東京都は史上最速の「インフルエンザ注意報」を9月21日に発令した。9月の注意報は統計を取り始めた1999年以来、2度目だ。9月17日までの2週間で都内の幼稚園3施設、小学校138校、中学校45校、高校21校が学級閉鎖や臨時休校に追い込まれた。

 インフルエンザは1年中存在するが、湿気に弱いため、高温多湿の夏に流行することは稀。ところが今年のように猛暑で窓を閉めっぱなし、エアコンを除湿にしていれば、感染拡大の条件が揃ってしまう。厄介なのは、新型コロナとの区別がつかないことだ。自衛策としては、

【1】発熱から12時間後、昼間のうちに病院受診し、インフルエンザの簡易検査を受ける

【2】急な発熱を想定して、市販の解熱剤と総合感冒薬を準備しておく

【3】非常食も兼ねた経口補水液、飲むゼリー、お粥を常備しておく

【4】インフルにも新型コロナにも効くアルコールで、手指や手回り品、家の中を拭く

 新型コロナの流行期、毎年30万円以上の健康保険料を納めていながら病院にかかったこともない現役世代が発熱外来での診察を断られ、「薬局で新型コロナ検査キットと解熱剤を買え」と診療拒否されてきたことを、筆者は苦々しく思ってきた。65歳以上は診察OKで、64歳以下は診察拒否というのは年齢差別であり、腫れた喉も診てもらえないなら、健康保険料など払う義理はない。

 それもインフルエンザの早期流行で、フェーズが変わった。厚労省のサイトにある「インフルエンザQ&A」では、以下のように明記している。

インフルエンザ発症前日から発症後3~7日間は鼻やのどからウイルスを排出するといわれています。そのためにウイルスを排出している間は、外出を控える必要があります〉

〈学校保健安全法(昭和33年法律第56号)では「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としています〉

 学校や職場から出席・出勤の停止が求められる感染症なのだ。

 新型コロナと違い、インフルエンザにはタミフルゾフルーザリレンザイナビルラピアクタといった特効薬がある。これを処方してもらって、早く楽になった方がいい。

 一般的にインフルエンザの検査を受ける最適なタイミングは、発熱後12時間から24時間後と言われている。が、病院受診にあたっては、一定の常識を持ってほしい。時間外ならタクシーで夜間救急外来を受診すればいいものを、救急車無料タクシーと勘違いして、夜間に救急車を呼びつける不届者が増えているからだ。東京消防庁は今月に入り、公式Xで、

119番通報が非常に多くなっています!】タクシーで通院しようと思っていましたが、タクシーがつかまりません。救急車をお願いします。これは、実際にあった「緊急性のない」通報です。119番は緊急通報です。#東京消防庁

【#救急車ひっ迫アラート 発表!】令和5年9月19日 救急車の出場率が高く、今後も続くことが見込まれるため、救急車を非常編成しました。

119番通報が大変混みあっています】119番は緊急通報です。問合せや相談等を119番通報すると本当に必要な緊急通報に対応できなくなる恐れがあります。不要不急の電話については最後までお話を聞かずに切断する場合があります。

 …と、こんなふうに連日、異例の呼びかけを行っている。119番オペレーターに繋がるまで5分から7分も要しているのだ。

 これを受け、筆者も自身のXで「発熱くらいで救急車を呼ぶな」と呼びかけたところ、SNSに匿名の人物から「急な高熱で死ぬこともあるから救急車を呼んでいい」と無断で文書ファイルを添付された。

 新型コロナ以降、看護師でもある筆者も、非力ながら医療現場に戻っている。「発熱で死ぬこともある」というのは、新型コロナでも多いのだが、熱を出した子供にまる1日、ゼリーアイスクリーム、経口補水液も与えず、脱水症状を引き起こした例などだ。

 夜間に急に熱が出たのなら、タクシーで救急外来に行けばいいし、24時間対応のオンライン受診もできる。死ぬ確率が1%あるからと、40度の熱を出した患者が全員救急車を呼んだら、日本の救急医療は破綻する。すでに火事の119番消防通報まで、容易に繋がらなくなっている。

 特に秋から冬にかけては、心臓発作や脳卒中の急病人も増える。子供から成人まで、心臓突然死の死亡者は年間8万人。ごく稀に発熱だけで亡くなった患者と、その頻度では比べものにならない。熱があっても歩ける患者は翌朝、病院を受診すれば済むが、心臓発作や脳卒中の場合、救命処置と救急隊の到着が1分遅れるごとに、救命率は10%ずつ下がっていく。1分1秒を争う治療が必要な患者の命と未来を奪っているのは、歩けるにもかかわらず119番通報している迷惑患者だ。

 新型コロナが「ただの風邪ではない」と言われるのは、血管に炎症を起こすウイルスだからで、肥満や糖尿病、不整脈のある人は、新型コロナの感染で心臓発作や脳出血を起こしやすくなる。持病がある人、高齢者はなおさら体調不良を自覚したら、早めにかかりつけ医を受診した方がいい。

 もしかかりつけ医が、新型コロナ感染症法5類移行後も発熱患者の診察拒否をするようであれば、それは「医師法の応召義務違反」にあたる。患者は診療拒否した「かかりつけ医」を、地元保健所や地元医師会に通報できる。かかりつけ医を選ぶ権利があることも忘れずに。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

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