
日本屈指の歓楽街・六本木の一角に、ネオンが煌々と輝くクスリ屋がある。そこは、かつて夜遊び通に知られた人気CLUBの跡地。
深夜営業の形態をとる珍しい薬局で、漢方薬や一部の医療用医薬品(処方箋なしで購入できるもの)を扱っている。六本木という場所柄、黒服(ボーイ)、キャバ嬢、ホステスから経営者、港区セレブまで、幅広い客層がそのクスリ屋に夜な夜な吸い込まれていく。
巷では「怪しい」と噂され、近寄りがたい雰囲気もあるが……その正体に迫るべく、筆者はクスリ屋に足を運んだ。
◆六本木の人気CLUB跡地にできた謎の漢方薬局の正体
取材当日、筆者は夜の19時過ぎに六本木へ降り立った。いざ、ネオンの看板をめがけてクスリ屋へ。六本木交差点から東京タワー方面に歩いていき、ドン・キホーテを越えた先の十字路を左折。すると、見えてきたのが「六本木漢方薬局」だ。
深夜営業で一部の医療用医薬品が買える「日本初」の薬局として2022年1月にオープン。同店を運営する会社は、もともと同じ建物の地下でBARを経営していた。
そこに来る常連客から、栄養ドリンクや二日酔いの症状を緩和する漢方の買い出しを頼まれることが多く、それが経緯となって薬局を開業することになったそうだ。
◆夜の六本木の住人たちの「人生の縮図」が見えてくる
「病院の診療時間帯に行く時間が取れないビジネスパーソンやナイトワーカーの方の、急なお薬のニーズに応えられるように夜19時から翌朝5時までの深夜営業を行う『六本木漢方薬局』を立ち上げたんです」
そう語るのは、同店に常駐する薬剤師の一人であるさくらこさん。実は彼女、タレントとしても活動している。
ここで働く理由については「薬局を訪れるお客様の人生の縮図を垣間見たかった」と語る。
「薬剤師としてお客様の症状を伺い、最適なお薬を提案していくのですが、六本木という場所柄もあって、キャバクラで働くナイトワーカーや経営者など、普段は会えない層の方とお話できるのが魅力的に感じて。また、漢方薬についても勉強したかったので、求人に応募したのがきっかけになっています」(さくらこさん、以下同)
さくらこさん以外にも、約10人ほどの薬剤師がシフト制で働いているそう。昼の調剤薬局とは別でお小遣い稼ぎしたい、漢方専用の薬局という物珍しさから働いてみたい、漢方薬について勉強したいなど、さまざまな働く目的を持った薬剤師が勤務しているとのこと。
なかには、60代の調剤師も深夜勤務に勤しんでおり、「日ごろから漢方薬を飲んでいることもあり、元気に働いています。急な深夜シフトにも対応してもらったりと、非常に助かっています」とさくらこさんは言う。
◆二日酔い防止や滋養強壮の漢方薬が人気
六本木漢方薬局ではかぜ薬や塗り薬、ビタミン錠剤といった医療用医薬品のほか、漢方薬、薬膳、サプリメントなど、約100種類ほどの商品を取り扱っている。
弱った肝臓の働きを助け、免疫力を高める薬や滋養強壮や疲労回復に効果的な「牛黄(ゴオウ)」の漢方薬も人気だという。
「体質や肌荒れの改善、滋養強壮や免疫力向上、便秘やダイエットなど、お客様によって本当にいろんな需要があります。それらに応えられるように、他ではあまり扱ってない馬の心筋エキスや牡蠣肉エキス、食べる薬膳茶などの珍しい商品もラインナップしています」
◆ナイトワーカー以外の地元民にも認知が広がっている
オープンから1年半経った今、利用ニーズや求められる「クスリ」について何か変化はあったのだろうか。
当初は20代のナイトワーカー中心に利用ニーズがあったそうだが、最近では30代〜40代前後の近隣に住む地元民や訪日外国人客なども多くなってきているとのこと。
「お店のピークタイムは3回あり、まず開店直後の19時にはナイトワーカーが出勤前に医療用医薬品や漢方薬を求めてお越しになり、次いで22時前後には仕事終わりのビジネスマンや六本木、麻布十番、東麻布などのエリアに住む地元の方が来店することが多いですね。
そして、25時以降はナイトワーカーが自分のお客様を連れてきたり、ネオンサインに興味を持った外国人が入ってきたりと、まさに六本木の街らしく多様な層の方が六本木漢方薬局に来ていただいています」
◆港区セレブは漢方薬購入もブラックカードで決済
さらに、生活に余裕のある客が多く、「ほとんどがブラックカードで決済していく」とか。
「高価なサプリメントや漢方薬を購入いただくお客様もいますね。効果を実感された方はリピーターになってくれて、定期的にお店へ通っていただいています。売り上げはおおよそ月商100万円以上いくようになっていて、地域に根ざした薬局として一定のご支持にはつながっていると感じています」
六本木はバーやCLUB、ラウンジなどが点在する日本屈指の繁華街だ。だからこそ、深夜帯に営業する漢方薬局は貴重な存在であり、口コミで認知が広まっているのだろう。
また、経験豊富な薬剤師がクスリを提案し、健康増進をサポートする体制があるのも六本木漢方薬局の強みと言える。今後はさらに認知度を高めていき、“六本木の顔”として地域に密着した漢方薬局を目指していくそうだ。
<取材・文・撮影/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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