任天堂9月15日、自社が開発・発売するNintendo Switch向けタイトル『スプラトゥーン3』に関して、非正規アプリの使用がサービスの規約違反にあたるため、利用停止等の対応を取る可能性があると、ユーザーに注意喚起した。

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 本稿では、この問題を入り口に、ゲームタイトルにおける外部サービスの提供・使用の是非を考える。

■『スプラトゥーン3』で本格化する非正規アプリの締め出し

 問題となっているのは、『スプラトゥーン3』界隈に広く浸透しているサードパーティ製アプリの存在だ。任天堂サポートのX(旧Twitter)アカウントによると、こうしたアプリがサーバー不正アクセスすることで、負荷をかける等の悪影響を及ぼしており、使用は規約違反にあたるため、サービスの利用停止等の対応を取る可能性があるという。

 任天堂は過去にも、正規アプリになりすまし、サーバーに不正にアクセスするスマホアプリの存在に言及していた。当時はサービスとユーザーの安全性の面から、「使用しないほうがいい」という温度感のアナウンスを行っていた経緯がある。

 同社がいわゆる「アカウントBAN」について触れたのは、今回が初めて。最初の注意喚起から4か月ほどが経過してもなお、事態が好転しない(もしくは思うような改善が見られない)状況を憂慮し、より強い言葉でスタンスを明示した形だろう。

 任天堂は『スプラトゥーン3』用の公式アプリとして、『イカリング3』を開発・提供している。しかしながら、一定数のプレイヤーは、使用感・利便性の面でサードパーティ製に分があるとして、非正規アプリを日常的に使用してきた実態がある。

 なお、2023年5月のアナウンスの時点で、こうしたアプリのほとんどはサービスの開発・提供が終了している。当該ポストのなかで公式が問題視しているアプリの具体的な名称は明かされていないが、今回言及の対象となっているのはおそらく、現在も使用され続けている『Salmonia3+』などと考えられる。実際にSNS上では、注意喚起がおこなわれた9月15日の前後に、同アプリのユーザーがNintendo Switch Onlineを閲覧できない状況も確認された。なかには「規約違反により、利用停止となっている」と、任天堂のサポートから正式に説明を受けたとするユーザーの姿もあった。

■“グレー”は“白”か、“黒”か。外部サービス浸透の例は『スプラトゥーン3』だけにとどまらない

 今回の任天堂の対応に、一部ユーザーからは批判の声も上がっている。「公式アプリが使いにくいから非正規アプリを使用している」「公式アプリから見られない情報を得るためには、非正規アプリを使用せざるを得ない」。概ねこのどちらかが彼らの言い分だ。得てして非正規アプリ開発者およびそのユーザーと運営の意見の対立は、利便性・体験を重視する前者と、運用を考える後者という構図に帰結する。どちらが欠けてもサービスが存続できないことは忘れてはならない。

 そのうえで前者に欠けている視点があるとするならば、「公式が意図を持って機能の制限や、データマスキングを行っているかもしれない」という点だろう。たとえば、ユーザーのプライバシーや、プレイヤー人口の平均化・維持を考えるなどの視点から、イカリングには、サードパーティ製アプリにある機能が盛り込まれていない可能性もある。

 一方、「ポケットモンスター」シリーズから派生したMOBAタイトル『Pokémon UNITE』(以下、『ポケモンユナイト』)では、『ユナメイト』と呼ばれるサードパーティ製のサービスが流行している。

 ユナメイトとは、独自のマッチング・レーティング機能を持つ、ソロプレイヤー向けの外部ツール。ゲーム内のカスタムバトル・ドラフトモードとDiscordを併用することで、シングルプレイでもチームメイトとなった味方とボイスチャットで連携を取りながら、対戦を楽しむことができる。公式のランクマッチに横たわる「野良プレイヤーとの連携の難しさ」「スキルやレーティングの格差によるアンバランスなマッチング」といった課題に対処したシステムを持つとして、2023年8月のリリース以降、一定数のプレイヤーに受け入れられているサービスだ。

 『スプラトゥーン3』における非正規アプリと、『ポケモンユナイト』におけるユナメイト。この両者には共通項がある。どちらも公式が開発・提供しているわけではない、サードパーティ製のサービスであるという点だ。

 現状、後者に関しては、運営から是非に関する言及がないため、一概に同じ問題をはらむとするものではない。しかしながら、少なくとも『ポケモンユナイト』内では、「アクティブプレイヤーが外部サービス経由でカスタムバトルへと流出することで、公式ランクマッチに人口減少が起こっていること」「(ユナメイトのサービス対象となっている)日本国内のプレイヤーと、それ以外の地域のプレイヤー間で公式のランクレートの持つ意味・価値が変わっていること」など、今後騒動に発展しかねない火種がくすぶりつつある。

 一見すると、両者には公式から見解が明言されている・されていないという点で、明確な差があるように感じられる。しかし、問題の本質は、運営側にマイナスがあるかどうかだ。ここにも、利便性・体験を重視するコアなユーザーと、運用を考える運営という構図が見え隠れする。こうしたサービスを一部のユーザー側の論理だけで是としていくかには、議論や検討の余地があるだろう。

 また、任天堂が発売する対戦アクション「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズには、ユナメイトのネーミングのもとになった類似サービス『スマメイト』が存在する。リリースされたのは2014年の11月と、約9年の歴史を持つが、こちらもユナメイト同様、公式からは一切の言及がないまま、これまで運営を続けている。

 なかには「先駆的サービスがお咎めなしなのだから、ユナメイトも問題がないのでは?」と考える人もいるかもしれない。しかし、両サービスが母体とするタイトルには、買い切り型と、基本プレイ無料・アイテム課金型というマネタイズモデルの違いがあることを忘れてはならない。

 「スマッシュブラザーズ」は、プレイヤーが購入した時点で売上が立っているのに対し、『ポケモンユナイト』は、長く運用していくことで利益が最大化する。カスタムバトル・ドラフトモードでレーティングマッチを行う現行のユナメイトの仕様では、本来であればゲーム内通貨を使ってアンロックするはずのキャラクターがすべて使用可能であるため、母体となるタイトルのマネタイズポイントを奪っているという問題点もある。

 “グレー”は“白”なのか、“黒”なのか。『スプラトゥーン3』における非正規アプリの問題は、世のさまざまな事象に思考の道筋を示しているような気がしてならない。もちろんそれは、騒動が表面化していても、していなくても、だ。娯楽性が高いゲームジャンルであるとはいえ、各プレイヤーには俯瞰をともなう多角的な視点から、善悪を判断する目が求められているのかもしれない。

(文=結木千尋)

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