
21年、労働基準法違反による送検件数は311件。長すぎる労働時間や少なすぎる賃金……こうした労働条件・労働環境を強いる「ブラック企業」はあまた存在しています。声高に働き方改革が叫ばれているものの、ネット上では「うち、ブラックかも」という書き込みが止むことはありません。その実情を詳しくみていきます。
「労働基準法違反」2021年は311件
総務省の調査によると、2021年6月時点の全国の企業数は約368万社、民間事業所数は約508万8000カ所。これだけの数の会社があれば、そのなかに相当数の「ブラック企業」が紛れ込んでいたとしても不思議ではありません。
「ブラック企業」の定義は明確ではありませんが、厚生労働省はホームページで以下のように解説しています。
「ブラック企業」ってどんな会社なの?
厚生労働省においては、「ブラック企業」について定義していませんが、一般的な特徴として、① 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、② 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、③ このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、などと言われています。
出所:厚生労働省ホームページ『確かめよう労働条件』
さらに厚生労働省では、社会全体で「過労死等ゼロ」を目指す取組みの一環として、『労働基準関係法令違反に係る公表事案』として、送検事案*1と局長指導事案*2をホームページ上で公表しています。
*1:労働基準関係法令違反の疑いで送検し、公表した事案
*2:平成29年1月20日付け基発0120第1号「違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について」に基づき、局長が企業の経営トップに対し指導し、その旨を公表した事案
同省『令和3年 労働基準監督年報』によると、2021年の送検事案は918件。そのうち労働基準法違反が311件、労働安全衛生法違反が593件、最低賃金法違反が14件。労働基準法違反の事案のなかでもっとも多かったのが、賃金の支払いに関する違反(下記労働基準法第24条)で合計179件。次に多かったのが労働時間に関する違反(下記労働基準法第32条)で合計39件でした。
労働基準法第24条(賃金の支払)
1「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。」
2「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。」
労働基準法32条(労働時間) 1「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。」 2「使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。」
正社員の給料を「時給換算」してみると
——終電で帰れれば良いほう。こんなに働きまくって手取り20万円って、どゆこと?
SNSにそんな投稿をしたのは、都内のIT企業に勤める26歳の会社員・Iさん。
大学卒業後、バックパッカーとして東南アジアを放浪し、帰国後もフリーターとして数年過ごしたことで「新卒カード」を失ってしまい、やっとの思いで入社できたのがいまの会社だといいます。毎月の残業時間は80時間超。繁忙期は優に100時間を超え、オフィスで朝を迎えることも。過去の投稿では「生命力には自信がある」としていたIさんも、直近では「あれ、東の空が明るい。オレは毎日何をやってるんだろう……」と呟き、さすがに心身にダメージを蓄積させているようです。
厚生労働省は、ホームページで「最低賃金以上かどうかを確認する方法」を解説しており、説明によると月給制の場合は「月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)」としています。
東京都では最低賃金を現在1,072円(23年10月からは1,113円)としており、通勤手当や時間外手当を除外した賃金がこれを下回っていれば、労働基準法違反。40歳未満のIさんの場合、手取り20万円なら額面は24万円ほどと推測されます。上記の計算では残業代を除外しますので、仮に基本給15万円、職務手当2万円とすると、17万円÷176時間(月の労働時間)で時給換算965円。最低賃金を大きく下回る水準で働いていることがわかります。
このように給与を時給換算してみると、実は最低賃金未満で働いていたという正社員は少なくないかもしれません。
試しに計算をしてみて気になる点があれば、勇気を持って企業側に説明を求める姿勢が重要です。それでも是正されない場合、企業はその事実を認識しながら違法な労働をさせていた可能性も。そうなると、「労基に駆け込む」という選択肢を取らざるを得ないでしょう。

コメント