不動産市場の不振が続き、いよいよ「バブル崩壊」に対する懸念が高まっている中国。そのようななか、中国当局は“延命措置”として、国民に「住み替え」を促進する方針を表明しました。しかし、東洋証券上海駐在員事務所の孫佳賢氏は、そもそも中国で家を購入するための高いハードルを指摘します。はたしてその内容とは……現地駐在員の孫氏が解説します。

購入負担減で「住み替え」促進?不動産の需要喚起なるか

不振が続く中国不動産市場。そのなかで今夏、市民の購入意欲を左右する重要な政策方針が打ち出された。

7月下旬の中央政治局会議では「不動産政策を調整・最適化し、都市に応じた政策ツールを用いる」と強調され、住宅当局からは住み替え促進方針が表明されたのだ。

後者は、「ローン完済者を初回購入者と見なし、頭金比率や金利の優遇措置を適用する」(中国語で「認房不認貸」)という内容。これを受け、大都市での購入制限の緩和観測が浮上している。

上海市政府は「不動産に対する硬直的・住み替え需要を強力に支持する」との声明を出した。専門家も購入制限緩和の可能性が非常に高いとする(現行の購入制限は複雑で、頭金比率やローン金利などでさまざまな決まりがある。図表も参照)。

マンション購入の現実的な話をしてみよう。

1軒目は頭金とローン金利が比較的低いので、家族全員の力を合わせれば、ある程度満足できる広さの部屋は買うことができる。

筆者も8年前に結婚した際、「頭金+住宅積立金ローン」の方式で約40平米の物件を購入した。小さいほうだが、夫婦2人暮らしには十分だと思っていた。

ただ、徐々に窮屈と感じ始めたのも事実。もっと広い部屋に買い替えようと思うのだが、「頭金7割」の壁を乗り越えるのが難しい。

今の家の近くの価格帯は1平米当たり約6万元(約120万円)。80平米の物件を買おうとすると、頭金はざっと336万元(約6,720万円)必要となる。“一般家庭”出身の筆者にとってはなかなか出せない額だ。

やや複雑だが、頭金比率は「一般住宅」と「非一般住宅」で異なる(後者のほうが高い)。

一般住宅は「古い、小さい、遠い」が特徴で、住み替え対象としては好ましくなく、取引可能物件の20%未満と量も少ない。引っ越し先は広くて新しいのを望むもの。ただ、頭金比率がやや高いのがネックなので悩ましい。

中国で「2軒目」を購入する方法…“思いがけない事態”も

2軒目購入の一般的な方法は、現住居を売却し、貯金や借金などを駆使して頭金を工面すること。ただ、まれに思いがけない事態に陥ることもある。

知人は現住居を売却して新居の契約を結んだものの、売主が突然契約破棄を申し出てきた。価格がまだ上がると踏んで、売り時を先延ばししたかったよう。なんとも勝手な判断だが、可哀そうなのはその知人だ。自宅を失い、結局、賃貸物件に住む羽目になった。

他にもさまざまな手があるが、一番有名(悪名高い?)なのは「偽装離婚」だろう。

夫婦の場合、不動産購入は「1人1軒」ではなく「1組1軒」が基本。「夫婦で2軒目」を買う際は頭金比率やローン金利が高くなる。

それを避けるべく、まずは離婚し、ローン申請記録がないどちらかの名義で物件購入という裏ワザがある。

低金利での2件目購入成功後は、もちろん再婚というオチだ。もっとも最近は、離婚後の一定期間は購入不可などの一部規制もあるのだが。

ここ数年の不動産市場の低迷の背景には、住み替え困難で需要が一部抑えられたこともあると思う。

今般の政府方針の狙いはもちろん需要喚起。具体的政策は不明だが、筆者に一番有利なのはもちろん冒頭の「認房不認貸」である。

これが実現できなくても、せめて2軒目購入時の頭金比率は下がってほしい。

孫 佳賢

東洋証券株式会社

上海駐在員事務所

(※写真はイメージです/PIXTA)