旧来の経済システムが崩壊した1990年代以降、北朝鮮の市場で販売される品物の大部分が中国製に取って代わられた。コメですら国内生産分だけでまかないきれず、中国から密輸されたものが売られている有様だった。

そんな状況を変えようと、製品の国産化や国産品愛用キャンペーンを繰り広げている。コロナ禍で貿易を完全に遮断したことで、国産化が進んだと言われているが、売れているかというと必ずしもそういうわけではない。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

首都・平壌の郊外にあり、北朝鮮随一の物流拠点となっている平城(ピョンソン)のいち場に、先月中旬ごろから様々な国産の靴が出回るようになった。革靴、スニーカー、サンダルスリッパなどだ。カラーやデザインもラインナップ豊富で、消費者の反応は非常に良い。

女性用の秋物の靴を例に挙げると、ブラック、ブラウン、チェスナットブラウンなどがあり、ヒールの高いもの、低いもの、パンプスなどがある。スニーカーの場合、ブラック、ホワイトがメインで、ローカット、ハイカットなどもあって「かっこいい」と人気だ。

サンダルはレッド、ブルー、ピンクなどで、かかとに留め具の付いたミュールもあり、新しもの好きの若者の注目の的となっている。

消費者からの熱い反応とは裏腹に、売れ行きはさっぱりだ。その理由は価格だ。

「市場で最も安いのが5万北朝鮮ウォンだが、1日1食すら精一杯の住民の立場からすると負担になる価格だ」(情報筋、1万北朝鮮ウォンは約170円)

平城の駅前市場では、国産のスリッパサンダルが8万から10万北朝鮮ウォン、スニーカーは15万から35万北朝鮮ウォン、革靴は20万北朝鮮ウォンで売られている。1キロ6000北朝鮮ウォン台のコメに手が出せず、2000北朝鮮ウォン台のトウモロコシを買って延命しているという人も少なくない中で、国産の靴は贅沢品だ。

「中国から輸入した靴と比較しても国産は負けないほど改善された」(情報筋)というが、この価格競争力が常に問題になる。その理由は原材料だ。

中国企業からのアウトソーシングで培われた縫製の技術もあり、石炭などの鉱物資源は豊富にある。しかし、それ以外の資源がなく、輸入に頼らざるを得ないのだ。中国を通じて原材料を輸入し、北朝鮮国内で加工するとなると、輸送費などが加算されて、北朝鮮国民の購買力ではとても手が出せない価格になってしまう。結局、殿様商売となってしまっているのだ。

ただ、解決方法がないわけではない。国営企業ではなく、個人の業者がやることだ。

国営企業は、国家計画委員会の定めた経済計画に基づき、製品の生産を行う。製品価格が消費者の購買力を無視したものになろうとも、計画どおりに生産できれば良いのだ。一方、個人業者は儲からない商売はしない。トレンドを読み、本当に売れる製品だけを作り、消費者の手の届く価格で販売する。こういう当たり前のことが、国営企業にはできない。

旧共産圏諸国の店では、売れない商品が山積みになっている一方で、売れる商品はなかなか入荷せず、買い物に来た人は何時間も列に並ぶことを余儀なくされた。上述のような計画経済に基づいて国営企業が運営されていたからだ。

欠陥があきらかになった旧ソ連型の中央集権式の計画経済を採用している国は、世界広しと言えどももはや北朝鮮以外にない。だが、北朝鮮はどういうわけか「逆コース」を辿っていってしまっているのだ。

平壌市民の日常(2018年9月19日、平壌写真共同取材団)