公益社団法人・日本生産性本部によると、2022年時点のゴルフ人口はおよそ560万人だそうです(レジャー白書2022)。コロナ禍を経て増加に転じているゴルフ人口ですが、実は「突然死が起きやすい状況が揃っている」と、東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師は警告します。激しい運動等のイメージがないゴルフですが、どのような危険が潜んでいるのでしょうか。詳しくみていきます。

意外と多い「ゴルフ中の突然死」

医学博士の吉原紳氏が、1994年近畿地方131ヵ所のゴルフ場で実施したアンケート調査によると、ゴルフ場では1年間に5件の死亡事故があったそうです。これにより、ゴルフのプレー中に起こる突然死は、全国で年間76件になるであろうと推測されています。

また、東京都監察医務院の2002年の統計では、日本で起きた534例のスポーツ中の突然死について、ランニングが118件と最も多く、次いで水泳66件、野球42件、ゴルフ40件となっており、激しい運動を伴わないはずのゴルフであっても、他のスポーツと同じように突然死が起こっているということが浮き彫りになりました。

激しい動きのイメージはないが…ゴルフ中の突然死が発生する理由

ついさっきまで、元気だったのに……激しい動きのないゴルフで「突然死」が起きるのはなぜなのでしょうか。

まずひとつめの理由として考えられるのが、ゴルフをプレーする人の年齢層です。

ゴルフ人口の年齢で最も多いのは60〜70代(50%)となっています。ゴルフは安全なスポーツとして若い人から高齢者まで普及しており、その結果中高年のプレーヤーも多くなっています。

高齢になればなるほど心臓に異常のある人は増え、また心筋梗塞のリスクとなる生活習慣病(糖尿病高血圧脂質異常症肥満)を持つ人も多くなります。そのため激しい運動やコンタクトを伴わなくても突然死が起こりやすいのです。

そして、突然死の原因となる心筋梗塞は起床後2~3時間ほどの間に起こることが多いと言われています。ゴルフは、早朝にスタートすることがほとんどです。つまり発症しやすい時間帯とプレーがちょうど重なっているのです。

さらに、ずっと激しい運動をしているわけではありませんが、ショットの際は瞬間的に全身の力を振り絞ることになります。この時、ほんの僅かな時間ですが、心拍数や血圧は急上昇します。

ショットのたびに心拍数と血圧が乱高下することになるので、心臓や血管に大きな負担をかけることになるのです。

他のスポーツは運動中心拍数が早いものの、大きくアップダウンすることはありません。一方ゴルフでは、平均の心拍数は低いものの心拍数のアップダウンが激しく、実はそれなりに心臓に負担があることがわかっています。

そして、ショットのたびに体力を使い、その後グリーンに上がり、高度な集中力を必要とするパットで緊張感が高まり、息を止めて集中するというような状況で、ストレスや酸素欠乏の状態も引き起こされます。

このほか、ゴルフ中は汗をかき、水分摂取を怠りがちです。加えて、お昼どきにはクラブハウスでお酒を楽しみ、アルコールの利尿作用も相まって血液粘調度が上昇……心筋梗塞や脳卒中のリスクが一気に高まる。危険なフラグがいっぱいです。

この様な背景があり、ゴルフでは最初のショットのタイミングや、グリーン上での突然死が発生しているのです。

ゴルフ中に突然死しないために

ゴルフで突然死しないために重要なこと、それは「しっかり準備すること」です。

まず、運動不足の状態で急にゴルフをすることは控えましょう。ゴルフは運動不足で生活習慣病がある人でも気軽にできる優しいスポーツ、というわけではないことがこの記事を読んでいただければ理解できると思います。ゴルフを楽しむ前には、ウォーキングなど最低限の運動を習慣的にはじめておくことをおすすめします。

また、もしゴルフをすることが決まった場合には、前日に十分な睡眠をとりましょう。睡眠不足は突然死のリスクを上げてしまいます。

そのほか運動前に十分なウォーミングアップを行い、ラウンド中の飲酒は絶対にやめましょう。お酒を飲んでサッカーをした人が突然死した、と聞いたらどう思うでしょうか「そんなことしたら、突然死してもおかしくないでしょう」と思いませんか? ゴルフ中の飲酒も同じくらい危険なのです。

健康診断を定期的に受けて生活習慣病などの予防を行い、健康な体でいることもゴルフをする上では非常に重要です。

また体調に異変を感じたら絶対に無理なプレー続行をせず、中止して医療機関を受診しましょう。

まとめ…「準備不足」が招く突然死の危険…普段からの“予防”が大切

ゴルフは老若男女がプレーできるスポーツであり、しっかりと準備をして行えば運動習慣の改善にもなり、健康保持に非常に役に立つスポーツです。

しかし、激しい運動を伴わないからといって準備を怠る人が多く、その結果突然死が発生しているスポーツでもあります。

準備を怠ってプレーするのは非常に危険であることを認識するだけで突然死のリスクを下げることができます。しっかり準備して充実したゴルフライフを楽しみましょう。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)