暑さが和らぐ9月以降は、体のだるさや食欲不振などの症状が出ることがあります。夏から秋への季節の変わり目に体調不良になるケースは「秋バテ」と呼ばれており、毎年悩まされる人もいるようです。

 秋バテとみられる症状が出た場合、どのように対処したらよいのでしょうか。秋バテを放置すると、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。秋バテの解消法などについて、あんどう内科クリニック(岐阜市)の安藤大樹院長に聞きました。

「体を温める」「規則正しい生活」を心掛ける

Q.そもそも、秋バテになる原因について、教えてください。

安藤さん「涼しくなってくると、『何となく体がだるい』『食欲が出ない』『頭痛がする』などの症状が出るようになります。夏から秋への季節の変わり目にこうした症状が出るケースは、秋バテと呼ばれていますが、主に『夏バテの長期化』『急な冷え込み、急な天候変化による自律神経の乱れ』『日照時間の減少によるセロトニンの減少』が原因で生じます」

Q.では、秋バテを解消するには、どうしたらよいのでしょうか。食事面や生活面で改善すべき点について、教えてください。

安藤さん「先述の夏バテの長期化、自律神経の乱れ、セロトニンの減少のそれぞれに応じた対策が必要となります。次のような対策が有効です」

夏バテの長期化⇒じっくり体を温める
現代の夏バテは冷房で体を冷やし過ぎることや、冷たい飲食物の過剰摂取によって起こります。そこで、起床後にコップ1杯のさゆを飲んだり、朝食時に温かい野菜スープなどを飲んだりすると、冷えて働きが落ちた胃腸に効果的です。

入浴時は38~39度のぬるめのお湯にゆっくりつかるのもよいですし、足湯を併用するのもよいでしょう。お酒を飲む際は冷たいビールや焼酎を控え、熱かんや常温のワインなどへの切り替えを検討してみてください。ただし、飲み過ぎには注意が必要です。今後、朝晩に冷え込む日が増えてくるため、季節に合ったパジャマや布団を使用しましょう。

疲労回復という点では、次のような食べ物を積極的に取るようにしてください。

・山芋、サツマイモ
胃腸を整えて免疫力を向上させる。

ニンジン、カブ
消化を助けて体に潤いをもたらす。

・乳製品、魚、肉
筋肉や臓器を強くするために必要なたんぱく質を多く含む。

・豚のヒレ肉、豚のモモ肉、大豆製品
エネルギー代謝を高めるビタミンB群を多く含む。

グレープフルーツなどのかんきつ系の果物
抵抗力を高めるビタミンCを多く含む。

■自律神経の乱れ⇒規則正しい生活をする
気候の変化に伴う体調不良の根幹は「自律神経の乱れ」といっても過言ではありません。自律神経を整えるコツは、とにかく「規則正しい生活をすること」です。時間帯に応じて、以下の取り組みを行ってみてください。

【朝】
・起床時にまず太陽の光を浴び、体内時計をリセット。時間がなければ、15秒浴びる程度でも問題ありません。
・15分ほど早起きし、時間に余裕を持って行動しましょう。気持ちに余裕がないと、副交感神経の働きが低下します。
・少し熱めのシャワーを浴びて体温を上げると、交感神経が活性化し、体が活動的になります。
・朝食をしっかり取り、脳の自律神経を活性化させましょう。食べる前にさゆを飲むと、効果が上がります。
・慌ただしい朝こそ、鏡の前で笑顔になりましょう。また、ゆっくり深呼吸して副交感神経を優位にしてください。

【昼】
・外出時は視線を上に保つように心掛けてください。胸を張る姿勢が維持され、質の良い呼吸につながります。
・連続した作業は1時間半までにとどめ、適度に休憩を取りましょう。交感神経が休まります。
・笑顔でいるとストレスホルモンが減少します。作り笑いでも効果があります。
・喫煙すると血管が収縮し、血圧上昇や脈拍上昇のリスクが上がります。できれば禁煙してください。
・夕方にストレッチや軽い運動をして、昼間の疲れをリセットしましょう。

【夜】
・夕食は寝る3時間前までに取り、休養モードに切り替える余裕を持ちましょう。
・日が落ちてからのカフェインの摂取は、睡眠の質を悪くするため、摂取はほどほどにしてください。
・就寝前のアルコールは、かえって睡眠の質を下げます。ダラダラ飲みもやめましょう。
・38~39度のぬるめのお湯につかり、1日の疲れを取りましょう。
・パソコンやスマホの使用を控えめにしてください。ゆったりしたリズムの音楽を流したり、アロマの香りを嗅いだりしてリラックスしましょう。

セロトニンの減少⇒食べて、飲んで、リズミカルに動く
脳内の神経伝達物質の一つである「セロトニン」の分泌が増えると、幸福感が増します。また、緊張の原因になるノルアドレナリンの働きを抑えることにより、気持ちを安定させる効果もあります。さらに、セロトニンは睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の材料になるため、セロトニンが増えると快眠を得られるようになります。セロトニンを増やすコツは次の通りです。

・食べて増やす
セロトニンの材料となるアミノ酸の一種「トリプトファン」が含まれる赤身肉や大豆製品、乳製品、卵、カシューナッツのほか、セロトニンの産生を促進するビタミンB6を含むカツオやバナナ、セロトニンの合成に必要なマグネシウムを含むひじきやいりゴマなどを積極的に摂取しましょう。よくかんで食べるとより効果的です。

・飲んで増やす
お勧めの飲み物は牛乳とトマトジュースです。牛乳にはトリプトファンが多く含まれており、セロトニンを増やす効果があります。トマトジュースに含まれるGABAガンマ-アミノ酸)は緊張やストレスを緩和する効果があり、セロトニンの働きを助ける効果が期待できます。

・太陽の光で増やす
セロトニンは朝日を浴びることで、分泌が促進されます。起きたらすぐにカーテンを開けて、朝日を浴びる習慣をつけましょう。朝の時間帯にベランダで洗濯物を干したり、ウオーキングをしたり、自転車で通勤したりすると、セロトニンの分泌がさらに増えます。

リズム運動で増やす
ウオーキングやジョギング、サイクリング、ダンスなどのリズミカルな運動は、セロトニンの分泌を促します。20分程度の少し息が切れる程度の運動がお勧めです。ただし、苦しいほどの負荷をかけたり、長時間運動を続けたりすると、ストレスホルモンである「コルチゾール」を増やしてしまうため、注意してください。

秋バテを放置するリスクは?

Q.秋バテを放置した場合、どのようなリスクが生じる可能性がありますか。

安藤さん「特に高齢の人が該当しますが、今年の猛暑により、食欲低下や目まい、だるさの持続、睡眠の質の低下などの症状を認めるケースが多くなっています。こうした漠然とした不調を抱えたまま放置すると、免疫力が低下し、感染症やがんにかかるリスクが高くなります。

また、自律神経の乱れ、特に交感神経が刺激され続けると、『NK細胞(ナチュラルキラー細胞)』と呼ばれる免疫細胞の働きが低下し、感染症やがんにかかりやすくなります。『風邪をひいたが、いつもより治りが悪い』『微熱などの漠然とした症状が2週間以上続いている』『夏の体重減少が回復しない』といった症状を認める場合は、受診をお勧めします。

憂鬱(ゆううつ)な気分になることは、誰でもあると思います。その際は、適度な運動や趣味、友人との会話などで気分をリフレッシュするよう心掛けてください。ストレスを発散しても憂鬱感や不安感が2週間以上続く場合は、うつ病や不安障害の可能性があります。

これは、単に気持ちの問題ではなく、脳のエネルギーであるセロトニンが減少することによって起きる病気です。『気合が足りないからだ』『もっと頑張らなきゃダメだ』などと自己判断せず、精神科などを受診してみてください。

そのほかに持続する症状の中にも、さまざまな病気が隠れている場合があります。『たかが秋バテ』などと侮ってはいけません。自己判断せず、不調や不安を感じたときは、ぜひ医師に相談してみてください」

オトナンサー編集部

秋バテの解消法は?