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初回 VWで最も正統派といえるミニバン

新たに長期テストで評価する、この大きなフォルクスワーゲンは、T7世代のマルチバンだ。1950年に発売されたフォルクスワーゲン・タイプIIを祖先に持つ、最新のミニバンとなる。先代のT6世代までは、トランスポーターと英国では呼ばれてきた。

【画像】ご先祖はタイプII VWマルチバン BEVのID.バズ メルセデス・ベンツVクラスとEQVも 全107枚

欧州ではワンボックスカーの定番といえ、商用目的のバンとして活躍し、キャンピングカーのベースにもなってきた。世代交代を重ねるごとに快適性を高め、大型のファミリーカーとしても支持を集めてきた。

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フォルクスワーゲン・マルチバン 1.4TSI eハイブリッド 218ps スタイル(T7/英国仕様)

モデルチェンジしたばかりのT7マルチバンだが、フォルクスワーゲンには魅力的なワンボックスカーがもう2台存在する。バッテリーEVのID.バスは既にご存知かと思うが、フォード・トランジットと共同開発となる、実務的なバンも2024年に控えている。

似たフォルムを持つ3種類のモデルが選べるようになるわけだが、フォルクスワーゲンのマルチバンはT7と名乗るだけあって、最も正統派だといえる。より自由なライフスタイルとの相性が、1番高いと考えても良いだろう。

7シーターに両側スライドドアで高い実用性

新しいマルチバンは、過去にないほど乗用車ライクになった。基礎骨格をなすプラットフォームも、乗用車のものをベースにしている。

標準で7シーターとなり、2列目が2名掛け、3列目が3名掛けというレイアウトが取られている。長期テスト車は、3列とも前を向いて座る格好だが、英国仕様には2列目が後ろ向きに座るカンファレンスシート・パッケージも用意されている。

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フォルクスワーゲン・マルチバンは、早速ロックバンドのツアーバスとして活躍した

ゆったり移動したいなら、セパレートシートが並ぶ6シーター仕様もある。どのレイアウトを選んでも、後方2列のシートはスライド可能。必要なら取り外してクルマから降ろせる。とてもフレキシブルな車内だ。

この実用性に目がつけられ、編集部への納車後すぐに、ロックバンドのツアーバスとして同僚へ10日間ほど貸し出すことになった。彼はドライバー兼、演奏者兼、技術者兼、ライブの運営スタッフとして活躍し、3200kmもグレートブリテン島を巡ったそうだ。

マルチバンのボディサイズは、ショートボディで全長4973mm、全幅1941mm、全高1907mm。リアシート2列をすべて降ろすと、3672Lの空間が生まれる。

彼は3列目だけを外したそうだが、ギター4本とアンプ3台のほか、キーボード1台、ドラムキット1台、ペダルボード3台、シンセパッド1台、大きな段ボール箱3つ、ギタースタンドとキーボードスタンド、5名分のスーツケース、カメラバッグ2個が載ったらしい。

ほかに、バンドメンバーが5名も。両側スライドドアで、テールゲートも大きく開き、荷物を積みやすく人も乗り降りしやすい。

大型の高級SUVなどが競合モデル

マルチバンが筆者の手元へ戻ってからは、すべてのシートを降ろしている。現在は自宅の倉庫にしまってあるが、1脚20kgあるため運ぶのは容易ではない。家族と移動する時が来るまで、そのままにしておこうと思う。

英国価格は、ベーシックなガソリンエンジンのライフ・グレードで4万3720ポンド(約765万円)から。1.4Lガソリンターボに電気モーター、6速デュアルクラッチATが載ったプラグインハイブリッドは、約5万ポンド(約875万円)となる。

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フォルクスワーゲン・マルチバン 1.4TSI eハイブリッド 218ps スタイル(T7/英国仕様)

スタイル・グレードではさらに上昇し、オプションを付けない状態でも5万9545ポンド(約1042万円)。望ましい装備が複数盛り込まれた長期テスト車の場合、6万6619ポンド(約1165万円)と、かなりの金額に達していた。

追加されていたオプションの内容は、フォルクスワーゲンの中でもトップクラスの音質を誇るハーマン・カードン・オーディオと、パノラミック・ガラスルーフ、ツートン塗装など。価格帯的に、競合モデルになるのは大型の高級SUVなどになるだろう。

運転席まわりを中心に、内装は多くのフォルクスワーゲンと同等に組み立て品質が高い。完成度が余り優れない、インフォテインメント・システムも同様だ。ただし、ステアリングホイールには実際に押せるスイッチが付いており、操作性は悪くない。

運転支援システムとして車線維持支援が備わるが、介入が煩わしいなどオフにしたい場合は、ステアリングホイール上のボタンから操作可能。タッチモニターをタップする必要はない。

洗練され運転しやすいフォルクスワーゲン

プラグインハイブリッドだから、駆動用バッテリーを充電すればガソリンを燃やさず走行できる。1度の充電で30km以上は現実的に走れるようだが、筆者は自宅を出てすぐに高速道路へ乗ることが多い。市街地でゆっくり確かめてみたい。

高速道路の速度域では、内燃エンジンを駆動用モーターがアシストし、車重が2240kgある大きなボディでも必死な感じはしない。このアシストのため、常に一定の電力量が駆動用バッテリーには残るよう制御されている。

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フォルクスワーゲン・マルチバンのステアリングホイールを握る筆者

一般的な通勤距離で、毎日充電が可能なら、電気の力だけで平日は問題なく過ごせるかもしれない。充電環境がなかったり、長距離走行が多い場合は、英国ではディーゼルエンジンも選べる。

燃費は、今のところ平均で12.4km/L。ドライブモードに関わらず車内は静かで、高音質ステレオが美しい音楽を奏でてくれる。乗り心地は、リアシートを装備し荷物を載せた方が落ち着きは増すようだ。

とはいえ、洗練され運転しやすいフォルクスワーゲンだと感じている。最新のT7世代を、じっくり楽しんでみようと思う。

セカンドオピニオン

フォルクスワーゲンは、ほぼ同じ時期にマルチバンとバッテリーEVのID.バズを発表した。少しクラシカルな雰囲気を漂わせる、レトロフューチャーなID.バズの方が、今のところ注目度は高いようだ。

とはいえ、T7マルチバンの訴求力は低くない。スタイリングはカッコ良いし、実用性に長けたインテリアを備え、走りは不満なくダイナミック乗用車ライクに乗れるワンボックスだと思う。 Felix Page(フェリックス・ペイジ)

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フォルクスワーゲン・マルチバン 1.4TSI eハイブリッド 218ps スタイル(T7/英国仕様)

テストデータ

テスト車について

モデル名:フォルクスワーゲン・マルチバン 1.4 eハイブリッド 218ps スタイル(英国仕様)
新車価格:5万9545ポンド(約1042万円)
テスト車の価格:6万6619ポンド(約1165万円)

オプション装備

ツートーン塗装:2700ポンド(約47万3000円)
パノラミック・ガラスルーフ:1500ポンド(約26万3000円)
パワーシート:1500ポンド(約26万3000円)
ハーマン・カードン・ハイファイオーディオ1080ポンド(約18万9000円)
ディスカバープロ・ナビ&インフォテインメント:294ポンド(約5万2000円)

テストの記録

燃費:52.6-55.5km/L(WLTP)
故障:インフォテインメント・システムの不調
出費:なし


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