ベネッセが中高生に実施したアンケートによると、現役中高生のなりたい職業の1位は「教師・教員・大学教授」でした。また、職業別の平均年収ランキングでは10位(小・中学校教員)と、収入面でも魅力的な「教師」という職業ですが、現役東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師は「教師が抱える健康リスク」について警鐘を鳴らします。教師という職業の「収入面」と「健康面」を詳しくみていきましょう。

あこがれの職業「教師」…その実態は?

教師という職業は、多くの人々にとって尊敬される存在です。みなさんも一度は教師になりたいと思ったことはないでしょうか?

一方、近年では各メディアが「教師の過酷さ」を取り上げたり、またSNSでは現役の教師が「激務すぎて辞めたい」「拘束時間長くてきつい」などと投稿したりと、ネガティブな面も話題になっています。

教師とは、勉強だけでなく、勉強や社会のルール、道徳を教え、成長へと導く大人のことを指します。その仕事のためには生徒たちのお手本となり、時に厳しく、時に優しく、生徒、養育者、同僚ら教育関係者等々さまざまな人との関係を築いていく、非常に難しい職業です。

教師の年収はどれくらい?

では、そんな「尊敬されるべき」教師の年収はどれくらいでしょうか?

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、小・中学校教員の平均年収は約739万7,200円、高校教員は約677万5,000円だそうです。

また、構成をみてみると平均年齢が大体42〜43歳、大卒が90%以上。さらに、高校の先生になると、博士課程まで学歴を積んだ人が1割強にも達しており、知識の深さ・学歴の高さがうかがえます。

そう考えると、高校教師の平均年収が小・中学校の教師よりも低いのは意外な結果です。しかしこれは、後述しますが、勤務時間の問題が関係しています。

令和3年度の国税庁の調査によると、日本人の平均年収は443万と言われていることから、教師は比較的高収入な職業といえるでしょう。もっとも、その学歴の高さや平均年齢などを考えると「妥当」な年収といえそうです。

さまざまな体の不調が…教師につきまとう「健康リスク」

教師は、非常に忙しい職業の1つです。生徒たちの学力を上げるのはもちろんのこと、生徒が精神的にも身体的にも健やかになるように、日々奮闘しています。

学校全体の行事のスケジュール管理はもちろん、生徒一人ひとりへのケアやスケジュール管理、テストの採点、宿題の管理、さまざまな生徒間のトラブルへの対処などなど……教師の業務は枚挙にいとまがありません。

そのため、教師もさまざまな健康リスクがあることは、多くの論文で言われています。

たとえば、複数の研究をまとめた論文※1によると、学校の種類に関係なく、実際に下記のような健康リスクが言われています(%はアンケート調査で教師が健康被害を訴える確率)。

※1 Teachers’ Health. Dtsch Arztebl Int. 2015 May; 112(20): 347356.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4558646/)

  • 首や背中の痛み:71~73%
  • 集中力の低下や物忘れ:59~72%
  • 睡眠障害:34~44%
  • 頭痛:43~52%
  • 内面のおちつきのなさ:29~41%
  • かすみ目:25~38%

他にも、極度の疲労と倦怠感、緊張、過敏性の増加など、さまざまな健康リスクがあります。

10人中、7人の教師が首や背中の痛みを感じ、集中力の低下も半数以上、睡眠障害も3〜4割も感じているのは、かなりの健康被害といえます。

教師にはなぜここまで多くの健康被害があるのでしょうか。

首や背中の痛みの原因

たとえば首や背中の痛みは、特に現場で働く教師は授業中ずっと立ちっぱなしであることがあげられています。また、黒板を用いて講義をする際、首を上に向ける動作が多いことも考えられます。

時間外労働「45時間以上」で心理的苦痛が大幅に増加

また日本の研究※2によると、長時間労働によって心理的苦痛が大幅に増加することがいわれています。特に、月に45時間以上の時間外労働をしている男性では、心理的苦痛のリスクが大幅に増加しているという報告もあるのです。

※2 Long working hours and psychological distress among school teachers in Japan. J Occup Health 2015; 57: 20–27(https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/57/1/57_14-0127-OA/_html/-char/ja)

他にも、教師はさまざまな人間関係によって心理的苦痛を感じやすいとされており、「燃え尽き症候群」にいたる教師も少なくありません。

さらに、心理的苦痛の有病率は男性(47.8%)よりも女性(57.8%)のほうが高いとされています。

その背景として、

  • 女性は長時間労働に加えて家事が加わり男性よりも余分に仕事しやすいこと
  • 女性にとって長時間労働はあまり一般的ではなく、仕事と家庭の対立などの観点からよりストレスがかかる可能性があること

が同論文ではあげられています。

要するに、特に日本では、夫が欧米諸国に比べて家事に費やす時間が短いため、女性は男性よりも家庭生活の影響を強く受けやすい、ということですね。

また、教師特有の人間関係も精神的ストレスにつながります。教師間での人間関係はもちろんのこと、生徒も含めると教師は独自の人間関係のネットワークがあり、また社会も閉鎖的になりがちです。

また、教師は「対人サービス」が基本になっています。そのため、いろいろな場面で気を遣う必要があるのでしょう。

このように、教師はさまざまな健康リスクを抱えながら、生徒たちのために奮闘していることが論文上でもうかがえます。

年収は高いが…教師という職業は「割にあわない」?

ここまで、教師という職業を見てきてどのように感じましたか?

平均年収をみると高収入に感じますが、その分「身を削って」働いているといえます。教師という職業の年収と健康リスクを鑑みると、割にあわないのでは……と感じた人も少なくないかもしれません。

生徒たちのために奮闘する教師という職業。本当に尊敬します。社会全体の水準を高めるのにも欠かせない職業だと思いますし、これからも頑張ってほしいです。

だからこそ、教師が「なりたくない」職業にならないように、みんなでもっと教師を認め、精神的負担を強いるようなことがないようにしたいものです。

教師の質がもっと高まり、いい人材がもっと教師になり、その教師が人を育て社会全体がよりよい人材にどんどん活性化される……そんな社会になっていくことを心から願っています。

秋谷 進

東京西徳洲会病院小児医療センター

小児科医

【参照・参考文献

国税庁「民間給与実態統計調査」(https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan/top.htm)

厚生労働省Jobtag「中学校教員」(https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/180)

厚生労働省Jobtag「小学校教員」(https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/179)

厚生労働省Jobtag「高等学校教員」(https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/183

・Teachers’Health.DtschArzteblInt.2015May;112(20):347356.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4558646/)

Long working hours and psychological distress among school teachers in Japan.J Occup Health 2015;57:20–27(https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/57/1/57_14-0127-OA/_html/-char/ja)

文部科学省令和元年度学校教員統計調査」学校教員統計調査-令和元年度(確定値)結果の概要(https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/kekka/k_detail/1395309_00001.htm)

文部科学省令和3年度公立学校教職員の人事行政状況調査について(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/jinji/1411820_00006.htm)

文部科学省公立学校教員採用選考(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1243155.htm)

・e-stat.政府統計の総合窓口.統計で見る日本.令和3年賃金構造基本統計調査(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450091&tstat=000001011429&cycle=0&tclass1=000001164106&tclass2=000001164107&tclass3=000001164111&tclass4val=0)

・教員環境の国際比較.OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書(https://www.nier.go.jp/kokusai/talis/pdf/talis2018_summary.pdf) ・文部科学省.「教員不足」に関する実態調査(

https://www.mext.go.jp/content/20220128-mxt_kyoikujinzai01-000020293-1.pdf)

・佐野秀樹,蒲原千尋.教員ストレスに影響する要因の検討.東京学芸大学紀要2013;64:189-193(https://core.ac.uk/download/pdf/15925628.pdf)

・中澤篤史.部活動顧問教師の労働問題.日本労働研究雑誌2017;688:85-94(https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2017/11/pdf/085-094.pdf)

9.神谷拓『運動部活動の教育学入門─歴史とのダイアローグ』大修館書店,東京,2015

(※写真はイメージです/PIXTA)