「億超え」が当たり前の都心のタワーマンション。その立地の良さから、一般的な収入の世帯が低層階の物件を購入する例も珍しくありません。とくに属性の高い公務員に対しては、金融機関も前のめりになって融資をしてくれることから、平均的な年収の世帯が1億円超の物件を購入するケースは少なくないようですが、元国家公務員の4割が定年退職後に「お金の悩み」を抱えているとの調査もあり、ギリギリのプランでローンを組むのは考えものといえそうです。詳しくみていきます。

「立地の良さ」という文脈で語られることが増えたタワーマンション

かつて「富の象徴」や「成功者のステータス」としてもてはやされたタワーマンションですが、最近は「立地の良さ」という文脈で語られることが増えており、眺望がウリの高層階だけではなく、地上に出やすい低層階の人気も高まっているといいます。

都心に立地するタワーマンションで、しかも高層階となれば、販売価格が数億円となることも珍しくありませんが、低層階であれば一般の人でも検討可能な価格帯でも売られています。「立地の良さを重視してマンションを探していたら、タワーマンションにたどり着いた」というケースも少なくないようです。

駅近で都心主要エリアへのアクセス良好な物件となれば、低層階であっても「億超え」は珍しくありません。しかしこの低金利時代においては、特別な富裕層でなくとも、ローンを利用すればタワーマンションの取得は可能です。

たとえば、30年返済で1億円の住宅ローンを組んだ場合。返済方式は元利均等で年利0.5%だとすると、利息は770万8,045円。返済額は月29万9,189円、年359万268円となります。年収に占める住宅ローンの返済比率は35%が上限、20%が理想といわれていますが、そこから逆算すると年収1,025万円であれば返済比率が35%でなんとか返済していける水準。年収1,800万円であれば、返済比率は20%を切ることになります。

年収1,000万円は「大台」ともいわれるとおり、1,000万円以上稼ぐ会社員は一部に限られるのが現実ですが、ともに正社員の共働き夫婦となると話は別。2人とも年収500万円強であれば、返済負担は大きくなるものの、億超えのタワーマンションを購入することも不可能ではないのです。

もちろん離婚のリスクを考慮すれば、共同名義で購入するのは思いとどまるべきかもしれませんし、加えて、勤め先の業績悪化などで世帯年収が大幅に減少することになれば、家計は途端に火の車。計算上、ローンを組むことが可能であったとしても、一度落ち着いて考えてみたほうがよいでしょう。

ただ、夫婦ともに公務員だったとしたらどうでしょう。業績悪化による給与減というリスクは限りなく小さいですから、離婚リスクを考えなければ、億超えのタワーマンション購入も現実的になってくるかもしれません。

会社員に比べて“断然”ローン審査に通りやすい公務員

もちろん、公務員であっても、クレジットカードなどの滞納履歴があったり、健康面に問題があったりすれば審査に落ちることも十分に考えられます。しかし、「限りなく低い失業リスク」「安定した収入」「退職金の支給が法律で規定されている」と三拍子揃った公務員は、会社員に比べて断然ローン審査に通りやすいのは事実です。

人事院『令和3年国家公務員給与等実態調査』によると、国家公務員(行政事務)の平均給与は月41万3,064円(平均年齢42.5歳)。国土交通省の調査によると、マンション購入者の平均年齢は40歳前後ですから、ちょうどこの平均値と同じくらいの給与水準であると考えられます。

銀行も、「公務員」と聞けば融資に前のめりになるでしょうから、夫婦で協力して返済すれば、1億円超えのタワーマンションも無理ではなさそうです。ただ、公務員だからといって、将来の安泰が約束されたわけではありません。

人事院が一般職国家公務員の60歳定年退職者に聞いた『令和2年度 退職公務員生活状況調査』によると、60歳定年退職者のうち、「毎月のやりくりに苦労しており、時々赤字が出る」が22.6%、「どうやりくりしても常に赤字が出て生活が苦しい」が17.9%と、60歳定年退職後に4割の人が生活苦を感じていることがわかっています。

また「今後の生活で気になること、不安に思うこと」について聞くと、「自身の健康」や「家族の健康や介護」についてともに7割超の人が「不安」と回答。定年退職者の最大の関心事が「健康」であることが分かりますが、一方で3番目には「日常の生活費やローンの返済といった家計に関すること」がランクインしています。

国家公務員というエリートでさえも、老後のお金についての不安は絶えることはないのです。

予期せぬ失業や給与減の不安は少なく、さらにはある程度の退職金も約束されている……会社員からすれば羨ましい限りの好待遇で働く国家公務員であっても、収入が年金のみに限られる老後は、苦労を強いられるようです。「ローン審査に通ったから」と、身の丈に合わない「高級タワマン」を買ってしまえば、ほぼ間違いなく、老後の生活苦に苛まれることになるでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)