骨粗鬆症とはご存知の通り、骨を形成する組織が弱くなり、骨密度が低下してしまう病気である。骨粗鬆症になると骨が弱くなり、ちょっと転倒したり、体をぶつけたりしただけで骨折を招いてしまうため大変危険な病気である。我々高齢者、とくに女性の場合は骨粗鬆症になりやすいため注意が必要だ。今月は骨粗鬆症について詳しく説明し、その予防法についてもお伝えしよう。

「骨形成」と「骨吸収」のバランス崩れる

ご存知の通り、我々の体は細胞と呼ばれる微小な組織がおよそ40兆個集まって形成されている。細胞は時間が経つにつれて少しずつ死んでゆき、そして同時に新しい細胞が生まれて、古い細胞から新しい細胞へと徐々に入れ替わってゆく。
たとえば皮膚表面の組織などは、おおよそ一か月程度で古い組織から新しい組織へと入れ替わっているという。浅く小さな皮膚の傷であれば、いつのまにか消えて治ってしまうのもこの細胞の入れ替わりのおかげである。人の体は一部を除いて、このような新陳代謝が常に行われているのだ。

骨も同様に新陳代謝を繰り返している。骨細胞は自分自身を破壊する「骨吸収」と、新しい骨を生み出す「骨形成」の働きを持っており、およそ数年で骨細胞はまるまる入れ替わるものなのだ。
この骨を破壊する「骨吸収」と、新しい骨を作り出す「骨形成」の速度のバランスが取れていれば問題ないのだが、様々な理由によって「骨形成」の働きが弱まってしまうと、破壊の速度に形成の速度が追い付かなくなり、骨組織の量が減ってきてしまう。この状態が骨粗鬆症である。

閉経で女性ホルモン減少
加齢・生活習慣なども要因

高齢者、とくに女性が骨粗鬆症に気を付けなければならない原因は、この「骨吸収」と「骨形成」の速度バランスが崩れやすいためだ。
以下に、その原因を説明しよう。

■加齢に伴う骨形成速度の減少
齢を重ねると、骨を生成する骨芽細胞の数が減少したり、その働きも弱くなり、新しい骨組織を生成する能力が低下する。これにより、骨形成の速度が減少し、骨密度の低下が進行する。

■ホルモンバランスの変化
骨の代謝にはエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが深く関係している。このエストロゲンは、女性が閉経を迎える際にエストロゲンの分泌量が急激に減少し、骨形成の働きが弱まる。それに伴って骨量も低下してしまうのだ。

■栄養不足
高齢になると食事の量も減り、特に骨生成に重要な働きをもつカルシウムビタミンDの摂取が不足しがちになり、骨芽細胞の働きが弱まり、骨密度の低下が進行する。
カルシウムは新しい骨組織の形成に不可欠であり、ビタミンDカルシウムの吸収を促進する役割を持っているため、カルシウムビタミンDをバランスよく摂取することが重要である。
これら高齢者および女性特有の要因だけでなく、日常の生活習慣にも骨密度を低下させてしまう要因がある。

■喫煙
煙草に含まれるニコチンは全身の血流を悪くさせる。その結果、胃腸の働きも悪くなり、食欲減退、そしてカルシウムの吸収も妨げられてしまう。また女性の場合はエストロゲンの分泌の妨げにもなる。そのため喫煙習慣のある女性は喫煙しない女性と比較し、骨粗鬆症のリスクがより高くなり、骨折リスクも高くなるといわれている。

■過度な飲酒
飲酒は適量であれば骨密度への影響は問題ないが、過度に摂取するとカルシウムの吸収が阻害され、またアルコールの利尿作用により体内に吸収されたカルシウムが必要以上に排泄されてしまうことがあるという。
骨粗鬆症になると、ごく普通の日常生活においても骨折の危険性が高まり、ちょっとつまづいただけで転倒、骨折してしまう。屋外での活動時だけではなく、自宅内で骨折するケースも非常に多いため注意が必要だ。
とくに転倒した瞬間、地面に手を突こうとして手首や肩を骨折してしまったり、足の付け根の大腿骨頚部を骨折するケース、そして尻餅をついた際に背骨を骨折するケースが多い。
さらに骨粗鬆症が進行すると、重い荷物を持ち上げたり、階段などの段差を降りたりするだけで背骨が圧迫骨折することもある。

日常生活でできる予防法

骨粗鬆症を防ぐために、普段の生活でできる予防法をお伝えしよう。

カルシウムビタミンDを積極的に摂取する
骨形成を促すためにはカルシウムビタミンDなどの栄養素を充分に摂取することが必要だ。カルシウムを多く含む食品は牛乳、小魚、小松菜、大豆製品など。ビタミンDは鮭、秋刀魚などの魚類や卵に多く含まれる。

■外出し、適度な運動をする
ビタミンDは食事などから摂取するだけではなく、太陽の光を浴びることによって活性化することで機能を果たすことが出来るようになる。さらに骨生成は、骨に刺激を与えることで促進される。外へ出て、ウォーキングなど軽い運動をすることで太陽の光を浴び、骨にも適度な刺激を与えると良いだろう。
また、骨折の原因となる転倒を予防するにはバランス感覚を養うことも重要である。片足立ち体操などを行えばバランス感覚と足の筋力も鍛えられる。ただし、無理をして転倒してしまうと本末転倒である。必ず安定性のあるものにつかまって行うこと。

高齢者がひとたび骨折をすると、長期入院や寝たきり生活になってしまうこともあるので大変厄介だ。骨粗鬆症の予防に努め、いつまでも自分の足腰でしっかりと歩き続けていただきたい。

高谷 典秀 医師
  • 同友会グループ 代表 / 医療法人社団同友会 理事長 / 春日クリニック院長 / 順天堂大学循環器内科非常勤講師 / 学校法人 後藤学園 武蔵丘短期大学客員教授 / 日本人間ドック学会 理事 / 日本人間ドック健診協会 理事 / 日本循環器協会 理事 / 健康と経営を考える会 代表理事

【専門分野】 循環器内科・予防医学

【資格】 日本循環器学会認定循環器専門医 / 日本医師会認定産業医 / 人間ドック健診専門医 / 日本内科学会認定内科医 / 医学博士

【著書】 『健康経営、健康寿命延伸のための「健診」の上手な活用法』出版:株式会社法研(平成27年7月)【メディア出演】 幻冬舎発行「GOETHE」戦う身体!PART4 真の名医は医者に訊け(2018年6月号) / BSフジ「『柴咲コウ バケットリスト』in スリランカ 人生を豊かにする旅路」(平成28年1月) / NHK教育テレビ「きょうの健康」人間ドック賢明活用術(平成27年5月) / NHKラジオ「ラジオあさいちばん 健康ライフ」健康診断の最新事情(平成25年11月)

骨粗鬆症の原因と予防