法制審議会の家族法制部会は8月29日、離婚後の子の養育をめぐる制度の見直しに向けた民法改正要綱案のたたき台を示し、離婚後も父母双方が親権者となる「共同親権」の導入を認める一方で、DVや虐待があった場合は例外としました。

弁護士ドットコムでは、会員弁護士に、たたき台についての賛否や意見​​などを尋ねるアンケートを実施し、176人から回答が寄せられました(実施期間:8月31日9月5日)。

「たたき台」について賛否を尋ねたところ、56.3%が「反対」、21.0%が「どちらかといえば反対」と回答し、「どちらかといえば賛成」、「賛成」と回答した14.3%を大きく上回りました。弁護士の意見を紹介します。

●たたき台の論点とは?

法制審議会の家族法制部会が示した民法改正要綱案のたたき台は主に以下の内容です。

・単独親権か共同親権かを選択できます

現行制度では離婚後は父母どちらかにしか親権を認めない「単独親権」ですが、父母双方に親権を認める「共同親権」の選択も可能としています。DVや虐待などを想定して、親権について父母の協議が整わなければ、親子や父母の関係を考慮して家庭裁判所が親権者を決めたり、一定の条件を満たせば、親権者を決めなくても協議離婚できます。

・親権者は変更できます

親権者の決定後も、DVや虐待などにより子どもの安心安全が脅かされる場合には、家庭裁判所の判断で親権者を変更できます。

・子どもの身の回りの世話をする「監護者」の判断が優先されます

共同親権では、子どもの進路や大きな病気や怪我をした場合の治療方針などの重要事項は父母双方の合意で決定します。ただし、親権を持つ父母のうち一方を、子どもの身の回りの世話をする「監護者」に定めれば、監護者は日常的な教育や居所指定を単独で決定できます。

・養育費の協議をせずに離婚しても、「法定養育費」を請求できます

養育費の不払い対策として、養育費の協議なしに離婚した場合でも、養育する親がもう一方の親に、最低限の経済的支援の請求を可能とする「法定養育費」を創設します。養育費の支払いが滞った場合に財産の差し押さえ手続きをしやすくするため「先取特権」を定めます。

・家庭裁判所が面会交流の試行を促せます

子どもと別居する親と、子どもとの面会交流については、家庭裁判所が試行を促せる規定を新設します。子どもの安心安全に留意し、第三者の立ち会いといった条件を付けます。

部会は、年内での要綱案取りまとめを目指しています。

●56.3%が「反対」、21.0%が「どちらかといえば反対」

アンケート結果を紹介します。

「たたき台」について賛否を尋ねたところ、56.3%が「反対」、21.0%が「どちらかといえば反対」と回答し、「どちらかといえば賛成」、「賛成」と回答した14.3%を大きく上回りました。「どちらともいえない」は8.5%でした。

●賛成・反対の理由

賛否の理由を尋ねたところ、以下の声が寄せられました。

【反対派の意見】「共同親権がなくとも、共同監護は可能」「争点が増える」

「共同親権がなくとも、共同監護は可能。元夫婦で話し合いができる場合は既に共同監護をしている。面会交流すら認められていない場合はそれなりの理由があるというのが実務感覚(裁判所は、原則面会交流実施。妻へのDVがあっても、子どもに対しての明らかな虐待がない限りは実施)。共同監護や面会交流が出来ていない関係性の夫婦が、共同親権となった場合、事実上の拒否権を与え、離婚後も支配を継続する。共同親権にしなければ離婚しない等という取引材料に使われたり、元々の力関係から拒否できない」

「これまではどちらが親権を有するかを揉めてた件が、共同親権か単独親権かということと、単独親権としてどちらを親権者とするかを揉めることになって、争点が増えるだけだと思う。現状問題がある件をどうにかしようということだろうが、もめごとが増えるだけで解決にはならない。親の『権利』という構造で捉えており、子どもからの視点はまったく置き去りだと感じる」

「大変拙速な議論で、離婚(紛争状況が高い)の実態を全く理解していない人たち(学者)を中心に、政治的な力が大きく働く中で作られたたたき台である。このたたき台には、共同親権が導入されれば最も大きな影響を受ける当事者の声や、その力に寄り添う弁護士(実務家)の意見、そしてこの制度が導入されれば目に見えて関わりが質量ともに過多となるであろう家庭裁判所の裁判官等の視点が反映されず、無視されたものとなっている。また、パブリックコメントの内容への検討も全くなされておらず、多数決で今後押し切られてしまう可能性がある。本当の意味で民意が反映されず、民主的な手続きが執られていない法制審議会には不信感、絶望の気持ちである」

【賛成派の意見】「国連子どもの権利委員会から勧告されている」

「必ずしも、弁護士の介入が要らない、さほど対立が激しくない夫婦にとっては、共同親権という新たな選択肢ができることになり、より円満な解決が図れるようになる。他方、弁護士の介入が必要な対立の激しい夫婦にとっては必ずしも有効な選択肢にはならない。しかし、立法政策としては、少しでも共同親権で裨益(ひえき)する人がいれば導入する価値はある」

「離婚に伴う親子についての紛争は、数多く存在するにも関わらず、裁判所は現状追認的判断が多く、強制力の弱さなどから、父、母、どちらにとってもただ我慢しなければならないというような場面を多くみてきた。離婚に伴う親子についての法制度について、日本が遅れていることは事実であり、この点について、国として、一定のルール化を目指すことは、望まれることである(遅いくらいでもある)」

「共同親権制度導入は、国連子どもの権利委員会から勧告されている。条約を批准している以上、導入すべき」

【どちらともいえない派の意見】「親権よりも面会交流の方がはるかに重要」

「DV、児童虐待防止対応に必要な関係機関強化、家庭裁判所の強化がまず大事。面会交流について、支援や安全確保に取り組む機関を創設するのが良いと思う。また協議離婚が届出だけで可能な現行法を見直し、協議離婚について裁判所で当事者の意思確認をする制度とすると良いと思う。親権や監護権について、紛争解決に役立つ法改正は必要だとは思うが、その前か、同時にやるべき法改正や機関整備が必要」

「実務的には親権よりも面会交流の方がはるかに重要。共同親権であっても面会が認められない限り意味がないのでは」

「改正により現状よりも、実際に離婚する夫婦及びその子の置かれている状況が改善するということは、期待できないように思う(むしろ争いが長期化する危険があると考える)。もっとも、ビジネス面で言えば、離婚を専門的に扱っている弁護士としては、制度が複雑化する程、差別化が図りやすくなるのではないかと考えている」

●たたき台どおりに改正された場合、8割が「家裁はうまく機能しない」

「たたき台」どおりに法改正された場合、家裁はうまく機能するかを尋ねたところ、55.1%が「しない」、25.6%が「あまりしない」と回答し、「どちらともいえない」、「多少はする」、「する」と回答した19.3%を上回りました。

以下の声が寄せられました。

最も目立ったのは、家裁は現状でもマンパワー不足であり、いま以上に役割を増やすのは対応が難しいのではないかということ。知識不足や担当者による判断のばらつきが発生するなどの懸念の声もありました。

【家庭裁判所のマンパワーが足りない】

「マンパワーが全く足りない。現状でもDVはほぼ判断せず、面会も原則実施。これと同じことが親権でも起こると思われる。つまり特段の事情がない限り共同親権。面会も当初は、DVや虐待は除外と言っていたのにマンパワー不足で、ほぼ何でも認めるようになってしまった」

「家裁のマンパワー不足を争う者はいないだろう。現行法でも足りていないのに、共同親権を導入したら、単独親権をかちとるための裁判が増えるだろうし、共同親権のもとで家裁にもちこまれる事案も増えるだろう。2倍どころでは足りないが、それが実現するとは到底思えない。前述したが、マンパワー不足を解消しようとすると、説得しやすい方を説得することになる。それが、何を意味するのかを考えるべき」

【実力や研鑽不足】

「DVに関する専門知識(構造、心理的影響、子どもへの心理的影響)への研鑽が裁判官にも、残念ながら調査官にも足りない。その上、現状においても、家裁の職員(裁判官、調査官含む)の人数はまったく足りていない。くわえて、現在の裁判関数を前提としている家裁の設備(審判廷など)も現状でも不足している。調停委員についても、高葛藤事案を適切に扱うことができるように、常勤化し、必要な賃金を支払う前提で、質の確保が不可欠である」

「家庭裁判所に実力はない。家庭裁判所調査官は、専門家とされているが、少年事件ではそれなりの力があるが、家事事件では、子の様子を見るしか能力がない。夫婦を見て判断するのは無理で、結局は、裁判官次第であり、調査官に補助するには限界がある。無理である。今後、調査官、調査官補の研修を積んでいっても難しいと思われる」

【動きが遅い/担当者による判断にばらつきがある】

「裁判所の動きが極めて遅く、法律を変えたとしても実務での変更がなされる可能性は低いと思われる」

「裁判官に当たりはずれが大きい。調査官に対しては不服申し立てすらできない」

●世の中はどう変化するか

「たたき台」どおりに法改正された場合、世の中はどう変化するかについて以下の声が寄せられました。

【結婚や離婚を諦める人が増える】

「当面は、DV被害があっても離婚手続きをとれない子供のある夫婦が増え、重篤な被害が長期化する。児童相談所がきちんと仕事をするならば保護される子が増えるでしょう。その事実が浸透してくれば、さらに結婚・出産を躊躇する層が増え、少子化が進むかもしれませんね」

「離婚を諦める人が続出する。子どもの決定事項で、相手方の同意を得るために、離婚後も顔色をうかがうことになり、性的DVや性虐待の温床となる。相手方の同意をえることをあきらめて、子どもは成人するまで我慢を強いられることも増える」

【子どもが犠牲になる】

「子どもが心身ともに犠牲になる数が爆増する。養育費の支払いがなされなくなる(半分監護をしているのだから、養育費も払う必要がないという主張がなされる。すでに欧米では起こっている)。離婚後も支配が継続するので、支配されてきた側が自殺や心中を考えるようになる(逃れる手段がないため)」

【社会が混乱する】

「DV被害者は逃げられない。離婚事件の急増、解決までの長期化、母子家庭のより一層の貧困化、複雑化等、離婚をビジネス化する弁護士の急増など、明らかに社会は混乱する」

●弁護士実務への影響

「たたき台」どおりに法改正された場合、弁護士実務への影響については、以下の声が寄せられました。

【仕事は増えるけど...喜べない】

「親権をめぐる争いや、進学だ医療だと言って争いになるので仕事は増えそうであるが、こんな気の毒なことでお金をもらいたくない」

「弁護士の仕事は増えると思うが、本当に離婚により親や子の幸せを望んで関わってきた弁護士としては全く嬉しくない。一方で、それをビジネス化してしまう弁護士も増えるだろうが、それは非常に嘆かわしいと考える」

【業務妨害や懲戒請求が増える】

「離婚後の高葛藤の父母の事件が増加した結果、高葛藤な依頼者は、弁護士のコントロールがきかない。現在、離婚事件について、相手方弁護士に対する業務妨害的な懲戒請求が増加していると思われるが、元依頼者による自弁に対する懲戒請求も増えるであろうと予測する」

【事件が長期化する】

「これまで以上に細かな調査が必要となり調査官の労力が増える。裁判官の判断にばらつきがかなり出るため結果が予測しにくい。結果、上訴も増える。離婚後の紛争によって裁判所に持ち込まれる事件数が増加するが、紛争ごとに調査が必要になる。事件解決までの時間が長期化し、また終局的な解決とならない事案が増える。離婚当事者にとっては経済的にも時間的にも負担が増える。子どもにとっても離婚後も紛争の渦中に置かれることになり、心理的な負担が増える」

「共同親権の制度がある以上、依頼者の希望があれば本気度が低くてもとりあえず主張はしなければならなくなるので、手続きが長期化する。共同親権制度の説明を怠ると弁護過誤になりかねない」

共同親権を導入する民法改正要綱案「たたき台」、弁護士たちの評価は?