国立映画アーカイブにて9月23日まで開催中の「第45回ぴあフィルムフェスティバル2023」。本映画祭のメインプログラムであるコンペティション「PFF アワード2023」の表彰式が22日、コートヤード・マリオット銀座東武ホテルにて行われ、最終審査員を務めた映画監督の石井裕也、石川慶、作家の岸田奈美、プロデューサーの國實瑞惠、イラストレーターの五月女ケイ子が登壇し、グランプリをはじめとする受賞作品を発表した。

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「PFFアワード」は、これまでに石井岳龍、黒沢清、塚本晋也、矢口史靖、佐藤信介、李相日、荻上直子、石井裕也、山戸結希監督ら180名を超えるプロの映画監督を輩出。この日の授賞式に参加した石井監督も過去に受賞を果たしている映画監督への登竜門として知られるコンペティションだ。

今年の応募数は昨年を上回る557本。最年少は12歳、最年長は72歳だったそう。557本の応募から入選を果たした22作品が映画祭で上映された。「観客賞」はたかはしそうた監督の『移動する記憶装置展』、映画ファン賞(ぴあニスト賞)は石川泰地監督の『じゃ、また。』が受賞した。2人とも今後の映画作りの励みにしたいと受賞をよろこび、緊張しながらも映画制作に関わった人たちへ感謝の言葉を伝えていた。

エンタテインメント賞(ホリプロ賞)のプレゼンターを務めたホリプログループ会長の堀義貴は「グランプリは獲らないかもしれないけれど、着眼点が面白いものを選んでいます」と選択の基準を明かし、渡邉龍平監督作『完璧な若い女性』の名前を読み上げた。「昭和が大好きなのが伝わってくる作品」だったとし、撮影場所やアイテムなど「どこで見つけてきたのだろう」と驚くことが多かったとそう。渡邉監督は、大ファンである沢田研二主演の映画を撮るのが夢だり明かされると、会場はエールのような大きな拍手に包まれた。

3時間半の会議を通して受賞作がセレクトされた審査員特別賞3作品に選ばれたのは立花遼監督の『鳥籠』、石田忍道監督の『リバーシブル/リバーシブル』、寺西涼監督の『うらぼんえ』。立花監督は「地元に胸を張って帰れるかなと思っています」とニッコリ。10月14日より京都文化博物館にて開催される「第45回ぴあフィルムフェスティバル in 京都」ではトップバッターで上映されることも発表された。石川監督は石田監督作品がイチオシだったとし、「キャラクターや役者がとても魅力的に描かれています。最初から最後まで、彼らに寄り添って映画を観ることができました」とコメント。自主映画は自己主張が強くなりがちで、ちょっと変なキャラクターや物語の都合上で動くキャラクターが出がちだと話した石川監督は、自身が映画作りの際に大切にしている「キャラクターに寄り添えること」を感じた作品だったと賞賛した。その上で「エンディングについては言いたいことがあるけれど、それは後ほど個別でお話ししたいと思います(笑)」と丁寧な感想を伝えていた。

授賞式への参加が叶わなかった寺西監督の作品について岸田は「誰も気づいていない感情を見つけるのは非常に興味深いこと」とし、「ストーリーや演技を邪魔しない程度にユーモアが入っていて、クスッと笑いながら楽しめた作品です。ストーリー、構成がとても上手!」とかなりお気に入りといった様子で、お気に入りポイントを解説した。

石井裕也監督「これからの時代は小さな個の叫びは、重要で価値があること」

準グランプリは高田恭輔監督の『ふれる』が受賞。プレゼンターの國實は「ある程度人生経験を重ねた方が監督だと思いましたが、経歴を見て21歳だと知りとても驚きました。個人的には準グランプリというよりも監督賞という気持ちです」と高田監督の手腕に注目していると話し、「人間の機微を大事にして、私たちの琴線に触れるような作品を作り続けてください」とエール。國實の言葉に「褒めすぎだと思います」と反応した高田監督は、コロナ禍でひとりの寂しさ、辛さ、孤独さを痛感したと話し、「ひとりじゃないということを伝えるために映画を作り続けたいです!」と意気込みを見せていた。

グランプリに輝いたのは中野晃太監督の『リテイク』。「映画との戯れ方が面白かったです」と感想を伝えた石井監督は「プロが狙ってもできないバランスを実現した奇跡の自主映画です」と絶賛。制作を振り返り、支えてくれた人たちに感謝の気持ちを丁寧に伝えたため、中野監督のスピーチは少々長めに。壇上に招かれた本作の出演者からも「映画のタイトル通りリテイクは多いし、話も撮影期間もとにかく全部が長いんです」と苦笑い。撮影中はこんなに時間をかけたなら賞を獲らなければ許せないと思っていたそうだが、「グランプリを受賞したので、全部許します!」とジョークを飛ばし、笑いを誘う場面もあった。

「PFFアワード 2023」の最終審査を振り返り、自身も自主制作映画の撮影経験があるという五月女は「久しぶりに自主映画を観ました。変わったことも変わらないこともあって面白かったです。みなさんのやりたいことが伝わってきたし、どれも光る部分がありました。いろいろなジャンルの光を感じました」と伝えた。石川監督は受賞作以外への感想を丁寧に話し、「映画は観てもらうことが大切だけど、観てもらうことにより見知らぬ人から心ないことを言われることもあります。ときには『ふざけるな』と感じるようなことも言われるけれど、それだけ作品に入り込んでくれた証拠だと思います。観てもらって強くなる、鉄を鍛えるように、どんどん(映画を)作って、どんどん(人に)見せていってほしいです!」と呼びかけた。

自主制作というジャンルを初めて知ったという岸田は「自主映画と気づかずに映画を観ていたことを知りました。次の作品を観たいではなく、監督ならどう撮るのかが観たいという気持ちになりました。映画を(一緒に)作りたいという思いを刺激されました」と、審査が自身に与えた影響を明かした。「自主制作映画は好きなタイプの映画ではなかった」とコメントした國實は「いろいろなことを教えてもらいました。私は間違っていたと分かりました」と苦笑い。続けて「勉強させていただいたし、たくさん見直していきたいと思っています」と微笑み、「頑張って作り続けてください!」と受賞者たちの今後の活躍に期待を込めていた。

石井監督は「大学の卒業制作を作るときに、学生時代の先生で先日亡くなった中島貞夫監督に言われた言葉があります。それは卒業制作は世界に対する最初の所信表明だと。その言葉を聞いたとき、20歳の僕は武者震いがしました。世界に向かって叫ぶのは無謀で重い行為だけど、誰にも理解されなくても存在する映画もあるべきだと思います。自分が面白いと思う感性を信じて、叫び続けていれば通じるはず。特に、これからの時代は小さな個の叫びは、重要で価値があることだと思います」とのメッセージを参加者に贈り、表彰式を締めくくった。

取材・文/ タナカシノブ

※高田恭輔の「高」は「はしごだか」が正式表記

「小さな個の叫びは、重要で価値があること」と話した「PFFアワード2023」最終審査員の石井裕也監督