モデルタレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。9月21日(木)放送のコーナーリポビタンD TREND NET」のテーマは「過激化する“世直し系”YouTuber」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。

※写真はイメージです



痴漢や盗撮をしている犯人を取り押さえ、駅員や警察官に身柄を引き渡す様子を動画に納めてアップする「世直し系/自警団系YouTuber」。逃げ出す犯人を追いかけて、押さえ込み制圧する姿が荒々しかったり、怪しい行動をしていた人物に「今、悪さをしようとしていただろう?」などと声をかけ、謝るまでの様子をモザイクなしで配信するといった行為に「行き過ぎではないか?」と、疑問視する声が上がっています。はたして「世直し系YouTuber」の行為は、どこまで許されるものなのでしょうか?

◆世直し系YouTuberとは?

ユージ:「世直し系YouTuber」と呼ばれる方々のチャンネルでは、どのような内容の動画を配信しているのでしょうか?

塚越:動画の内容はさまざまですが、痴漢や盗撮をしている人物を取り押さえる内容のほか、ライブ会場でのチケット転売、あおり運転をする人物や路上喫煙・ポイ捨てをする人へ注意したりする動画を配信しています。法律違反やマナー違反をしている人を見つけて注意して回る動画が多いですが、場合によっては電車内で相手の胸ぐらをつかんだり、床に押し倒して制圧したりと、過激なものもあります。さらに、顔や車のナンバーなどにモザイクをかけずにさらすコンテンツもあり、過激さの程度はさまざまという感じです。

◆冤罪だった場合、逆に罪に問われる可能性も

吉田:そもそも、警察官でもない人が「逮捕」したり「身柄を拘束」したりしても良いのでしょうか?

塚越:一般人による現行犯逮捕は「私人逮捕」と呼ばれています。いろいろとルールはあるものの、逮捕状がなくても一般人による私人逮捕は刑事訴訟法でも認められています。私人逮捕が認められるルールの1つは、犯人が「現行犯」に限ることです。実際に犯行をしているところや、犯行直後なら誤認逮捕の恐れが限りなく少ないからということです。

他にも細かなルールはあるのですが、そうした条件に該当しないで逮捕した場合は「暴行罪」や「逮捕監禁罪」などに問われるケースもあります。また動画を撮ってネットアップしている場合、名誉毀損やプライバシー侵害、脅迫罪に問われる可能性もあります。

ユージ:これまで、どのような問題が起きていますか?

塚越:実際にあったものでは、わざと路上に財布を落として拾った人がどう対応するかを撮影し、(拾った人に)財布を持っていかれたので警察に被害を申告したケースがあります。この場合、撮影した人が逆に偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されました。要するにウソ、つまり財布を盗まれたということが虚偽申告にあたるとして、警察の業務を妨害したということで逮捕されました。この場合は世直し系というより「検証動画」と言われる部類にもなりますが、いずれにしても再生数稼ぎの悪質なものと考えられます。

他にも麻薬の密売人に売買を持ちかけて警察に情報をタレコミして、おとり捜査のようなことをして、大麻を持ってこさせる指示行為が「教唆そそのかし」に該当するとしてYouTuberが書類送検されたこともあります。人気YouTuberは法律関係にかなり配慮しているのですが、大した知識もなく「やってみた」といった感じの場合、法令違反に該当することがあります。

視聴者側が気を付けるべきことは?

ユージ:こうしたチャンネルに対して、視聴者である私たちはどのようなスタンスでいるべきでしょうか? そして動画を作るYouTuberに対して、注意喚起できることは何かありますか?

塚越:一口に「世直し系YouTuber」と言っても常識の範囲内でやっていたり、法的なことをわきまえていたりする人もいるので、こうした方々すべてを(問題だと)判断できるものではありません。

ただし、やはり再生数が収益につながる今の構造では、結果的に過激化する可能性があるかなと思います。YouTuber私人逮捕の要件をよく調べて、別途警察へ通報するという手段を考える必要があります。そうしないと、私人逮捕が過激化して誤認逮捕になるケースが増えますし、モザイクなしの動画がネットに広がれば、万が一、動画内で取り押さえた人物が犯人と違った場合、大きな人権侵害につながる可能性もあります。

一方で私たちも「これは社会正義だ」と言いつつも、実際は「エンタメ」として消費していることもあるため、「実際はどうなんだろう」と考える必要があります。

アメリカでは、トランプ大統領が出てきた2016年くらいから、(トランプ大統領の発言に感化された人々がSNSなどで)“本音”を発信していて、アメリカは「本音が暴走している」などと言われています。

一方で、日本では本音は言いづらいため「これは社会正義だ」などのように建前を使い、「建前の暴走」が起きています。これは非常に日本人的だなと思います。建前として「これは社会正義」と言っておきながら、実は「世直し系YouTuber」がおこなっているような行為を見たいのだろうと、(そうした気持ちは)私も含めてあると思います。

そのため、建前であれ重要なのは本質的なところだと思います。今の構造では見る側が再生数に紐づくので、「本当にこれが意味あることなのか」と考えることが必要ですが、実際は難しいので注意して見ていただけたらと思います。

吉田明世、塚越健司さん、ユージ



<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティユージ、吉田明世
“私人逮捕” 正義の味方なのか?過激化する「世直し系YouTuber」どこまで許される? 法的問題は? 専門家が解説