NHKのBS時代劇『赤ひげ』は2017年にシーズン1が放送されて以来、断続的にシリーズが続いている。小石川養生所の医師である主人公の「赤ひげ」こと新出去定(にいで・きょじょう)を演じているのは、船越英一郎。以前は「2時間ドラマの帝王」と呼ばれていた船越にとって、山本周五郎『赤ひげ診療譚』を原作とする『赤ひげ』は時代劇初主演作であり、新たな代表作となった。

そして2023年、その『赤ひげ』の舞台化によって船越は63歳にして初めて舞台に挑む。『赤ひげ』を自身の「ライフワークとしていきたい」と語る船越にとって、これ以上ない初舞台だろう。

赤ひげの下、養生所で働く若き医師たちを演じるのは舞台を中心に活躍中の俳優たち。そのうち、彼の登場で物語が始まる、いわば観客と共に『赤ひげ』の世界に入っていく保本登(やすもと・のぼる)を演じるのは、新木宏典。「これだけの芸歴のある方が今でも新しいことに挑戦されるなんて、本当にかっこいいですよね。ビジュアル撮影の時に船越さんにお会いして、すごく物腰の柔らかい、必要な言葉を感じ取って口にしてくださる方だと感じました。稽古が始まることをとても楽しみにしています」と語った。

そして、森半太夫(もり・はんだゆう)(猪野広樹/高橋健介のダブルキャスト)と共に以前から養生所で働いていた津川玄三(つがわ・げんぞう)を演じるのが、崎山つばさ。新木のことは「兄貴」と慕っているという。「宏くん(新木)と同い年の兄がいるんですよ。だから僕にとっては“東京の兄貴”。役者として、男として、そして人間として、常にかっこいい背中を見せてくれる人。演技についても本当に細かいところまで見て、『俺はこう思うけど、こうしたらもっと良くなる可能性もあるよね』とさらっとアドバイスをくれます。他人に対してそうそう心を開けるわけではない僕でも、宏くんにはすぐに心の扉を開きました」

一方の新木にとっても、崎山は大切な存在であることがうかがえる。「つばさは社会人として完璧。大人で、社交的な部分も含めて一つひとつのことを丁寧に、誠意をもって行なっているから、関わった人たちがみんな好印象をもつ。会えばとても面白いし心地よいし、会わない時も他の人と『つばさって今何やってんだろう?』と話すくらい、気にかかる存在であることは間違いないですね」。そう話す新木の横顔を見つめながら、口元がほころんでいた崎山だった。

彼らが演じる役柄についても、既にさまざまに考えをめぐらせているようだ。特にストーリーラインの主軸を担う保本については「原作は、保本登の成長記のような作品。保本が赤ひげに反発する姿には反抗期的な部分もあるし、養生所の患者たちとの関わりを通して変化していく部分も大きい。それをどうやって、舞台の中で自然な成長になるように見せていくのか。見えないところでの役の作り込みが、自分の課題になるのではないか」と新木は話す。

そして崎山は、津川は保本とも森とも違う立ち位置だという。「原作でも黒澤明監督の映画でも、津川はあまりフィーチャーされていない。今回の舞台ではどう立ち回り、後から養生所にやって来た保本が変わっていく姿を間近で見て、彼自身はどう変わっていくのか。これまで見たことのない部分を、自分なりにどう表現するのか。そもそも津川という人間が皮肉屋でちょっとつかみづらいところもあるので、そこを自分なりにうまく咀嚼していきたい。行間から読み取る情報も含めて自分でどんどん構築していかなくてはいけない、難しい役だと感じています」それぞれの課題をどのように消化するのか。楽しみは尽きない。

明治座という“温故知新”な劇場で

そしてこの作品は、江戸時代の医療現場を描いている。“貧困と無知”がクローズアップされ、生と死、子どもを巻き込む親のありようなど、悲惨な状況も登場する。「貧しく、ギリギリに追いつめられた状況だからこそ選択を誤ってしまう姿が描かれていて、現実の世界でもそれが増えていくんじゃないかという懸念をもって観る人も多いと思います。医師という命を扱う職業を取り上げるからこそ、とても重いテーマをもった作品だし、それを良い意味でプレッシャーとしながら精いっぱい表現していきたい」と新木は語る。

崎山も、原作の子どもにまつわるエピソードが印象深いという。「本当につらくて。多くの人と関わっていろいろなものを見てきた赤ひげ先生が医療を『情けないもの』と言うほど生きにくい時代で、それが子どもにまで影響していることに胸が締めつけられます。この作品はフィクションですけど、本当にそういう時代があった。だからこそ、コロナ禍などいろいろな大きい壁を乗り越えてきている今、僕たちが貧困と無知との闘いを描く作品を上演する意味は? そしてこの作品を観た人たちはどう思うのか? それが大きなテーマだと思います」

さらに、本作は1873(明治6)年に創業した明治座の150周年記念公演のひとつ。明治座という劇場を、新木は「着物を着たおば様方が来るような、ちょっと敷居が高いイメージ」だったと打ち明ける。しかしそれは、3月の明治座創業150周年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』に出演して変わったそう。「時代の流れを把握してお客様のニーズに合った半歩先のものを創る姿勢があるから、常にお客様に驚きを提供して、150年続けることができたのだと感じました。もしかしたら、現代で一番傾いて(かぶいて)いる場所かもしれません。それに劇場の外に幟が出ていて、自分の名前を入れてもらえることが素晴らしいですよね。そういう歴史を感じられるものに直接触れられて、しかも作品自体は新しい。そのチャレンジしている姿勢は、まさに“温故知新”。それを具現化してどんなことができるのか、楽しみにしています」

「明治座の150周年記念作品ということで、出演が決まったと聞いた時は身の引き締まる思いがしました。宏くんも言ったように、キャスティングなどを見ても確かに新しいものをめざして挑戦していると思いますし、その一員として選んでいただけたことが本当に嬉しい。その期待には応えたいし、それ以上の何かを残したいと思っています。あと、僕も自分の名前が入った幟が出るのはすごく嬉しいです。初めてのことですし、絶対に写真を撮ると思う(笑)」と、崎山も大きな喜びと同時に良い意味でプレッシャーも感じているようだ。さらに「『赤ひげ』は、登場人物の生き様や言葉を通して、観る方にとって生きるヒントになるような言葉が散りばめられている作品だと思います。それを舞台作品として、観る方に伝えていけたら」と真摯に語った。

また、明治座は単に芝居を観るだけでなく、幕間に食事も楽しみ、お土産物も買って、と1日楽しめるアミューズメントパーク的な場所だともいう新木。「特別な日になるべくして選ばれた、有意義な時間だと感じてもらえるような作品にしたい。稽古を重ねて、皆さんの素敵な思い出になるように努力していきます」と締めくくった。彼らのさまざまな思いをのせた公演は、10月28日(土)~11月12日(日)明治座にて。その後、12月に大阪公演あり。

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取材・文:金井まゆみ 撮影:興梠真穂

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<公演情報>
明治座創業150周年記念
『赤ひげ』

原作:山本周五郎「赤ひげ診療譚」(新潮文庫刊)より
脚本:堤泰之
演出:石丸さち子
出演:
船越英一郎
新木宏典  崎山つばさ 猪野広樹・高橋健介(Wキャスト)
菅井友香山村紅葉

2023年10月28日(土)~11月12日(日)
会場:東京・明治座

チケット情報
https://w.pia.jp/t/akahige/

チケット情報
https://w.pia.jp/t/akahige/

公式サイト
■東京公演
https://www.meijiza.co.jp/info/2023/2023_10/
■大阪公演
https://www.shinkabukiza.co.jp/perf_info/20231214.html

公式X(旧Twitter)
@akahige_stage

左から新木宏典、崎山つばさ