有印私文書偽造・同行使などの罪で、9月15日に懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡された古澤眞尋被告人の肩書きについて、報道機関により違いが出ている。

具体的には、朝日新聞読売新聞共同通信は「弁護士」としたのに対し、弁護士ドットコムニュースは「元弁護士」と報じた。古澤氏が2023年に神奈川県弁護士会から受けた退会命令が、肩書きにどう影響するかで判断が分かれたものとみられる。

この点について日弁連に尋ねたところ、「弁護士の身分の有無という観点では、『元弁護士』が適切かと思われます」とのことだった。弁護士法の観点から整理したい。

●懲戒の効力は告知時点で生じる

弁護士の欠格事由のひとつに「禁錮以上の刑に処せられた者」がある(弁護士法7条1号)。執行猶予つきではあるが、古澤氏は懲役3年のため、判決が確定すれば「弁護士となる資格」を失い、「元弁護士」ということになる。

ただし、報道の時点では判決が確定していないため、問題は弁護士会から「退会命令」を受けたときの扱いということになる。

弁護士の懲戒は、軽い順から戒告、業務停止、退会命令、除名の4種類。不服があれば日弁連に不服を申し立てることができるが、刑事裁判と違って効力は弁護士会が対象弁護士に告知したときに生じる(最高裁大法廷昭和42年9月27日判決)。古澤氏は日弁連に不服申し立て(審査請求)をしているが、退会の効力はすでに発生していることになる。

弁護士会は強制加入団体で、弁護士会に所属しない弁護士の存在は認められない(弁護士法8、9条など)。退会処分を受けると「告知の日よりその所属弁護士会を当然退会し、弁護士の身分を失うことになる」(日本弁護士連合会調査室・編著『条解弁護士法 第5版』、p466)ため、現時点でも弁護士ではないということになる。

●「弁護士となる資格」があっても弁護士になれるかは別

なお、退会命令を受けても、「弁護士となる資格」は失われないため、他の弁護士会に登録できれば、肩書きは再び「弁護士」になる。ただし、入会にあたっては審査があるため、登録は容易ではないとされる(弁護士法12条1項、15条1項)。そもそも審査請求はしているものの、古澤氏は刑事裁判の公判で今後士業につかないことを明言している。

これに対して、より重い除名処分では「弁護士の身分」だけでなく、「弁護士となる資格」も3年間失われる(弁護士法7条3号)。期間が過ぎれば再登録の請求はできるが、退会命令と同じくハードルは高い。

高確率で弁護士人生の終わりを意味するという点では、退会命令と除名の実質的な差はそれほど大きくないのかもしれない。にもかかわらず、なぜ「弁護士となる資格」と「弁護士の身分」が分けられているのだろうか。日弁連のウェブサイトには以下のような説明がある。

「弁護士となるには、弁護士となる資格を得た上で、日弁連に備えられている弁護士名簿に登録されることが必要です。

つまり、弁護士となる資格を得ることと、弁護士となることは別のことであり、弁護士となるには、弁護士となる資格を有する者が、各地の弁護士会および日弁連の登録に関する審査を経て、弁護士名簿に登録されることが必要なのです。このように、弁護士法は、弁護士資格の付与という入口の段階において、弁護士自治の実現を図っています」

弁護士法4条には「司法修習生の修習を終えた者は、弁護士となる資格を有する」とある。ただし、修習を終えれば自動的に弁護士になれるわけではないということだ(同5〜6条にも有資格者についての記載がある)。

ときとして国家権力と対峙することもあるため、弁護士には監督官庁がおかれていない。その分、弁護士会が自ら監督する「弁護士自治」が認められており、同時に適切な運用も求められている。

こういう背景を考えても、退会命令を受け、「弁護士となる資格」を持っているだけの状態では、「弁護士」の肩書きで呼ぶことは難しいのではないだろうか。

報道で分かれた肩書き、文書偽造の被告人は「弁護士」か「元弁護士」か?