企業の成長に必要不可欠な「人材採用」について、多くの企業がより公正で適切な採用プロセスを模索しているものの、実践できているケースは少ないと、アライアンスバーンスタイン株式会社の責任投資ヘッド、臼井はるな氏はいいます。そこで今回、「決まり切った採用プロセスから脱却できた」類まれな企業の例をいくつかみていきましょう。

「創造的な採用手法」を編み出したインドのIT企業

多様性の充実に向けて、従業員数に占める女性やマイノリティの雇用に一定の基準を設けて、その基準を満たそうとする企業が目立ちます。

ただし、それだけで適切な人材を確保できるとは限りません。むしろ、多様な人材の採用を妨げるバイアスを取り除き、創造的な採用の手法を編み出すことが大切だとアライアンスバーンスタインでは考えています。

HRリサーチ・インスティチュートの調査によると、多くの企業が採用プロセスをより公正なものにしようと努めていると答えているにも関わらず、実際にはそれを体系的に実践しているケースは少ないのが現状です。

採用におけるバイアスの例として挙げられるのが、思い込みで判断を誤ってしまう認知バイアスです。

その典型が、採用候補者を履歴書の内容で判断してしまうこと。履歴書に一流大学卒の学歴や、有名企業での職務経歴の記載があるとその候補者は魅力的に見えます。しかし、本当に採用を成功させたいのであれば、履歴書にあらわれないスキルに注目することが大切です。

ここでいうスキルとは、実務経験というよりも問題解決能力や知的好奇心の有無、既成概念に疑問を持つことに抵抗がないかといった思考力です。

スキルに注目した採用の好事例がインドのITサービス企業、インフォシスです。

同社は、米国の拠点における顧客対応スタッフの採用にあたり、工学の学位ではなくクリティカル・シンキング批判的思考)の有無を重要視しました。米国のコミュニティ・カレッジやリベラル・アーツ・カレッジと提携し、クリティカル・シンキングができる学生を探し出しました。カレッジには、相対的に女性やマイノリティが多い傾向があります。

スキルを持ち、多様化に繋がる人材を採用できたことで、インフォシスは米国における従業員基盤の拡大やダイバーシティの推進を実現し、多様な顧客に対応できる体制を整えることができました。

“トラックドライバー=男”は古い!“常識ぶち破った”日本企業

日本においても、思い込みを排除したことで人手不足を解消した事例があります。トラック運送・物流会社である佐川急便を中核としたSGホールディングスです。

従来、トラックドライバーは男性の仕事と考えられていました。しかし、少子高齢化が進む日本では男性にこだわったドライバーの確保は年々難しくなっていて、女性や高齢者の活躍が求められています。

同社は、テクノロジーや設備に投資し、積み込み作業と運送作業の分離に成功。現在、多くの女性や高齢者、さらには身体障害者がドライバーとして活躍しています。

「決まり切った採用プロセス」からの脱却

同じような採用プロセスを踏んでいる企業は数多く存在します。同じ大学や企業の出身者を採用していてばかりでは、多様性は乏しくなってしまいます。採用の対象を従来とは違う属性の集団から選ぶことで打開を図る事例も生まれています。

米国の建設用重機レンタル会社であるハーク・ホールディングスは、自社に求められる特性を持つ集団に着目しました。同社が取り扱う重機は、安全や手順の遵守が求められます。そこで同じく規律の遵守が求められる軍隊に注目し、退役軍人を中心に求める人材の確保に成功しました。

紛争によって母国から避難を図った難民は、生活を立て直すために労働意欲が高い人々だと捉える企業もあります。フランスに拠点を置くIT企業のキャップジェミニは、難民を訓練してデジタル関連の仕事に就かせるプログラムを英国で立ち上げ、人材不足の問題を解消しようとしています。

採用プロセスからバイアスを減らし、インクルージョンを推進させるツールが開発されています。たとえば、米国の科学機器サプライヤーであるサーモ・フィッシャー・サイエンティフィックは、すべての求人広告について、候補者の応募を阻止するような言葉づかいを減らすのに役立つツールを用いています。

適切な人材を採用することは、事業の健全性を構成する要素でも過小に評価されているものの1つです。企業は定型的な採用方法を打ち破ることで将来の収益性を一段と高めていく志向が大切で、投資家も投資先企業の人材採用のあり方にもっと注意を払うべきでしょう。

臼井 はるな

アライアンスバーンスタイン株式会社

責任投資ヘッド

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(※写真はイメージです/PIXTA)