30年前と比較して日本人の生涯未婚率は大きく上がり、とくに男性はおよそ3人に1人が「生涯独身」を貫くものと見込まれます。“おひとり様”の8割超が「老後の不安」を抱えているという調査がありますが、その不安の正体はどこにあるのでしょうか。独身者のお財布事情から、紐解いていきます。

独身者100人のうち5人が「残高ゼロ」

2020年の国勢調査によると、45~49歳と50~54歳の未婚率の平均値である「生涯未婚率」は男性28.3%、女性17.8%。30年前の1990年調査では、男性5.6%、女性4.3%だったことを考えると、著しいペースで「結婚をしない」という選択をする人が増えていることがわかります。

国立社会保障・人口問題研究所『第16回出征動向基本調査』によると、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」としているには男性で81.4%、女性で84.3%。結婚しない理由はさまざまですが、18~24歳では「結婚するにはまだ若すぎるから」「結婚する必要性をまだ感じないから」「今は、仕事(または学業)に打ち込みたいから」という理由が目立ちます。

一方、結婚適齢期とされる25~34歳をみると、男女ともに「適当な相手に巡り合わないから」と考える人が最多。男性の23.1%、女性の13.4%は「結婚資金が足りないから」という理由を挙げており、お金の問題から、独身でいることを選択する人が少なくないこともわかります。

結婚はしたいが相手がいないという人、はなから結婚願望がないという人、背景はさまざまですが、このまま「生涯独身」で生きていくとしたら、なんとなく不安を感じるという人は多いのではないでしょうか。ここで取り上げるのは、「お金」に関する不安。独身者のお財布事情をみていきましょう。

金融広報中央委員会『令和4年(2022年)家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]』によると、20歳以上80歳未満の単身者のうち、「預貯金で日常的な出し入れ・引落しに備えている部分」を加えた「金融商品非保有世帯」は4.9%。「口座に1円もない」という独身者は、2018年5.6%→2019年5.4%、2020年5.1%、2021年3.8%、2022年・4.9%という割合で推移しています。

預貯金のある独身者の預貯金残高は平均320万円。もっとも多いのは70歳代の544万円、次いで40歳代の507万円です。さらに将来を見据えた運用金を含める金融資産の保有額は、平均1,348万円。十分な資産を持っているようにみえますが、あくまでこれは平均値。大きな資産を保有する一部の人が、数値を引き上げている可能性があります。

そこで、調査の対象となる世帯を保有する金融資産が少ない順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する世帯の数値である中央値をみていくと450万円。この金額が、単身世帯が保有する資産額の実態に近そうです。

預貯金と保有金融資産の平均値】 20代:105万円/307万円(110万円) 30代:186万円/741万円(270万円) 40代:507万円/1,045万円(374万円) 50代:478万円/1,775万円(610万円) 60代:228万円/1,960万円(950万円) 70代:544万円/2,008万円(1,000万円) ※数値左より、預貯金保有者の平均預貯金額/金融遺産保有者の金融資産平均値(中央値)

また手取り収入(臨時収入含む)からの貯蓄割合は、金融資産保有者で平均13%。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると男性会社員の平均給与は月34万2,000円で、手取りにすると25万~26万円ほど。つまり、月々3万4,000円ほどを貯蓄にまわす、というのが一般的な独身男性の姿です。

年代別・独身者の保有資産の内訳】 20代:152万円/27万円/33万円/13万円 30代:327万円/99万円/178万円/52万円 40代:398万円/136万円/251万円/75万円 50代:634万円/196万円/483万円/160万円 60代:977万円/218万円/255万円/171万円 70代:799万円/207万円/415万円/242万円 ※数値左より、預貯金/投資信託/株式/生命保険の平均保有額

持家率の低い独身者…高齢者は「部屋を借りられない」リスクも

次に、単身世帯のお財布事情の「マイナス」について。独身者で「借入金」がある世帯は、15.3%。とくに30代は2割を超えています。「借入金あり」という人の平均額は384万円、中央値で100万円。

独身者「借入金ありの割合」と借入金額】 20代:14.9%(188万円/80万円) 30代:20.1%(629万円/100万円) 40代:19.8%(536万円/133万円) 50代:19.9%(318万円/100万円) 60代:14.6%(259万円/100万円) 70代:6.8%(494万円/85万円) ※数値左より「借入金有」の割合(借入金の平均額/借入金の中央値)

さらに「借入の目的」をみてみると、すべての世代でもっとも多かったものは「日常の生活資金」(全世代平均44.8%)。2番目以降には「耐久消費財の購入資金」(13.4%)、「旅行、レジャーの資金」(10.5%)、「住宅の取得または増改築などの資金」(10.2%)と続きます。

独身者が資産運用を行う目的として、もっとも回答が多かったのは「老後の生活資金」というものですが、60歳未満で「老後が心配」だと考えている世帯は84.5%。心配する理由として多いのが「十分な金融資産がないから」(72.5%)や「年金や保険が十分でないから」(52.8%)で、いずれも過半数を超えています。

とくに心配なのは、老後の住まいの問題。総務省の調査によれば、日本人の持ち家率は6割を超えますが、独身者の非持家率は全世代の平均で67%。50歳代だけを切り取ると66.4%に上ることから、独身者のうち相当数が「生涯賃貸暮らし」を想定していることが推測されます。

高齢化の進行に伴ってさまざまな制度が変更になる可能性はあるものの、少なくとも現状では「単身高齢者は賃貸は借りづらい」というのが事実です。

「高齢者」とされる年齢になってから、「それまで暮らしていた賃貸物件の建て替えを機に引っ越しを迫られたものの、新居の審査に落ちた」等の理由で、「住むところがない」という悲しい事態に陥る可能性は十分に考えられます。

これは独身者に限ったことではありませんが、非持ち家率の高い単身世帯はとくに、老後に向けた「資産形成」と同時に、「住まいの問題」についても慎重に検討しておく必要がありそうです。

(※写真はイメージです/PIXTA)