーガー、コンビニのチキンカップラーメンといった安価なジャンクフードでお腹をふくらませようとする。子供だったら部活や習い事をせずに帰り、親がいないので、お菓子ばかり好き勝手に食べる。あるいは、夜遅くまで起きていて夜食を食べる。こうした食生活はカロリーが高い上に栄養バランスも悪いので肥満を招くことになる。

こうしてみると、外見からその人が貧困であることを察するのが意外に難しいことがわかるよね。それなのに、太っているからお金持ちだろうと考えて気軽に「おごってよ!」と頼んだり、「お菓子ばかり食べれていいなー」なんて言ったりすれば、相手を傷つけてしまうことになりかねない。

僕たちは常に、外見からだけではその人の貧しさに気づけない、と理解した上で、いろんなことに気を配って生きていく必要があるんだ。

石井光太

作家

(※写真はイメージです/PIXTA)