東南アジア5カ国は今、景気減速傾向にあり、経済成長のペースは鈍化しています。しかしながら来年度からは輸出産業の回復による兆しが見える可能性があるでしょう。本稿では、ニッセイ基礎研究所の斉藤誠氏が東南アジア経済について見通します。

要旨

1. 東南アジア5カ国は景気減速傾向にある。2023年4-6月期はインドネシアだけが堅調さを保ったが、その他4カ国は期待外れの結果だった。経済の貿易依存度の高いタイとマレーシアベトナムは輸出低迷に苦しんでおり、フィリピンは物価と金利の高止まりにより民間消費の勢いが弱まり、3四半期連続で成長率が低下した。

2. 消費者物価上昇率は昨年後半から今年初にかけてピークアウトして低下傾向にある。当面は各国中銀の金融引き締めにより落ち着いた水準で推移するだろうが、その後はエネルギー価格の物価押し下げ効果が弱まると共に、サービス価格の上昇が続くなかで再び上向くと予想する。

3. 金融政策は利上げ局面が終了、来年は利下げ局面に入るだろう。年内は周辺国に先行して金融引き締めに転換しているベトナムが追加利下げを実施し、来年は米国の利下げ転換をきっかけにインドネシアフィリピンが段階的な金融緩和を実施すると予想する。

4. 経済の先行きは、年内は輸出低迷や金融引き締めの累積効果が景気の押し下げ要因となり昨年と比べて成長ペースが落ちるが、2024年は輸出の持ち直しと内需の堅調な拡大により回復に向かうと予想する。

■目次 1.東南アジア経済の概況と見通し ・経済概況:輸出低迷による成長鈍化が継続 ・物価:当面はエルニーニョ現象による食品価格上昇が上振れリスクに ・金融政策:利上げ局面は終了、来年は利下げ局面へ ・経済見通し:年内は輸出低迷で緩慢な成長、来年は輸出持ち直しにより回復へ

2.各国経済の見通し 2-1.マレーシア 2-2.タイ 2-3.インドネシア 2-4フィリピン 2-5.ベトナム

1.東南アジア経済の概況と見通し

(経済概況:輸出低迷による成長鈍化が継続) 東南アジア5カ国(マレーシア、タイ、インドネシアフィリピンベトナム)の経済は成長ペースが鈍化傾向にある。

昨年は各種コロナ規制の緩和に伴う経済活動の正常化やインバウンド需要の回復、ペントアップ需要の顕在化により対面型サービス業を中心に回復して、景気は順調に推移したが、10-12月期以降は世界経済の減速や資源価格の下落により輸出の低迷が続いている。

インバウンド需要の持続的な回復によるサービス業の雇用改善や政府のインフラ開発、そして足元のインフレ鈍化を受けて内需は底堅さを保っているが、金利上昇が家計や企業を圧迫しており輸出の落ち込みを相殺できず、各国の成長ペースは減速している。

2023年4-6月期の実質GDP成長率(前年同期比)をみると、インドネシア(同+5.3%)とベトナム(同+4.1%)の2カ国はが前期から上昇した一方、フィリピン(同+4.3%)とマレーシア(同+2.9%)、タイ(同+1.8%)の3カ国は前期から低下した(図表2)。

コロナ禍前(2019年)の成長率と比べると、インドネシアだけが堅調さを保っているが、その他4カ国は期待外れの結果だった。経済の貿易依存度の高いタイとマレーシアベトナムは輸出低迷に苦しんでおり、フィリピンは物価と金利の高止まりにより民間消費の勢いが弱まり、3四半期連続で成長率が低下した。

(物価:当面はエルニーニョ現象による食品価格上昇が上振れリスクに) 東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は昨年後半から今年初にかけてピークをつけた後、鈍化傾向にある(図表3)。

昨年はウクライナ危機によりサプライチェーンの混乱が悪化して商品価格が幅広く上昇、また米利上げ開始により東南アジア通貨が減価して輸入インフレが生じたほか、国内では経済活動の正常化が進み需要面からの物価上昇圧力が働いて各国インフレが加速した。

しかし、昨年後半からはエネルギー価格の下落や各国中銀の金融引き締め、そして年明けからは国内経済の減速も加わりインフレが鈍化している。

先行きのインフレ率は、当面はエルニーニョ現象による干ばつの影響で食品インフレのリスクが残るが、各国中銀の金融引き締めにより落ち着いた水準で推移するだろう。その後はエネルギー価格の物価押し下げ効果が弱まると共に、サービス価格の上昇が続くなかで再び上向きに転じるものとみられる。

来年は輸出の持ち直しや金融緩和により各国経済が回復に向かうなか、緩やかなインフレが続くと予想する。

(金融政策:利上げ局面は終了、来年は利下げ局面へ) 東南アジア5カ国の金融政策は、昨年コロナ禍からの国内経済の回復とインフレの加速、米国の利上げによる自国通貨安を受けて金融引き締めを開始した(図表4)。

直近の金融政策会合では、タイが8月の会合で先行きのインフレ加速を警戒して+0.25%の追加利上げを実施したが、各国中銀は概ね利上げ局面を終了している。ベトナムについては輸出低迷により経済の減速傾向が強まる中、今年3月から4カ月連続で政策金利を引き下げるなど周辺国に先行して金融引き締めに転換している。 先行きは景気下支えのための金融緩和を実施する国が出てくると予想する。足元の各国の景気・物価は鈍化傾向が続いており、年内はべトナムが成長目標の達成に向けて追加利下げを実施するだろうが、その他の国は先行きの食品インフレのリスクを警戒して金融政策を据え置くだろう。

来年は米国の利下げ転換を受けて自国通貨の減価圧力が和らぐなか、昨年から積極的に金融引き締めを実施していたインドネシアフィリピンが景気下支えのために段階的な金融緩和を進めると予想する。

(経済見通し:年内は輸出低迷で緩慢な成長、来年は輸出持ち直しにより回復へ) 東南アジア5カ国の経済は、年内は輸出低迷や金融引き締めの累積効果が景気の押し下げ要因となり昨年と比べて成長ペースが落ちるが、2024年は輸出の持ち直しと内需の堅調な拡大により回復に向かうだろう。 外需は年内はサービス輸出の堅調な拡大が続くものの、外需の鈍化と資源価格の下落により財貨輸出が低迷して成長率の押し下げ要因となるだろう。

しかし、足元で半導体市況は底入れしており、2024年は東南アジア各国でも電気・電子機器の輸出が回復に向かうとみられる。サービス輸出はこれまでのような高成長は望めないものの、主に中国人観光客を中心としたインバウンド需要の回復により増加傾向が続くとみられる。

内需は堅調を維持すると予想する。当面は金融引き締めの累積効果が引き続き家計や企業活動を圧迫するため内需を下押しするとみられるが、民間消費は高インフレの沈静化や観光関連産業の持続的な回復に伴う雇用環境の安定により堅調な伸びを維持するだろう。

また投資は当面は輸出型製造業の設備投資が停滞して伸び悩むだろうが、政府のインフラ整備計画の加速、そしてサプライチェーンの多様化による東南アジアへの直接投資の流入が下支えとなり底堅さを保つと予想する。

そして2024年は輸出関連産業の設備投資が回復するだろう。またベトナムに続いてインドネシアフィリピンも金融緩和に転じる予想しており、これら3カ国では借入コスト上昇による内需の下押しが次第に和らぐものとみられる。 以上の結果、輸出が低迷する2023年はコロナ禍の反動で高成長だった2022年から成長率が低下する国が多いが、2024年は外需の回復により成長率が上昇すると予想する(図表4)。

2.各国経済の見通し

2-1.マレーシア

マレーシア経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+2.9%となり、1-3月期の同+5.6%から減速、約2年ぶりの低成長となった。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、通年の成長率が前年比+8.7%(2021年:同+3.1%)と大きく上昇したが、現在は外需の落ち込みとマイナスのベース効果により成長ペースが鈍化している(図表6)。 4-6月期の景気減速は外需の更なる悪化が主因となった。

まず財貨輸出(前年同期比▲9.4%)は海外需要の低迷により電気・電子産業をはじめとする輸出志向の製造業が振るわず減少幅が拡大した。また民間消費(同+4.3%)はペントアップ需要の剥落やマイナスのベース効果により増勢が鈍化した。

一方、マレーシアは昨年4月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要が拡大しておりサービス輸出(同+41.4%)の大幅な増加が続いた。また総固定資本形成(同+5.5%)は公共投資の複数年にわたる投資プロジェクトの継続的な実施により加速した。 先行きのマレーシア経済は外需の停滞を内需が下支えする形となり年後半も緩やかな成長が続きそうだ。輸出はインバウンド需要の回復によるサービス輸出の増加が続くものの、世界経済の減速により財貨輸出の停滞が予想されるほか、借入コストの増加や先行き不透明感の強さから民間投資が伸び悩むだろう。

しかし、2023年度国家予算は開発支出予算が前年度比35.5%増の970億リンギに拡充されており、大型インフラ事業の継続が投資の下支えとなるだろう。また民間消費はベース効果の影響により鈍化するが、観光業の回復による労働市場の安定やインフレの鈍化、アンワル政権の低中所得層に対する生活支援策が下支えとなり底堅い伸びを維持するだろう。 金融政策は、マレーシア中銀が昨年5月から段階的に利上げを実施し、政策金利を1.75%から3.00%まで引き上げたが、直近2会合は据え置かれている(図表7)。

7月の消費者物価上昇率は前年同月比+2.0%と、昨年8月から低下傾向にあり、23年後半もベース効果と内需の緩慢な成長により低めの水準で推移するとみられる。マレーシア中銀は金融政策の正常化を遂げており、24年も政策金利を現行水準で維持すると予想する。 実質GDP成長率は2023年が+3.8%(2022年:+8.7%)と低下するが、2024年が+4.4%と上昇、半導体サイクルの回復や政府の新産業マスタープランによる投資拡大を受けて内需を中心に回復すると予想する。

2-2. タイ

タイ経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+1.8%となり、1-3月期の同+2.6%から低下した。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、7-9月期には成長率が同+4.6%と加速したが、現在は輸出悪化が重石となり成長ペースが減速している(図表8)。 4-6月期の景気減速の主因は、輸出低迷が続く中で投資が鈍化した影響が大きい。財貨輸出(前年同期比▲5.7%)は世界経済の減速による外需の悪化やソリッドステートドライブ(SSD)の普及を背景とするハードディスクドライブHDD)の需要減退等が響いて減少した。

また投資(同+0.4%)は輸出型製造業の業績悪化や原材料コストの上昇、インフラプロジェクトの減少により停滞したほか、政府消費(同▲4.3%)がコロナ関連の支出減少により低迷した。

一方、昨年からの入国規制の緩和により外国人旅行者数が回復してサービス輸出(前年同期比+54.6%)の好調が続いた。またGDPの約2割を占める観光関連産業の回復による雇用情勢の改善、高インフレの鈍化により家計の購買力が向上して民間消費(同+7.8%)が加速した。 タイ経済の先行きは、観光業の回復と民間消費が牽引役となり回復軌道に戻ると予想する。外国人観光客数は中国からのフライト数が増加して2022年の1,120万人から2023年に少なくとも2,800万人、2024年には2019年と同規模の約4,000万人まで回復すると予測されておりサービス輸出の好調が続くものとみられる。

また民間消費は観光関連産業の回復に伴う雇用環境の安定や高インフレの沈静化、来年実施される新政権の景気対策(1万バーツのデジタル通貨給付やエネルギー料金引き下げ、観光促進策)などにより堅調に推移するだろう。

一方、財貨輸出は当面は主要貿易相手国の景気減速により停滞するほか、投資は年内まで借入コストの増加、10月に始まる2024年度予算の執行の遅れなどにより緩慢な成長が続くだろうが、その後は海外需要の持ち直しや政治的不透明感の解消、政府予算の執行加速により輸出と投資が回復に向かうだろう。 金融政策はタイ銀行(中央銀行)が昨年8月以来7会合連続の利上げを実施、政策金利は0.5%から2.25%まで引き上げられている(図表9)。8月の消費者物価上昇率はエネルギー価格の低下により前年同月比+0.9%まで低下して中銀の物価目標(+1~3%)を下回っている。

タイ中銀はインフレの沈静化と家計債務の高止まりを考慮して金融引き締めを終了し、来年は国内経済の回復や最低賃金の引上げによる物価上昇を受けて政策金利を現行水準で維持すると予想する。 実質GDP成長率は2023年が+2.9%(2022年:+2.6%)、2024年が+3.5%と緩やかに上昇すると予想する。

2-3. インドネシア

インドネシア経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により2022年の成長率が前年比+5.3%(2021年:同+3.7%)と上昇するなど景気回復が続いている。そして2023年4-6月期は実質GDP成長率が前年同期比+5.2%(前期:同5.0%増)と過去3四半期で最も高い水準となり、順調な成長が続いていることが明らかとなった。(図表10)。 4-6月期は内需の回復により成長が加速した。GDPの半分以上を占める民間消費は同+5.3%(前期:同+4.58%)と上昇した。今年6月に国内外での移動や大規模イベント、公共施設でのマスク着用義務が廃止されるなど一連のコロナ規制の緩和により経済正常化が続いたほか、インフレ鈍化により実質所得の目減りが和らいだことも消費の追い風となったとみられる。

また投資は同+4.63%(前期:同+2.1%)と改善したものの、金融引き締めや先行き不透明感の強さから企業の様子見姿勢が強かった。一方、外需は外国人観光客数がコロナ禍前の8割強の水準まで回復するなどサービス輸出(同+43.14%)の大幅な増加が続いたが、世界経済の減速とパーム油や石炭など主力輸出品の価格下落により財貨輸出(同▲5.6%)が急減した。 先行きのインドネシア経済は、当面は外需の悪化により成長ペースは鈍化するものの、内需に下支えられる形で+5%弱の成長で推移するだろう。まず輸出はインバウンド需要の増加に伴うサービス輸出の増加が続くものの、中国経済の減速や商品市況の調整により財貨輸出が停滞するだろう。

また内需は、民間消費がインフレ鈍化や雇用環境の安定に加え、2023年後半は選挙関連の支出により堅調を維持すると予想する。投資は政府のインフラ整備計画の進展(24年度予算案のインフラ予算は前年度比+5.8%)により公共投資が下支えとなるが、大統領選挙を控えて企業が投資判断を先送りするため民間部門を中心に伸び悩むだろう。

しかし、来年は未加工鉱石の禁輸措置や財政健全化などのマクロ経済の安定を背景とする海外からの投資流入、政治的不透明感の解消、金融緩和に支えられて持ち直しに向かうものとみられる。 金融政策は、インドネシア中銀が昨年8月に金融引締めに転換し、政策金利は過去最低の3.5%から5.75%まで引き上げられたが、直近7会合は据え置かれている(図表11)。

8月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.3%となり、エネルギー価格の低下、農作物の安定供給により中銀の物価目標圏内(+2~4%)まで鈍化している。当面は金融引き締めの影響により低水準で傾向で推移するだろうが、燃料・食品価格の上昇リスクや通貨の安定を優先してインドネシア中銀は年内まで政策金利を据え置き、来年から段階的な金融緩和に舵を切ると予想する。 実質GDP成長率は2023年が+5.0%(2022年:+5.3%)と低下するが、2024年が+5.1%に小幅に上昇すると予想する。

2-4フィリピン

フィリピン経済はコロナ禍からの経済活動の正常化により、2022年は実質GDPが前年比+7.6%(2021年:同+5.7%)と好調だったが、2023年4-6月期の成長率は前年同期比+4.3%(1-3月期:同+6.4%)と低下し、過去2年間の+6%以上の高成長から鈍化した(図表12)。 4-6月期は内需の鈍化が景気減速に繋がった。GDPの約7割を占める民間消費(同+5.5%)は雇用環境の改善や海外就労者の送金額の増加を支えに底堅く推移したが、物価高と金融引き締め策(累計利上げ幅4.25%)に加え、前年同月の大統領選挙実施の反動減やリベンジ消費の一巡により前期の同+6.4%から鈍化した。また金利高による投資の鈍化(前年同期比+3.9%)や政府支出の縮小(同▲7.1%)も成長の押し下げ要因となった。

外需は入国規制の緩和により外国人観光客数がコロナ禍前の6割強の水準まで回復するなどサービス輸出(同+9.6%)が好調だったが、海外経済の減速により電子部品(同+2.1%)や農産品(同▲25.1%)など主要輸出品の出荷が低調で財貨輸出(同▲0.9%)が引き続き減少した。 先行きのフィリピン経済は、年内は内外需の回復に時間がかかり景気の伸び悩みが続くと予想する。外需は、中国の経済再開に伴う中国人観光客の増加によりサービス輸出の増加が続くものの、世界経済の減速により財貨輸出が停滞するだろう。しかし、輸入も内需の鈍化により伸び悩むことで、外需の成長率への影響は限定的となりそうだ。 内需は引き続き積極的な金融引き締めの累積効果やペントアップ需要の一巡により成長ペースが緩やかなものとなるだろう。もっとも今後の更なるインフレ鈍化や今年7月のマニラ首都圏最低賃金引き上げ(非農業部門の上昇率+7.0%)により家計の実質所得の目減りが和らぐと共に、観光関連産業の持続的な回復により安定した雇用環境が続くだろう。更に24年度政府予算案で前年度比+15%となった大型インフラ整備計画が追い風となり、消費と投資は底堅い成長が続くものとみられる。 金融政策はフィリピン中銀が昨年5月に金融引き締めに舵を切り、政策金利(翌日物借入金利)を過去最低の2.0%から6.25%まで引き上げてきたが、今年5月の会合から据え置かれている(図表13)。

8月の消費者物価上昇率は前年同月比+5.3%となり、今年1月の同+8.7%をピークに低下してきたが、先行きのインフレ率は食品高により一時高止まりするが、金融引き締めの影響により再び低下して年末には中銀の物価目標圏内(+2~4%)に収まるだろう。従って、フィリピン中銀は年内まで現行の金融政策を据え置くが、来年は米国の利下げ転換を機に段階的な利下げを実施すると予想する。 実質GDP成長率は2023年が+5.2%(2022年:+7.6%)と低下するが、2024年が+5.9%に上昇すると予想する。

2-5.ベトナム

ベトナム経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+4.1%(1-3月期:同+3.3%)となり、2四半期連続で低成長が続いた(図表14)。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化により、通年の成長率が前年比+8.0%(2021年:同+2.6%)と大きく上昇したが、現在は輸出の落ち込みにより貿易依存度の高いベトナム経済の成長ペースが減速している 4-6月期の景気減速は製造業の悪化した影響が大きい。世界的なインフレと金利高の影響で海外経済が減速したため、主要工業品である電話や電気機器、繊維製品などの財貨輸出が落ち込み、製造業(同+1.2%)が緩慢な成長にとどまった。また昨年の大幅利上げをきっかけとする不動産不況により不動産業(同▲0.9%)も低迷した。

一方、サービス業(同+6.1%)は堅調な伸びを維持して製造業の落ち込みを補った。外国人観光客数の増加による観光関連産業の回復やインフレ鈍化に伴う家計の実質購買力の向上を受けて、文化スポーツ(同+11.4%)や卸売・小売業(同+9.0%)、宿泊・飲食業(同+7.7%)、運輸・倉庫業(同+7.7%)が好調だった。また建設業(同+7.1%)はベトナム政府が執行の遅れていた公共投資予算(2023年:前年比+23%増)を加速させて回復した。 先行きのベトナム経済は、2023年後半は財政・金融政策により持ち直しの動きが続くと予想する。政府は公共投資の執行加速に加え、付加価値税率と国産自動車登録料の引き下げ、観光促進策などの景気刺激策を実施しているほか、短期的にはベトナム中銀の追加利下げも予想される。今後は不動産・建設業が回復し、また観光業関連産業をはじめとしたサービス業の持続的な回復が続くだろう。

製造業は内需拡大を受けて上向くものの、年内は輸出の停滞により限定的な回復にとどまるだろう。しかしながら、多国籍企業のサプライチェーンを多様化する動きにより、1-8月累計の海外直接投資(FDI)の認可額は前年同期比+8.2%とプラス転化しており、製造業の生産能力は今後増加するものとみられる。2024年は輸出の回復を追い風に製造業が復調して景気の牽引役となるだろう。

雇用・所得環境の改善により消費需要が増加して、サービス業も堅調を維持すると予想する。 金融政策は、ベトナム中銀が昨年9月と10月にそれぞれ+1%(累計+2%)の利上げを実施したが、景気減速を受けて今年3月から4ヵ月連続で政策金利を引き下げている(公定歩合▲1.5%引下げ、リファイナンスレート▲1.5%引下げ)(図表15)。8月の消費者物価上昇率は前年同月比+3.0%と、政府目標の+4.5%を下回っており金融緩和の余地がある。中銀は景気回復を優先して追加利下げを実施し、その後はエルニーニョ現象による食品価格の高騰や電気料金引き上げによるインフレリスクに注視しつつ、政策金利を据え置くと予想する。 実質GDP成長率は、輸出低迷により製造業が鈍化して2023年が+4.7%(2022年:+8.0%)と低下して政府の成長目標(約+6.5%)を下回り、2024年が+6.2%まで上昇すると予想する。


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