経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

同じ「株式会社」だが…日本と他国、大きく違っているところ

日本も米国もそれ以外の国も、株式会社に関する法律の条文を見る限り、それほど大きな違いはありません。しかし、実際の日本の株式会社は他国の株式会社と大きく異なっています。

日本企業の特徴として指摘されているのは「終身雇用制・年功序列賃金制・企業別組合」で、これらを「日本的経営」と呼んでいます。

高度成長期には、企業にも労働者にも都合のいい制度でしたが、バブルが崩壊や人々の長寿化が進むと、都合の悪い面も出てきました。そのため、終身雇用制も年功序列賃金制も少しずつ緩んできていますが、それでもなお、考え方の根幹はいまでも健在だといってよいでしょう。

崩れつつある「終身雇用制」だが、本質は健在

高度成長期、中学を卒業した少年少女が農村から上京して工場等で働きました。彼らは最初に就職した職場で15歳から55歳(当時の定年は55歳)まで働き、定年退職後は短い余生を過ごして永眠したわけで、文字通り「終身雇用制」だったわけですね。

その後、平均寿命が伸びたり健康寿命が伸びたりしたので、定年後再雇用等も増えましたが、企業側からの解雇は制度として厳しく制限されていますし、労働者からの転職も一般的になったとはいいがたいようです。

米国では、労働者は少しでもいい条件の仕事を探して職場を転々とすることも多いのですが、日本での転職は、現在の職場の調子が悪くなってきた場合が多いようです。

大きな変化としては、終身雇用制ではない労働者が増えたことがあげられます。ゼロ成長時代を迎え、終身雇用制の正社員を採用しすぎてしまうと長期にわたって余剰人員を抱え込むリスクがあるので、それを避けるためにアルバイトやパート社員を多く雇う企業が増えたのです。

企業が非正規労働者を増やしているもうひとつの理由は、非正規労働者の方が正社員よりも時給が安い、ということでしょう。バブル頃までの日本企業は従業員の共同体だといわれていましたが、最近では「株式会社は株主のものだから、大いに稼いで大いに配当すべきだ」と考える経営者が増えていますから。

「年功序列賃金」も緩んではいるが、本質は健在

年功序列賃金というのは、若手には安い給料を、ベテランには高い給料を支払う、というものです。ベテランの方が仕事に慣れていて仕事ができるから、ということもあるでしょうが、先輩を敬う、という日本的な文化にも馴染んでいます。

高度成長期には、労働力不足でしたから、年功序列賃金制は労働者を引き留めるために便利だったのでしょう。若いうちは会社への貢献より安い賃金を、ベテランになってからは会社への貢献より高い賃金を受け取るという制度では、若いうちに作った会社への「貸し」をベテランになってから返してもらうイメージですから、途中でやめると会社への貸しが回収できなくなってしまうのですね。

もうひとつ、高度成長期は企業が成長していたので、少ないベテラン社員に高い給料を払って大勢の若手社員に安い給料を払う、という制度が企業側にとって都合がよかったのでしょうし、社員にとっても、ベテラン社員になって子育て等の費用がかかるようになってから高い給料をもらえる仕組みの方が助かる、という面もあったのでしょう。

最近は、能力主義をとる会社も増え、先輩よりも高い給料をもらう後輩も増えているようですが、それ以上に重要なのはバブル崩壊でしょう。

ゼロ成長になり、しかも非正規労働者の採用を増やすと、若手社員の採用が減りますから、社内は給料の高いベテランばかりになってしまうのです。

加えて、定年延長などにより、ますますベテラン社員の比率が上がってしまうのは困るので、「定年後再雇用」等の制度を採用する企業も増えているわけですね。

そもそもバブル崩壊後の長期低迷期、労働力不足より労働力余剰でしたから、労働者を繋ぎ止めるための制度は必要なかったのでしょう。いまは労働力不足の時代ですが、不足しているのは現場の「手足」であって、ベテラン管理職社員は不足していませんから(笑)。

「企業別組合」だって、現在も健在

日本では、労働組合は企業ごとに設立され、活動しています。「会社は家族」と言われていた頃には、それが自然だったのでしょう。終身雇用制なので、労働者にとっても企業が発展することが重要であり、あまり無理な要求をして企業が傾いてしまうと困る、ということもあったのでしょう。

企業別組合は、現在でも変化しておらず、昔のままです。ただ、労働組合の存在感は昔よりだいぶ薄れています。最近は、非正規労働者が増えていますが、彼らは労働組合に入らないのが普通のようですし、正社員のなかにも労働組合に入らない人が増えているからでしょう。

他企業や銀行との取引も、長期的視点を重視!

以上、日本企業と労働者の関係について特徴を述べてきましたが、日本企業は取引先や銀行との取引も長期的安定的な関係を重視する特徴があります。部品の仕入れも資金の借り入れも、同じ相手と行なっていれば「前回どおりで」というだけで打ち合わせが終わり、便利だ、というメリットが得られるでしょう。

一方、米国企業は毎回入札を行って、いちばん安い所から部品を仕入れたり、資金を借り入れたりするのが一般的です。これは一長一短ですが、文化的歴史的な違いが影響しているのでしょう。

日本では、同じ村のなかで同じ相手と商売をするのが普通でしたが、米国では大西洋を渡ってきた人たちが一攫千金を目指して移動を繰り返しながら「その時々で最も有利な契約」をしようと考えていたわけで、その名残なのでしょう。

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

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塚崎 公義 経済評論家

(※写真はイメージです/PIXTA)