演劇ユニットunratoは、ロシアの劇作家チェーホフの代表作のひとつ『三人姉妹』を2023年9月23日(土・祝)~9月30日(土) 自由劇場で上演する。翻訳・上演台本は広田敦郎、演出は大河内直子が手掛ける。キャスト陣には、保坂知寿、霧矢大夢、平体まひろ、さらに、ラサール石井、大石継太、笠松はる、伊達暁、鍛治直人、近藤頌利、内田健司ら、がっつりとチェーホフ戯曲に向き合う布陣が揃った。なお当公演は、9月27日(水)18:30にStreaming+で配信もおこなわれる。

首都モスクワでの華やかな生活に戻ることを夢見ながら、田舎で生きていく三姉妹とその周囲の人々が描かれ、日本でも数多く上演されてきた。鬱鬱とした気持ちを抱えながら、恋をし、恋をされ、恋に翻弄される3人を演じる霧矢大夢マーシャ役)、平体まひろ(イリーナ役)、近藤頌利(トゥーゼンバッハ役)に、unrato版『三人姉妹』を語ってもらった。


■ロシアの作品は、相手に辛辣なことを言う印象があるんです

──unrato公演にはいつもいろんなキャリアを積まれている方が集まっています。この座組の楽しみは?

平体 私は霧矢さんだけご一緒したことがあって、その他の方はみんな初めましてなので、ご一緒できることがまず楽しみですね。同じ劇団(文学座)の先輩である鍛治(直人)さんも初共演です。鍛治さんは私が文学座に入るきっかけになった方で、ワークショップで教えていただいたりしていた大先輩なので、恐縮しています。いろいろ勉強させていただきたいな。

近藤 僕は全員が初めましてです。今日のこの取材で初めてお会いして、霧矢さんとは大阪出身同士だということで……。

霧矢 距離を縮めました。

近藤 でも、僕は大阪弁は出ないんですよ。現場では敬語だから。

霧矢 若い人って関西弁でないのよね。

近藤 関西弁が出たら怖がられる可能性もあるかもしれないなって。これまでも後輩たちから「ちょっと怖い人だと思ってました」って言われることも多かったので、関西弁は消しました(笑)。

──怖がられるんですね…! でも霧矢さんは稽古場でも関西弁で、むしろ親しみやすい印象があります。

霧矢 私も怖がられたことありますよ。宝塚に入学した時には全国から集まってきていて、出身がみんなバラバラなんです。同級生の中で委員のような立場をやっていた時に、委員の4人全員が関西人だったんですよ。だから関西弁で「みんなちゃんとやって」というようなことを言うと、同級生たちがビビっていました(笑)。若い頃はちょっとキツく聞こえるんでしょうね。でも大人になったら「それも自分のアイデンティティだから出していこう。自分の言葉で自分の気持ちを話す時は自然な言葉が出てもいいんちゃう?」って思うようになりました。今回の現場は、きっと近藤くんが関西弁を喋っても誰も怖いとか思わないと思うよ。

近藤 はい……!

──霧矢さんはunratoの作品に何度も出演されていて、今回は半分近くの方と共演経験がありますよね。今作での楽しみはなんですか?

霧矢 昨年のunratoでは三島由紀夫さんの作品(『薔薇と海賊』)だったので、「日本の演劇に携わっている者ならば一度は挑戦しなければいけない」という気持ちで取り組みました。次はチェーホフが来たかと、とてもワクワクしています。トルストイの『戦争と平和』をベースにした『ナターシャピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』というミュージカルに出演したことがあり、その頃もいろいろロシア人の特性やロシア文学についてのレクチャーを受けました。チェーホフはトルストイよりもちょっと現代に近いので、より人間臭さのようなものを表現できるんだろうなと楽しみにしています。

──unrato初出演の平体さんと近藤さんは、出演が決まった時のお気持ちや、楽しみなポイントなどはいかがでしたか?

平体 unratoさんにやっと出演できるっていうことがまずすごく嬉しかったです。しかもチェーホフは劇団(文学座)の研究所の卒業公演で『かもめ』に出演して、いつか『三人姉妹』もやりたいなと思っていたとても好きな戯曲なので楽しみです。今回演じるイリーナ(※三人姉妹の末妹)は若いうちにしかできない役だなと思っていたので、ワクワクです。共演する先輩方もとても素晴らしい方ばかりですし、嬉しいですね。

近藤 僕は海外の翻訳作品が初めてなんです。今までやってきた演劇ではしないような表現を使うなってまず思いました。今年は新しいことに挑戦したいなと思っていたので、この作品に出演することになって嬉しかったですね。チェーホフは、あるワークショップで演出家の方に「チェーホフは絶対にやった方がいい。チェーホフの戯曲を読めなきゃいけないよ」って言われたこともあって、ぜひやりたかったんです。新しい表現を身につけられるなと期待しています。

──近藤さん演じるトゥーゼンバッハは、平体さん演じるイリーナに恋をしていますね。共演シーンも多いですが、お互いの印象は?

近藤 僕は、とても明るい方だなと思いました。メイクが隣り合わせだったんですが、ヘアメイクさんとずっと和気あいあいと喋っていて「知り合いなのかな」と思うくらい賑やかで。お話をしてみても、ものすごく明るくて笑顔が絶えない方ですね。

平体 私は「仲良くできるな」って思いました。なんでも受け止めていただけそうな感じがするので、すごく楽しみです。

近藤 そうですね。僕は女性とお芝居する機会もあまりなかったですし、舞台の作品で恋人役を演じたことも一度もないので、新鮮だろうなと思います。

霧矢 一度もないんですか?

近藤 はい。8年以上役者をやっていますが、一度もないです。

平体 私、トゥーゼンバッハが今回の登場人物の中で一番好きなんです。彼の愛情を断るイリーナの気持ちがわからなさすぎるので……なんとかします(笑)。楽しみです!

霧矢 なんだかいいですね。どの登場人物もみんな鬱鬱としていて、自分の不満をぶちまけるような作品なので、この若い二人のシーンはきっとちょっとした清涼剤になるんじゃないでしょうか。

──他の登場人物たちも、人間臭いいろんな不満を抱えながら生きていますね。

霧矢 登場人物は日本人とは表現方法が全然違っていて、割と辛辣な悪口を本人にバンバン言ってしまうみたいなところがある印象です。よく一緒に生活しているなって思います。それを実際に舞台でやると、生き生きとして見えたり、愛おしく見えたり、親近感が湧いてきたりするんだろうな。


 

■役へのイメージは、きっと稽古を経て変わっていくはず

──霧矢さんは三人姉妹の二女マーシャを演じますが、その配役についてはいかがですか?

霧矢 タイトルは『三人姉妹』ですけれど、実際には男兄弟がいて、その妻がまた強烈で……といろんな登場人物が出てきます。三姉妹の長女(オーリガ/保坂知寿)は教師で、三女は若者らしく将来に希望を抱いて働きたがっていて、その間でマーシャだけが早くに結婚して、その結婚生活は思い描いていたようなものではない。もやもやと抱えているものがあって、誰よりも溜め込んでいそうな女性です。長女と末っ子が羨ましくて、社会から取り残された気持ちがあるのかな。急に歌いだしたり、口笛を吹いたり、怒ったり、泣いたり、なんだか情緒不安定なんですよね。稽古をしていくうえで、その気持ちの持っていき方を自分自身とすり合わせていくのは大変な作業になるんだろうなと思います。

──今度はどんな夫婦関係なのか楽しみです(笑)。一方、三女のイリーナは働くことを夢見ています。イリーナの役の印象や楽しみは?

平体 イメージとしては、生きることに対して純粋でまっすぐで誠実で一生懸命な人。ただ、2幕、3幕と時を経ていくにつれて周りの姉や義姉の状況がドロドロとしていくので、それを見ていて自分の中身もドロドロしてきたと感じることもあるんじゃないかなと思うんです。それでも自分の軸を持って未来に進む強度はありつつ、純粋なだけじゃ生きていけないということも理解しているのかもしれないなって想像しながら戯曲を読んでいます。楽しみつつ変化しつつ本番を迎えられたらいいですね。

平体まひろ

平体まひろ

──そうですよね。どんな作品になるのか稽古次第だと思うので楽しみです。近藤さんはトゥーゼンバッハ役についていかがですか?

近藤 やっぱりどんな相手と演じるかによってすべてが変わってくると思うので、まずは純粋に感じたことを大切にして、それから役も作品も分析する作業をしていきたいです。あと、僕にはピアノという難題がありまして……

──舞台上で実際に弾かれるんですか?

近藤 そうなんです。でも、今までやったことないんですよ。「ドの位置ってどこ?」から始めています。一回レッスンをしてみて右手だと弾けそうな気はしましたが、左手がついてくる。しかも「芝居しながらスラッと弾けるようにしてほしい」と言われているので頑張らないと……。僕のピアノに合わせて皆さんがいい気持ちになっていくシーンがあるので、僕がひとつでも音を外したらみんなに「酔いが覚めました」とか言われるんでしょうね。

平体 (笑)

近藤 ピアノと平行しながら役とも向き合わないと。たくさんの人がこれまで上演してきた作品なので、自分たちのオリジナルを作る気持ちで取り組みたいです。

近藤頌利

近藤頌利


 

■翻訳者が稽古場にいて、演出家と俳優が信頼しあえる贅沢

──霧矢さんは演出の大河内直子さんとは何度も舞台を作られていますが、今回またご一緒する楽しみはどういうところにありますか?

霧矢 初めてunratoさんに出演した時、今回と同じく演出が大河内さんで翻訳が広田(敦郎)さんでした。その時も、まずは広田さんもご一緒に全員でじっくり本(戯曲)を読みながら、「やっぱりこれはこういう言い回しの方がいいかな」とか「ここは宿題にして持ち帰っていいかな」と台詞が変わっていったりしました。そもそも本読みに翻訳家の方が同席していること自体が初めてで、なんて贅沢な時間だって思ったんですね。稽古が始まってからも、大河内さんはすごく役者に投げてくださって、みんなで作り上げていく。役者を信頼して「一回好きにやってみて」と言うことは多いです。

近藤 自分から出していかないといけないんですね。

霧矢 それももちろんあるけれど、若い俳優さんに対しては「こうやってみるのはどうかな?」っておっしゃることもある。自分から出さないと放っておかれるわけではないから、思っていることはやってみるのがいいと思う。役者からいろいろ投げると、最終的にはちゃんと選んでくださるから。あと3日で本番だという時に決まっていなかったとしても、安心して大丈夫です。

平体 すごくありがたいですね。

霧矢 ふだんは穏やかな方だけど、演出となったらピシッとされているし、信頼して大丈夫です。あとは、原作があるものは変更をせずに、作者の意図をすごく汲み取ろうとされます。そこは大河内さんを尊敬しているところですね。絶対に作品からも役からもぶれないので、信頼しています。

平体 今回、新訳なのはとても楽しみですね。昔の訳の『三人姉妹』はいくつか読んだことがありますが、台詞が文章のようでちょっと堅苦しい印象だったんですが、今回の広田さんの翻訳では生きた言葉になっているので、それからエネルギーをもらいながら役として生きられたらいいな。伝わりづらいロシアの文化についてもわかりやすい訳になっていたりもしているので、お客さんにストレートに届きやすくなるんじゃないかと思います。ただ、体言止めや短い文章が多いので生の言葉として発するのは役者として挑戦だなとちょっとビクビクしつつ、楽しみにしています。こちらの芝居が良くなれば、よりお客さんに届くと思います。

近藤 いつも稽古の最初は熱が出そうになります。頭がおかしくなりそうになるので、ラムネばっかり食べてます。

霧矢 いいですね。私も若者に負けないようにしないとな。幅広い人の集まるカンパニーなので、お互いに刺激がありますね。この座組みならではの『三人姉妹』が楽しみです。

取材・文=河野桃子  写真撮影=田中亜紀

左から、平体まひろ(イリーナ役)、霧矢大夢(マーシャ役)、近藤頌利(トゥーゼンバッハ役)