60歳で定年を迎えたのち、再雇用で会社員を継続。年金受給の始まる65歳に会社員を引退し、夫婦の第二の人生が始まる……しかしすべての夫婦が上手くスタートを切れるとは限りません。みていきましょう。

夫の死で母子世帯となった専業主婦…6割が仕事復帰

――あなた、お願い、目を覚まして!

夫婦である以上、いずれ訪れるパートナーとの別れ。「おじいちゃんおばあちゃんになったら……」など老後の話をしていたからといって、お互いが仲良く老後を迎えられるとは限りません。

厚生労働省令和3年度全国ひとり親世帯等調査』によると、夫との死別により母子世帯となっているのは6万3,378世帯。さらに母子世帯になったタイミングについてみていくと、平均年齢は40.3歳。日本の平均的な夫婦の男女の年齢差から考えると、夫は43歳くらいでしょうか。さらに子ども(末っ子)の年齢は、平均6.7歳。ボリュームが最も多いのは「0~2歳」で全体の28.5%を占めます。

育ち盛りの子どもがいるにも関わらず、夫と死。気がかりなのは、やはりお金のことです。仕事をしていればその先の生活も想像できますが、仕事を辞めて専業主婦だったら、先行きの不透明感は増すでしょう。

夫との死別時点での妻の就業状況をみていくと、「就業していた」は69.2%と7割。残りの3割は無職=専業主婦の状態にありました。さらに就業者に従業上の立場をきいていくと、最多は「パート・アルバイト」で49.9%。「正社員・正職員」が30.1%、「家族従業者(自営業主の家族で、その自営業主の営む事業に従事している人)」が5.4%、「自営業」が4.0%と続きます。

そして現在の就業状況を聞いてみると、「就業している」は81.8%、「無職」は9.2%。夫の死を機に、専業主婦だった妻の6割は、働きに出ることを選択しています。

ちなみに、現在就業している人で、何かしらの資格を有していると回答があった割合は65.0%。そのうち、その資格が現在の仕事に役立っていると回答した者の割合は67.0%でした。「資格が役になっている」という回答が多かったのが、「理学療法士」「准看護師」「看護師」「介護福祉士」と専門性の高いもので、90~100%近くが「役に立っている」と回答。一方、誰もが取得できる資格で比較的有効だと考えられるのが「パソコン」関連の資格。6割強の人が「役に立っている」と回答しています。

遺族に支払われる「遺族年金」だけでは生活できないのか?

43歳の夫と、40歳の妻、そして小学生の子ども。そんな幸せな家族に襲う、夫の死。母子世帯となってしまった妻たちは、この先の生活を考えてでしょう、仕事を辞めて専業主婦になっていた場合でも、その6割は再び働きに出ています。

通常、公的年金の被保険者が亡くなった場合、残された遺族に遺族年金が支払われます。それだけで専業主婦のままでいるのは難しいのでしょうか。

まず受け取ることができるのは「遺族基礎年金」。亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が受給対象で、妻は子が18歳になった年度の3月31日まで受け取ることができます。その金額は「79万5,000円+子の加算額」。子どもの加算額は、1人目と2人目の子は各22万8,700円、3人目以降は、各76,200円。上記であれば年間102万3,700円。1ヵ月あたり8万5,000円ほどです。

*障害年金の障害等級1級または2級の状態にあれば、20歳未満まで。また子どもは婚姻していない場合に限る。被保険者が死亡したとき、胎児であった子も出生以降は対象となる

そして、次に手にできるのが遺族厚生年金。配偶者や子などが受給対象者で、その年金額は死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。ただし、報酬比例部分の計算において、厚生年金の被保険者期間が300ヵ月未満の場合は、300月とみなして計算します。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』において、40代前半・正社員男性の平均給与は月収で37万円、年収で616万円。仮に20~43歳まで平均的な給与を得てきた仮定すると、月4.2万円ほどの遺族厚生年金がもらえる計算です。つまり、これら2つを合算すると、月13万円弱の遺族年金がもらえることになります。ちなみに遺族年金は課税対象外です。

月13万円。遺族年金が残された家族の生活を保障するものなどと考えていたら、「たったこれだけ……」と唖然とする金額かもしれません。東京都23区、小学生の子と40代の母の生活保護費は19万6,160円(住宅扶助基準額、児童養育加算含む)ですから、最低限の生活を考えても、母子が遺族年金だけで生活していくのは無理があります。

ほかにも貯蓄があったり、生命保険があったりするでしょうが、子どもの将来や自身のこの先を考えると、これらを取り崩して生活するのは避けたいところ。「働くしか、ないわね」と意を決して就職活動を始めるしかありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)