「愛」には「恋愛」「親子愛」「自己愛」など様々な種類があり、それらを表現する方法も多種多様です。

辞書を開けば文章で説明されており、神経の働きや分泌される物質によって違いを客観的に示すこともできるでしょう。

また主観的に自分が抱く愛の気持ちを言葉や行動で表現することもできます。

今回、フィンランドのアールト大学(Aalto University)神経科学・医工学部に所属するペルティリ・リンネ氏ら研究チームは、視覚的な方法で様々な愛を表現することにしました。

人々がそれぞれの愛を身体のどこで感じるか主観的に示してもらい、それらを身体マップとしてまとめたのです。

研究の詳細は、2023年9月5日付の学術誌『Philosophical Psychology』に掲載されました。

目次

  • 主観的な感情を「身体マップ」で表現する取り組み
  • 愛を感じる身体の部位はその種類によって大きく異なる

主観的な感情を「身体マップ」で表現する取り組み

活性化した部位を塗って「身体マップ」を作る
Credit:Canva

今回研究チームは、人々が愛を抱いた時に、それが身体のどこで、どの程度強く感じられるかを示す「身体マップ」を作成しました。

実験の参加者には、身体のシルエットを示したシンプルな絵が渡されます。

そして各自が、主観に沿って、愛を感じた時にどの部位がどの程度活性化したか、輪郭内を塗りつぶして表現しました。

これら参加者の主観的な情報をまとめたものが「身体マップ」であり、人々の感覚とその傾向を知るのに役立ちます。

あまり聞いたことのない方法ですが、この手法が用いられたのは、今回が初めてではありません。

様々な感情の身体マップ
Credit:Lauri Nummenmaa(Aalto University)et al., The Proceedings of the National Academy of Sciences(2013)

2013年、アールト大学の研究チームは、この身体マップを使って、怒り、嫌悪、恐怖、悲しみ、驚きなどの14の感情によって身体のどこが活性化されるか示しました。

人々は、愛(love)や幸福(happiness)が全身を活性化すると感じており、憂鬱(depression)はその真逆でした。

また、怒り(anger)が腕を活性化しているのも興味深い情報だと言えます。

人々の「カッとなって手を出したくなる」感覚がよく表現されていると言えますね。

2018年には、フィンランドの研究グループが、より広範な「身体マップ」を作成し、認知機能、身体状態、病気などと主観的な感情がどのように関連するか調べました。

そして今回、リンネ氏ら研究チームは、様々な感情の中から「愛」だけをピックアップし、人々の主観的な身体マップを作ることにしました。

愛を感じる身体の部位はその種類によって大きく異なる

愛を身体のどこで感じているか調査する
Credit:Canva

研究チームは、ロマンチックな愛、性的な愛、親が抱く愛、友人への愛、見知らぬ人への愛、自然への愛、神への愛、自分自身への愛など、27種類の愛について調査しました。

オンライン調査を通して参加者に自分の身体マップを描いてもらい、合計539(男性62、女性426、その他51)件のデータを使用しました。

参加者の多くは、高等教育を受けている若い女性だったようです。

そして参加者たちは、それぞれの種類の愛を身体のどこで感じたか、そしてその愛が肉体的および精神的にどれくらい強かったか、主観的に表現しています。

これらの情報をまとめて分析した結果、研究チームは、次の点を知ることができました。

まず、あらゆる種類の愛は頭で感じられるが、身体の他の部分では、愛の種類によって活性化が大きく異なるようです。

胸に広がるケースもあれば、体全体に広がるケースもあったのです。

愛のタイプ別「身体マップ」。黄色になるほど人々は活性化されたと感じている
Credit:Pärttyli Rinne(Aalto University)et al., Philosophical Psychology(2023)

例えば、恋愛の理想としてしばしば扱われるロマンチックな愛(romantic love)」は、胸を中心に上半身全体が強く活性化されています。

また「性的な愛(sexual love)」では、下腹部の活性化が特徴的です。

母親の子供に対する愛(mother‘s love for her child)は、胸が非常に強く強調されており、「心を傾けて愛情を注ぐイメージ」が強いのかもしれません。

ちなみに、「真実の愛(true love)」や「命に対する愛(love for life)」が身体全体で感じているのに対し、「道徳的な愛(moral love)」などは主に頭だけで感じているようです。

さらにリンネ氏は、身体全体で感じるタイプの愛と快感の間に強い相関関係があることも発見しました。

「ある種の愛が身体で強く感じられるなら、それが心でも強く感じられ、より心地よい感覚になる」というのです。

加えてリンネ氏は、愛には文化的な違いがあると指摘しています。

例えば同じ調査が宗教色の強いコミュニティで実施された場合、「神への愛」が際立つ可能性があるのです。

もちろん今回の身体マップは、人々の主観的なデータをまとめたものなので、身体的な機能との関連性を科学的に証明しているわけではありません

それでも様々な愛の違いを表現する方法としては興味深いものだと言えます。

ある種の愛については、同感できるものがあったのではないでしょうか。

私たちが日々抱く様々な愛について「自分はどこで強く感じているだろか?」と考えてみるのも楽しいかもしれません。

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参考文献

Where do we feel love? https://www.aalto.fi/en/news/where-do-we-feel-love Where in our bodies do we feel love (and other emotions)? https://newatlas.com/health-wellbeing/where-bodies-do-we-feel-love-other-emotions/

元論文

Body maps of loves https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09515089.2023.2252464
あなたは「愛」を体のどこで感じている?珍しい調査研究